第11話 英雄vs処刑人

「リースロートの、サーラさん?」




「そうだ、其の御方ならお前の中に居るソレの事も何とか出来るだろう。」


「え?この水の事を知っているの?」


「其の御方は何でも知っているんだよ、それと、安心していい、ソレはお前にとって危険なモノでは無い、其れ所かお前を護ってくれるだろう。


…さあ、行きなさい。」


「お父さんは?」


「俺は大事なお前を虐めた、此の馬鹿を懲らしめてやらんといかんからな、後から追い駆けるさ。」


ニカッと笑ってメルラーナを安心させる。


「そうだ、もし、困った事態が起こった時は、ソルアーノ国のギアナスという村に住むデューテというドワーフのご老人に会いなさい、力を貸してくれるかもしれん。」


「…うん、解った。」




祭壇を下りて行くメルラーナを見守った後、ジルラードはグレイグと対峙する。




「さて、第2ラウンドと行こうか?」


「…。」


グレイグは無言で大剣を構える事で応えると、其の姿を見たジルラードも大斧を構えた。




英雄と呼ばれる男と、自らを処刑人と名乗った男の激闘が、今始まろうとしていた。




大斧と大剣が激しくぶつかり合う、気を抜いて当たれば、間違いなく致命傷は免れない一撃一撃を張り詰めた緊張感の中で防ぎ、受け流し、躱す、そんな状況の中で。


「それで?【レシャーティン】は何故俺を狙うんだ?」


ジルラードは少し余裕を見せた態度でグレイグに話し掛ける。


「そんな事、聞かなくてもアンタ自身が一番良く解っているんじゃないのかい?」


「ふむ?」


「一国の将、其れも何ぞに自由に動き回られちゃ、迷惑なんだよ。」


「成程、だから八鬼将の二人が、いや、三人か?自ら出向いたという訳か。」


「!?…流石だね、そうさ、アンタの故郷でもある此の国なら、事を起こせば出向いてくれると思ったのさ。」


「ふむ、まんまと嵌められてしまった訳か。」


「いやいや、よく言うよ、態と嵌った癖に。」




そんな会話をしながらでも、激しい戦いは繰り広げられている。




「所で、後一人見当たらないが?」


「彼奴ならもう既に別の任務に就いているさ、皆暇じゃないんだ、僕達二人は偶々手が空いていたから、此の作戦が立案されたんだ。」


「そうか、其の作戦のせいで、娘はフォルネスに認められてしまった訳か。」




「…!…!」




下の方から叫び声が聞こえて来る、ジルラードは声の主を確認すると、其処にはジェフがもう一人の男と鍔迫り合いをしていた、少し離れた場所にはルイードが倒れている。


「…全く、…ジェフ!」




「!?」


ジェフは此方を見上げて何か呟いていた。




「退け、今はまだ、お前の手に余る。」


悔しそうな表情をするジェフ、気持ちは解らなくもない、大事な仲間が殺されたんだ、自身が鍛え上げた弟子だ、性格は良く解っている、だから。




「それと、此処を脱出するまで、娘を護ってやってくれないか?」




そう言うと、ジェフは既に下に降りていたメルラーナ合流し、部屋を後にした。




「世話の焼ける弟子だ。」


だが。


「…な?中々やるだろ?アイツ。」


今度はエアルに向かって声を掛ける。




「さて、聞きたい事はまだまだ有るのだが。」


グレイグの大剣が頭上より振り下ろされる、ジルラードはそれを紙一重で躱すと。


「実力で聞き出してみればいいのでは?と、言いたい所だが、実力では此方が不利だ、さて、どうしよう?」


「グレイグと言ったか?お前、少し変わってるな?」


此れまで戦いながらグレイグという男を観察していたジルラードがふとそんな一言を切り出す。


「へぇ?何故そう思うのかな?」


「…いや、別に大した意味はない、ただ。」


「ただ?」


「その図体と喋り方が合って無い。」


ビシッ、と人差し指でグレイグを指しながら一言。


「……ぷっ、あはははははははっ!」


突然笑い出すグレイグ、一頻り笑った後。




「…それで?それだけの情報で何処まで推理出来たのかな?」


「推理なんて偉そうなモンじゃないけどな、…お前、中身は別だな?」


「へぇ~?」


「遠隔操作でもしているのか?少なくとも、喋っている本人は此処には居ないだろう?」


「いいね!流石と言う冪かな?正解序でに良い事を教えて上げよう、此の身体は人間其の物を使っているんだ、つまり、食事も睡眠も必要だ、成長だってするし、鍛えれば強く成れる。」


