第4話 白衣の青年
トムスラル国・王都コティーニ・バハロ城・王の間
「………は?」
間の抜けた声が王の間に響き渡る、声の主は宝石や貴金属等が取り付けられた煌びやかな服を着て、いかにも高級そうな指輪やネックレスした裕福そうな体(所謂デブというやつだ)をした男だった、この城の主でありトムスラル国の王様である、現在一人の大臣風の男性が王の間で王様に謁見している最中であった。
「いや、ですから陛下、カノアの町から人員要請が届いております、と」
片膝を付いた男性が王の間の抜けた返事にそう返した。
「そんな町は知らん、知らん町に何故貴重な我が国の人間を派遣せねばならない?本当に我が国の領地内なある町か?」
「間違いなく。」
やってられねぇといわんばかりの溜息をばれない様に小さく付き、返事をする男性が話を続ける。
「ガウフォルネス遺跡の扉が結界ごと破られいたとの事です、調査隊の派遣を…」
「なんだ?その…、がう…ねす遺跡とやらは?」
「ガウフォルネス遺跡ですよ陛下。」
小馬鹿にしたような態度を王にばれないようにする男性、とはいえその男性にも遺跡の名前は記憶が無かった。
そんなとても謁見とは思えないやり取りをしている二人に話しかける人物が居た。
「いけませんねぇ、国王陛下。」
王と男性は声のした方へ振り向くと、全身漆黒の鎧を身に纏った優男が王の間に入ってきた。
「おぉ、ゼノディス殿」
男性は謁見の邪魔をされたにも関わらず、平然とした顔でゼノディスと呼ばれた優男を迎え入れた。
彼はとある筋から軍事関係の相談役として紹介された人物なのだが、余りに優秀過ぎた為、今では全権を任せてしまっている程の信頼を置いている。
「何が駄目なのだ?ゼノディス?」
王がゼノディスに質問をする。
「自国にある遺跡の名前ぐらい覚えておかないと、有名な神が建てた遺跡ですよ、国王陛下。」
「そうなのか!…たしか、がう…、がね?…ガル?」
ゼノディスは両手を肩程の高さまで上げ、溜息を付いて、やれやれという仕草をすると、王は「うっ。」と唸って、冷や汗が体中に流れ落ちる。
「仮にも一国の王なのですから、少しは勉強して下さい、国王陛下。」
ゼノディスは微笑みながら。
「そんな事だと国民が離れて行きますよ?」
と答えた…
「えっ!?」
「そ、そんな事は…。」
王は、何を言っているんだ?という表情をしているが、痛い所を突かれて大臣風の男は驚愕した顔をしたままゼノディスを見つめている、それは言わないで下さい、と言わんばかりの表情で訴えかけると「ハハ、冗談ですよ。」ととぼけて見せた。
ほっと、胸を撫で下ろす大臣。
「さて、件についてですが、調査団を派遣する事をお勧めします。」
「ほう?それは何故だ?」
王は先程のゼノディスの言葉を全く気にする様子も無いまま質問をする、その姿を見た先に謁見をしていた男性は(流石は一国の王、その度胸だけは尊敬できます。)と心の中で呟いていた。
「本件が彼の国に係わる一件だからです。」
「なっ!?それは真ですか!?あの国がこの件に係わっていると!?」
その言葉を聞いた瞬間、間髪入れずに男性が表情を豹変させて叫んだ、驚いている男性を他所に「彼の国?」王が首を傾げて考えている。
「何処の国の事だ?」
男性はマジか此奴、というような呆れた表情をしていた。
「ハハッ、国王陛下は御冗談がお好きのようだ。」
「彼の国、かのくに、うーん、わからん」
「あるでしょう?我々がその名を口にするのも恐れる、大陸の北に存在する大国が。」
やれやれ、と肩を竦める仕草をしながら男性が王にそう説明すると。
「!?」
そこまで聞いた時にようやく何処の国の事を言っているのか理解したようだ。
「あ、あの国か…、」
突然、王はガタガタと身体を震わせ怯え始めた。
「ま、まさか、奴もこの件に噛んでるんじゃないだろうなっ!?」
「その可能性はありますね。」
王の呟きにゼノディスが即答すると。
「ひっ!!」
さらに身体を震わせ怯えた、間髪入れずにゼノディスが話し続ける。
「国王陛下、これはチャンスと見るべきかと思われます。」
王は怯えた顔を上げ、ゼノディスを見つめた。
「ど…、どういう事だ?」
「かの王国が係わるこの件を国王陛下が解決するのです、そうすれば。」
「あの国に一矢報いれる…か?フ…フハハハハ、なるほどっ!」
先ほどまでの震えが止まって高笑いを始めた。
