第3話 町長と組長
「お疲れさま、メル。」
背中から声を掛けられ、振り返ると労働者ギルドの受付係をしている女性が立っていた。
「あ、ミアさん」
いつもお世話になってる受付の女性だ、因みに先程対応してくれた女性では無い。
「ちょっといいかな?聞きたい事があるの」
「え?う…うん。」
思ってた以上の肉体労働で結構疲れてるんだけど…、なんだろう…いままでこんな事一回も無かったのに…、まさか何かミスッた?
などと頭を抱えて悩んでいると。
「ふふ、大丈夫よ、ちょっと遺跡の事で聞きたいだけだから。」
「遺跡?遺跡って、あの町の外れの?」
町の外れに古い遺跡がある、名前はガウフォルネス遺跡
何の遺跡かは詳しくは知らないが、メルラーナは小さい頃から何度も父親に連れられて遺跡の中に入っていた、それと関係があるんだろうか?と頭をひねっていると、その姿を見て微笑んだミアはメルラーナに付いて来るよう手招きをして誘導した。
それに従い付いて行く、歩きながらメルラーナが質問した。
「遺跡がどうかしたの?」
「う~ん、私も内容は知らないのよ。」
と云う返事が返ってきた、そうしている間に一つの部屋の前にたどり着いた。
お姉さんが扉を、コンッコンッとノックし。
「メルラーナを連れてきました」
と一言、言葉を発すると、中から扉が開き別の受付のお姉さん(トルシュという名前のお姉さんだ)が出てきて。
「どうぞ。」
と、短く返事をし、部屋に招き入れた。
な…なにコレ?どういう状況??こ…怖いんですけどー!?
状況が呑み込めず、ビクビクしながら流されるように部屋に入るメルラーナ、
その後にミアが入ってくる、部屋の中を見渡すと、応接室だろうか、部屋の中は豪華な家具や暖炉、はく製の置物などがあった、部屋の中心に机ソファーが置いてあり、そこに正装をしたふくよかな体系をした男性と細身で長身の男性が向かい合うように座っていた。
「やあ、君がメルラーナか、初めましてだな?」
ふくよかな体系の男性が立ち上がり、メルラーナに握手を求めてきたので。
「あ…は、はい、初めまして……?」
手を差し出したメルラーナの頭にふと疑問が浮かんだ。
この人………どこかで?
ふと頭の中で目の前の人物と一致する人が思い浮かぶ。
「え…えっと、ちょ…町長さん?」
間違っていないかな?と恐る恐る尋ねてみる。
「ほぅ?まだ若いのにワシを知っとるとは、大したお嬢さんだ。」
当たってた。
メラニス町長、カノアの町の代表者である有名人なのだが、人口2000人しか居ないとはいえただの民間人が町長と直接会う事などまず無い、ましてやメルラーナは現在15才、町長など全くと言っていいほど興味が無い年頃である。
「まぁ、挨拶はそれくらいにして、メルラーナ君、こちらへかけたまえ。」
と、長身の男性が声をかけてきた、この人は知ってる、労働者ギルドの組長さんだ。
名前はたしか、ヒルノース=ハウレン労働者ギルド長、労働者ギルドの登録する時に一度だけ合った事がある。
「は、はい、組長さん。」
組長が顎を引いたのを確認し、メルラーナは指定されたソファーに腰を掛けた。
「まず本題に入る前に聞いておきたいんだが、ジルは今何処にいるのかな?」
「え?お父さんですか?今何処に居るかっていうのは解らないですけど、今朝帰ってきて、ご飯食べてまた仕事行きましたよ?」
「何っ!?」
メラニス町長とヒルノース組長、二人が同時に立ち上がって声を上げた。
「まだ町に居るかもしれん!トルシュッ!すぐに人員を集めて、ジルの捜索をっ!」
ヒルノース組長に命令された受付のお姉さん、トルシュは「はい。」と、一言短く返事をすると、会釈をして応接室から出て行った。
その姿を見送ってから、町長が顎に手を当てながら考え込み始めた。
「ジルが帰ってきている、遺跡の件と何か関係があるのか?」
「遺跡の件?」
メルラーナの質問を、町長の代わりにヒルノース組長が答えた。
「あぁ、そうだな、その事で君を呼んだんだった、はっきりとした日時は解らないのだが、遺跡に何者かが侵入した形跡が見つかったんだ。」
「えっ!?侵入!?」
メルラーナが驚くのも当然だった、小さい頃から何度も足を踏み入れているメルラーナには、あの遺跡の入り口である扉の頑丈さを十分理解していた、幅は2メートル、高さは4メートル程も有る、大きく分厚い扉に魔術の文様の様な物が刻み込まれており何重もの結界が張り巡らされている、メルラーナの父親であるジルはいつもそれを小一時間も掛けて一つ一つ解除していき、さらには人の手では絶対に開ける事の出来ないほど重いであろう扉を、何かの魔法を使用して開けていたのだ。
「でもあそこは結界みたいなのが張ってあって、普通では絶対に入れないってお父さんが、それをどうやって?」
「君の疑問も最もだ、私も報告を受けた時はそう思ったよ、だが、扉は破壊されていたんだ。」
「は!?破壊っ!?」
更に驚いたメルラーナだったが、ヒルノースは説明を続けた。
「結界ごと…な、大胆な行動ではあるが、並みの人間では無いという事だ、いや、そもそも人間かどうかも怪しい所だけどな、私は只の労働者ギルドの人間だから専門的な事は解らないが、扉を結界ごと破壊したとなれば、かなり腕も立つ術者か、何かの能力者か、とにかく事は重大だ。」
一呼吸置き、話を続ける。
「ジルに聞いた話だが、あの遺跡には御神体が祀られているらしいんだ、あれほどの頑丈な結界に護られた遺跡に祀られている御神体だ、それ盗まれたりなどすれば。」
「もしもそれがこの町一つぐらい吹っ飛ばしてしまえるような代物だったら…。」
ヒルノースの説明後、メラニスが頭を抱えて項垂れ始めた。
なるほど、メラニスの心配は飛躍しすぎだとは思うが、事の重大さは何となく理解した、でも御神体とかの事は解らない、何せ私自身あの遺跡の全容は把握していないのだ、ていうかそんな重要な場所を何で私の父親が出入りしていたんだ?そして何で私を出入りさせていたんだ??
メラニスとは別の理由でメルラーナも頭を抱えて項垂れ始めた。
そんな二人を見つめていたヒルノースが、「やれやれ」と溜息を付き。
「すまない、君を呼んだ理由を飛ばして話してしまったな。」
「え?あ、はぁ・・・。」
頭を抱えたまま顔を上げて返事をする。
「実は早朝に王都へ使者を出したんだ、明後日には王都に着く予定なのだが。」
「え?王都に、ですか?」
「我々だけで対応出来る事態ではないからね、調査隊の派遣を要請しておいた。」
「あぁ、なるほど、それで私に。」
ポンッと手を叩いて、納得した。
これほどの問題に労働者ギルドが係わる余地など本来なら存在しないだろう、これは完全に冒険者ギルドの案件である、それでも労働者ギルドに所属する自分に会いに来たという事は。
その様子を見たヒルノースが顎を引いて頷く。
「ふむ、賢い娘だ、そういう事、部隊が編成されれば道案内が必要になるからね、ジルが見つかればいいんだが、彼奴神出鬼没だからな。」
「アハハ。」
右手の人差し指で頬を掻き、納得したメルラーナは、町長達の頼みを受ける事になった。
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