「?何が言いたい?」


「だが残念ながら、どれだけ鍛えても、君との実力を埋めれる程甘くは無かった、それを踏まえた上で、今回の最大の実験を行うとしよう。」


グレイグは懐から何かを取り出す。




「コレな~んだ?」


「!?」




其の手の中には透明の、割れた硝子の様な物が有った。




「其れは!欠片か!」




「そう欠片さ!何の欠片かは当然知ってるよねぇ!此れを!」


グレイグは欠片を持っていた右手を頭上に上げ、大きく口を開けて上を向く。


「あーん。」


「ばっ、か野郎がぁ!!」


ジルラードはその欠片を飲み込ませまいとして、全身を使って遠当てを放つ、其の威力はメルラーナの非では無かった、グレイグの右手から手首、肘より上の腕、半分が跡形も無く弾け飛ぶ、だが。




「ごくん。」




欠片は既にその手の中には無く、グレイグの口の中へと消えて行った。




「うぐがあああああああああああああっ!!!!!!」




グレイグは、全身から汗が吹き出し、体中に血管の様な筋が浮き出している。




「ぐごおおおおっ!」


一頻り苦しんだ後、突然ジルラードに襲い掛かって来る。


「おお!?」


残った左手だけで大剣を振り回す。


「此奴、意識が途切れているのか?いや、操っている状態から解放されたと見る冪か?」




「があああっ!」


ドゴォッ!ドガッ!大剣を振り回し、轟音を撒き散らせながら、辺りを破壊しまくる、地面を抉り、柱を切り倒す、ジルラードは何度か撃ち込んでみるが、見事に防がれ、躱される。




「ふう、どうするかな?此れまで人が飲んだ事例は無かったが、此れ程とはな。」


距離を置いて遠当ての要領で右足から順番に全身に捻りを入れて斧を振る、すると斬撃が飛んだ、意識が無いせいか、飛んでくる斬撃に全く気付いた様子の無いまま、大剣を振り上げた所に。




斬。




ガランッ!


持っていた左腕毎、大剣が地面に落ちた、落ちた大剣の衝撃が引き金になったのだろうか。




ピシィ!




「ん?」


何かが割れる様な音が、ジルラードの足元から聞こえて来る。




ミシミシミシッ!


「!?やべぇ!」


次の瞬間、祭壇が崩れ始めた。




………


……





「団長!」


「エアルか?無事だったか。」


「はい。」


「もう一人の男はどうした?」


「…、申し訳ありません、逃げられました。」


「…、そうか。」




ジルラードは近寄って来たエアルに眼も暮れず、ただ一点だけを見つめていた、其処には、両腕を失くしたグレイグが一人で暴れまわって居る。




「アレを外に出す訳にはいかん、此処で仕留めるぞ!」


「了解!」


次の瞬間、ジルラードはその場から消えていた、後には祭壇だった瓦礫が衝撃波で吹き飛ばされる、ほぼ同時にグレイグの身体を、弧を描く様に斬撃が走り抜けた。


元居た場所からグレイグを通り過ぎた先で、ジルラードの姿が現れる、一方エアルはジルラードが移動した直ぐ後に弓を引いていた、但し、引いた矢は1本では無く、3本、放たれた3本の矢は互いに螺旋を描くように回転し始める、それはやがて、1本の大きな矢と成りグレイグの身体を貫き、大きな風穴を開けた、それを第一射として、連続で五射打ち抜く。


「うぐ、がああああ!」




苦しんで居る様にも見えるが、その身体は再生を始めていた、但し、元の身体では無く、何かの化け物の様な身体が生えて来る。




「やはり再生はするのか、だがその暇は与えない。」


ジルラードの姿は再び消える、今度はグレイグの目の前で止まり乱舞を始めた、グレイグは撃ち合いに応じる、目にも止まらない攻撃が、双方の身体を刻み込む、均衡に見えたその撃ち合いも、綻びが見え始める、意識が無いとは言え、メルラーナとの攻防で10秒間の間に40回程の斬撃を繰り出していたグレイグが、押され始めて来た、ジルラードはそれ以上の速度で切り刻んでいるという事に成る。


突然、押している筈のジルラードが後方へ退く、傷だらけに成っていたグレイグは反応が遅れ、追いかける事が出来なかった、其処へ、頭上からグレイグを目掛けて無数の光の矢の雨が降り注ぐ。




ドドドドドッ!