謁見の間に王の笑い声が響く中。
(フッ、単純な奴だ。)
ゼノディスは二人に気づかれないよう、笑みを浮かべていた。
●
ここはとある国にある、城の一室。
部屋の中では二人の人物が大量の書類に埋もれながら作業をしていた。
一人は女性で、薄い紫色の美しい長髪に深い青色の瞳をしている、細かい細工が施された白いドレスを着ている。
女性は椅子に座って机の上に置いてある書類に目を通してサインをしていた。
もう一人は男性なのだが、女性のような顔立ちをしている、青い短髪に黒い瞳をしており、青いガチガチのフルプレートメイルを纏っている青年は女性がサインをした書類を受け取り種類分けをしていた。
「へくちっ!!」
女性が突然くしゃみをした。
「風邪でも引きました?」
青年がくしゃみをした女性に声を掛ける。
「ううん」
青年の問いに女性は首を横に振り、返事を返した。
「単なるくしゃみ、誰かに噂されてるのかな?」
「フフッ、良くも悪くも貴女は世界中の人々から噂されてもおかしくない立場な方ですからね。」
青年は微笑みながらからかうように女性に答えた。
「むー、それはあんまり嬉しくないなぁ。」
「さぁさぁ、まだ仕事中なんですから、脱線しない。」
「はーい。」
女性は青年に言われるまま、仕事を再開したのだった。
●
町長達から話を聞いた翌日、メルラーナはいつものように労働者ギルドに仕事を探しにきていた。
昨日の町長達の話では調査隊が来るとすれば4~5日後だろう、との話だったのでそれまでは普段通りの日常を送っている。
メルラーナが掲示板で仕事を探している時だった。
「えっ!?あの遺跡、今、調査出来ないんですか!?」
遺跡という単語に思わず反応してしまい、声のした方へ振り返るメルラーナ、そこには受付窓口で頭を抱えてる白衣を着た20代前半くらいの歳の男性が居た。
「学者さんかな?」と呟いて、そのやり取りを眺めていると。
「わかりました、では数日後にその調査隊が派遣されると、じゃあそこに入れさせて下さい。」
「申し訳御座いません、調査隊は国の派遣する隊なもので此方の方ではそのような隊に入れさせて頂けるような交渉はさせていただいておりません。」
応対していたミアがバッサリ切って捨てるように断った。
(ミアさん、すげぇ。)
白衣を着た男性は項垂れながら労働者ギルド会館を後にした。
可愛そうだとうは思うが、自分も案内の依頼をされた身なので今は放っておくしかなかった。
その日の夕方。
「メルちゃん、いつもありがとうねぇ。」
ふくよかな体系の40代ぐらいの女性がメルラーナに礼をしていた。
「ううん、じゃあおばさん、またね。」
メルラーナは首を横に振り、女性に向かって手を振ってその場を後にした。
仕事を終えて労働者ギルドへ帰る途中、町の外れに向かってトボトボ歩く白衣の男性を見つけた。
(あれ?あの人は今朝の………、え?あっちは、遺跡の方角!?)
「ちょっ、ちょっと待ってお兄さんっ!!」
「え?
」とメルラーナの方に振り返る男性、考えるより先に声を掛けてしまった事を少し後悔したが、メルラーナは今朝見た事を話す事にした。
「そうか、見られていたのか、恥ずかしいな。」
ふぅ、と男性は溜息を付く。
「あの後、冒険者ギルドにも行ったんだけどね、似たような理由で断られたよ。」
それは当然の事で、事件の真っただ中に一般人を連れていける筈もなく。
「えーっと、そ、そうだ、自己紹介まだでしたね!私はメルラーナ=ユースファスト=ファネルです、宜しく。」
「あ、あぁ、俺はカルラ=トネルティ…隣国のソルアーノ国在住のしがない考古学者さ。」
「ソルアーノから来たんですか?態々?」
「いやぁ、実は去年此処を訪れた時に遺跡を見つけてね、封印されていたので入る事は出来なかったから国に帰ってから色々と調べてたんだけど、別の研究が忙しくなってしまってね、一月ほど前かな、調べていた時の資料が出てきて思い出したようにまた調べ始めたんだよ、そしたらあの遺跡、ガウフォルネス遺跡って名前らしいじゃないか、ガウフォルネスって言えばガウネス神の事だろう?そりゃあ好奇心が抑えられなくなってね、気が付いたら国境を越えて此処まで来ていたという訳さ。」
カルラと名乗った学者は聞いてない事までベラベラと喋ってきた。
ん?今聞き捨てならない事をサラッと言い放ったぞ?
