第4話 廃墟の奥で

「…何も無い、ですか」


そのパンを目にしてどう信じようか。


先程の廃屋。

暗い室内に、背の高い影がひとつ。


むしゃむしゃとパンにかじり付きながら戻った外套に向けられた、呆れた男の声。


外套からは、いつもの薄笑いを浮かべているであろう雰囲気が伝わってくる。


「珍しいですね、あなたが果物以外の物を口にするなど」


外套は、最後の一かけを飲み込むと、男の足元にしゃがみこんだ。


「!」


「見覚えがあるでしょう」


柔らかな声音に怒りを滲ませる男の足元には、人の形をした黒い塊が転がっている。


「急いで運びなさい」


外套は手を軽くあげると、何倍もの体格の男を手際よく縛り上げ、麻袋に入れて担ぎ上げる。


「全く、余計な手土産を持参しなければならないとは」


男は美しい声で嘆くと、廃屋から出て、外套と共に路地の奥へ消えていった。


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