既に身体はボロボロに成っていたが、何とか矢の雨を凌いだ、が、既に追撃は行われていた、ジルラードが大斧でグレイグの首を刎ねる、くびが無くなった身体は、膝から地面に崩れ落ち、動かなくなった。




「恐ろしいな、あんな小さな欠片一つを、強者に飲ませるだけで此の有様だ。」


跡形も無く崩れ去った部屋の内部を見渡す。


「でも、無事に討伐出来ましたよ?」


「無事…、では無いな、左腕の骨が折られた。」


サラッととんでもない重症を語るジルラード。


「…は?えええええ!?だ、大丈夫なんですか!?す、直ぐに治癒魔法を、あああっ!私使えなかったああああ!」


「煩いな、静かにしろ!」




ピシィ!




その時、部屋中で何かが割れる様な音が木霊した。




「「あ。」」




ドドドドドッ!


崩れ去って行く遺跡は、戦いの激しさを物語っている様に見えた、しかし、崩壊した本当の理由は、御神体がその場から持ち出されたからかも知れない、もう二度と入る事の出来なくなった此の遺跡に、真実を知る為の物は何一つ残っては居なかった。










崩れ行く遺跡を遠くから見つめている男が居る、男の名はギース、今回の虐殺事件を起こした張本人だ。




「グレイグ、おい、グレイグ。」


周りには誰も居ないにも関わらず、ギースは相方の名前を呼び続ける。




此処は遺跡から海を越えて遠く離れた街の一角、その中のたった一軒の家の一つの部屋の中に居る、一人の男に届けられていた。


『くそっ!何でだ?どうなってる?』


歳の程は12~3才位だろうか、短い白髪に赤い瞳をした少年は、周りに有るゴチャゴチャした機械の端末を弄りながら独り言を叫んでいた。


「グレイグ!」


『…?何?ギースかい?僕は今とても忙しいんだよ。』


口調からしてグレイグが大分、肚を立てている事が解る。


「身体の支配権が途切れた事か?」


ギースの其の言葉に、端末を弄っていた手がピタッ、と止まった。


『!?…何か知っているのかい?』


口調が平静なものに戻り、目付きが鋭く成ってギースに問い掛ける、が。


「ハッ!、お前か彼奴に解らない事を俺が解る訳がねぇだろ!」


『いや、それ、威張る所じゃ無いからね?』


真面に相手をした自分が馬鹿だったと後悔し、ギースに対して呆れ返ってしまう。


「それより気になる事があんだよ。」


『はぁ、人の話を聞いちゃ居ない。』


グレイグの言葉を全く気にした様子も無く思った事を語り始めるギース。


「欠片を喰ったあの身体、例の黒い霧が出なかったぜ?此れってどういう事だ?」


『!?………へぇ、それは面白そうな話だね、身体を拾って調べてみようか、ギース、身体を捕獲して来てよ。』


一瞬、驚いた表情をしたが、少し考え込むと、何かに思い至った様に異変の起きた身体の回収を頼もうとしたが。


「はぁ?断る、それにとっくに始末されちまってるだろうぜ。今戻ったら俺がジルラードに捕まっちまう。」


即答で断られた、其れ所か到底納得する事等出来る筈も無い予想外の言葉が返って来る。


『え?』


「……ん?」


『彼、生きてるの?』


「………お前、頭は良い癖にホントそういう事には疎いのな、あの程度の化け物であの男を殺せる訳がねぇだろ。」


『そんな!?あの身体にどれだけの時間と金と労力を費やしたと思っているんだ!?』


「んな事、俺に言われても知るかよ、大体欠片を喰わせたのはテメェだろうが、そんな事より、ゼノディスの野郎は何処行ったんだ?」


『君は本当に人の話を聞かないな全く!彼ならとっくに次の任務に就いてるよ、そうそう、君にも帰還命令が出てるよ。』


「…あいよ。」




此処で念話は途切れる、少年は血が出るのではないかと思われる位、唇をかみしめながら。




「くそっ!あんな小さい欠片で支配が途切れる程の力が有るとは、…何故、あの方は正気を保って居られるんだろう?気になるなぁ。」




そう呟いて、再び端末に噛り付くのだった。

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