「え?神…?は?神様?」
「ん?うん、ガウネス神、伝承では破壊神に戦いを挑んだ神々のリーダー的存在だったとか。」
「え?………えええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええっ!?」
初耳だった、父親は私に何も言わなかったから、それって結構大事な事じゃないの?それとも自分で調べさせようとしてたとか?
うーん、うーん、頭を捻って見当違いな深読みをするメルラーナだったが、直ぐに頭を切り替えて。
この人はきっと放っておけば勝手に遺跡へ行くかもしれない、と考えたメルラーナは。
「えーと、明日もう一度、労働者ギルドに来てもらえますか?私の方から一度話をしてみます。」
「え?」
カルラから見ればメルラーナは只の一般人の、それも14~5歳くらいの少女だ、その少女が労働者ギルドに話をしてみても当然何も変わらないだろう、普通であれば徒労に終わるだけである筈なのだ、では何故この少女はそんな事を言い出したのか?只の世間知らずなのか、それとも…。
「話をしてみる?労働者ギルドに?き、君はいったい?」
「いやいや、そんな大層な者じゃないですよ?只単にカルラさんが今にも遺跡へ突貫しそうな雰囲気だったから。」
「う!?」
そうか、気お使われたのか、俺はそんな状態で歩いていたのか、情けない。
たとえ交渉が無駄になると解っていたとしても彼女の好意は受け取っておかなければ失礼に当たるな。
まぁ、行き方が分からなかったから労働者ギルドで道案内の依頼をしに行った訳だが、そこは伏せておこう。
「ありがとう、宜しくお願いするよ。」
「はいっ!」
満面の笑みで返事が返ってきた。
「う!か…可愛い…。」
返事をしたメルラーナの笑顔をみてカルラは思わずドキッとしてしまった。
とても可憐な少女だ。
「おいおいおいおいっ!!大丈夫か俺!?少女だぞ?子供だぞ!?いかーんっ!!」
両手で頭を抱え意味不明な言葉を叫んでいたカルラを見て。
(………?大丈夫かな?この人?)
メルラーナはドン引きしていた。
その後、すぐにメルラーナと別れ、一人今日の宿を探してしたカルラは物思いに耽っていた。
言っておくが決してメルラーナの事じゃあないぞ?違うんだからな!?
…誰に断ってるんだ俺は。
「は~。」溜息を付き、改めて考え直し始める。
「ガウネス神の遺跡…か、そもそも何故このような国にあんなモノがあるんだ?何の意図があって建てられたのか?とすればこのトムスラルという国は元々ラジアールにあったのか?
いや、国が海を渡って移動するなんて、それは突拍子過ぎるな、なら遺跡があった所に国が出来たと考えるべきか。
ではこの国はあの遺跡の為に出来たという事か?
じゃあもっと大局的に物事を視る冪か、そうすると彼の国々が係わっている可能性があるのか?
あるとすれば、あの国か、しかしあそこは神々の立ち上げたものではないはず。
だが千年前の出来事が事実だったとしたら
つまりヒュプカムスクリフと何か関係があるという事だろうか?…あるのか??
まさか…な、それは流石に無いだろう?
それに、距離がありすぎる、シルスファーナならば………。
……駄目だ、情報が足りなさ過ぎる、これ以上は頭で考えただけでは理解しようがないな。
どちらにせよ、少しこの国の事を調べてみるか。」
一方メルラーナはというと。
「神様か~、知らなかったな~、お父さん教えてくれなかったしな~、秘密にしとかなきゃ駄目な理由があったのかな?
はっ!?町長達が言っていた御神体ってもしかして神様に係わる品物なのかな?
…不謹慎だけど、ちょっと楽しみになってきたかも。」
そんな事を考えてる内にギルド会館に到着していた、中に入ると受付のお姉さん、ミアが応対してくれた。
「あらメル、お帰り、お疲れ様。」
「ただいま、ミアさん。」
仕事の完了の手続きを終え、メルラーナはミアに尋ねた。
「ミアさん。」
「ん?なぁに?」
「ちょっとお願いがあるんだけど…。」
翌日。
メルラーナが町長達に話を聞いてから2日目。
カルラは何が何だか理解できずに戸惑っていた。
メルラーナに言われた通り、労働者ギルドに寄ってみたのだが、昨日俺の応対をしてくれた受付のお嬢さんに3階にある部屋に連れて来られたのだ。
恐る恐る中に入ると、中年の男性が大きな机の向こう側にある豪華な椅子に腰を掛けており、男性の隣には少女が立って此方を伺っていた、メルラーナだ、男性はカルラに話しかけてきた。
「君の話はメルラーナ君から聞いているよ、カルラ=トネルティ君だね?私はヒルノース=ハウレン、カノアの町の労働者ギルドの長を務めさせてもらっている、ソルアーノ国の学者殿に調査に加わって頂けるとは、此方としても願ったり叶ったりだ、宜しくお願いするよ。」
「え?加わる?調査に?」
一体全体、どうなっているんだ?昨日の対応とは打って変わってこの状況、しかもギルド長に直接取り次いでもらえるなんて、メルラーナという少女は一体どんな手品を使ったんだ?
「そう、調査に。」
「いいんですか?外部の人間が調査に加わっても?」
「そりゃあ、普通は駄目だろうな。」
「では、何故?」
「理由は二つ、一つはさっきも言った通り、君がソルアーノの学者だから、君の母国は学問で有名な国だからね、知恵を借りたい、意見を聞いてみたい、というのが理由かな?国から調査隊は派遣してもらってはいるが、それはあくまで侵入された遺跡が荒らされていないかどうかの調査で遺跡そのものの調査ではないかし、ソルアーノの学者さんに見てもらえるなんて滅多に出来ないからね、大丈夫、ちゃんと町長にも話は通してあるから。」
「でも俺…、私がソルアーノの学者という保証はありませんよね?」
「無いね、だから二つ目の理由だ、メルラーナ君に頼まれたから、だよ。」
「…は?」
カルラは思わず間の抜けた返事をしてしまった。
「こほん、失礼しました、彼女、メルラーナさんに頼まれただけで私を信用したという事ですか?」
「いいや?すまないが、今日会ったばかりの君をいきなり信用するなどは流石に出来んよ、信用しているのはメルラーナ君と、彼女の父親であるジルラード=ユースファスト=ウルス、彼に絶対たる信頼を預けているからね。」
その名前を聞いたカルラは全身から変な冷や汗が流れ出した。
………じるらーど?ジルラードって?あのジルラード?ジルラード=ユースファスト=ウルス………?いやいやいや、それは無いな、うん、無い無い、きっと同姓同名の別人だよな?…な?
ヒルノースは真剣な眼差しでカルラを見つめている、その様子を見たカルラは。
「………マジで?」
「うむ、マジ。」
聞きたく無かった言葉が即答で返ってきた、しかも真顔で…。
両膝と両手を床に付けて項垂れているカルラとヒルノースのやり取りを見ていたメルラーナだったが、このやり取りの意味が理解出来ていなかったのだろう、首を傾げて頭にクエスチョンマークを浮かべていた。
「まぁその話は置いといてだな、調査隊が派遣されたとしても此方に辿り着くまで最速でも後2~3日はかかる筈だ、それまでは自由にしてもらってて構わない、何も無い所だがこの町でも堪能しといてくれたまえ。」
労働者ギルドから出て来たカルラは魂の抜けたような表情で町中を歩いていた。
「まさか、こんな辺境の地で偉人の名前が出て来るとは思わなかった、…ふぅ。」
深い溜息を付いたカルラは気を取り直して。
「あ~、そろそろ報告しとかなきゃな、後で愚痴言われるの嫌だし。」
面倒臭そうな表情と態度を取って、ポリポリ、と右手の人差し指で頭を掻いていた。
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