お祝い
「うわー似合わないね」
真治はにやにやしながら何枚も写真を撮る。
「うるせえよ」
カメラを向けられた慎也はふてくされている。
「ちょっと、こっちに視線ください新郎さん」
真治がにやにやとそう言うと、慎也はうんざりしたように
「新婦を撮れ。新婦を」と言った。
すると隣に座っていた清美が
「あら! 慎也ってば私のウエディングドレス姿、残したいのー?」とからかう。
慎也は鼻で笑うそぶりを見せ
「馬子にも衣装ってやつだな」と言い放った。
「なにい?」
清美は眉毛を釣り上げて、
「あんたなんか豚に真珠って感じの癖に!」と言ったものだから真治がこらえきれず吹き出した。
「新郎に向かって豚って言うやつがあるか!」
「素直に褒めないからでしょ! 花嫁に馬子にも衣装って言うなんて信じられないんですけど!」
それを見ていた真治は、横の裕樹に向かって
「この喧嘩してる姿も写真に撮った方がいいのかな?」と相談した。
裕樹は
「これがこの2人のありのままだから、撮った方がいいんじゃない?」と答えた。
「先輩、そろそろ……」
慎也の職場の後輩の登場によって、新郎新婦の痴話喧嘩は一旦停戦した。
真治は笑って、「僕らも席に戻ろうか」と裕樹に言った。
今日は慎也の結婚式。
裕樹は最初出席を断ったものの、真治に説得されて出席を決めた。
「あんまり堅苦しいのはちょっと…」という新郎新婦は結婚式を村の公民館で、しかも自由参加で行うという人前式を選んだ。
主に慎也の職場の後輩と清美の同級生達が取り仕切るその式は自由で、何故か慎也は新郎なのに余興に参加していたし、色んな人が出たり入ったりしていた。決まった席もなく、座敷内はいつも顔ぶれが変わる。清美の親戚が演歌を披露した際は、一時人数が減ったりもした。
もちろんウエディングケーキは『ケーキのうえはら』が腕によりをかけて作ったものだ。
製作者の清美の父の一茂と兄の俊は先ほどからげらげら笑う花嫁とは対照的にハンカチを涙で濡らして、清美の母、信代に呆れられていた。
ウエディングケーキを食べさせ合うファーストバイトはロマンチックなイベントのはずなのに、何故か慎也は清美に頭を後ろから掴まれ、顔ごとケーキに突っ込まされていた。
顔をクリーム塗れにして笑う慎也は幸せそうで、もちろん真治が張り切って写真に収めた。
別で用意されていたケーキを改めて切り直し、皆の前にケーキが並ぶ。
清美がケーキを食べるときに少し泣いたその姿を見て清美の母が泣き出し、隣に座っていた慎也の両親も泣き出した。清美の母と慎也の母は抱き合ってお互いの肩を叩いて泣いていた。
慎也はそれを見て、ちょっと居心地が悪そうにしていた。
裕樹はずっと真治の横にいた。
こんなに多くの人の前に出るのは、あの事件以来初めてだ。
真治は穏やかに進む式に、密かに胸を撫で下ろしていた。裕樹に否定的な人がいたらどうしようと思っていたのだが、幸い、それは杞憂に終わりそうだった。
真治は次第にこみあげてくるものを抑えきれなくなり、泣きながらシャッターを押して、裕樹に笑われた。
「あんまり泣くなよ」
「うん……。いや、良かったなあと思ってさあ……」
「真治にはハナコがいるだろ」
「裕樹、まだ誤解してたのか……!」
真治の必死の弁解を祐樹が笑いを噛み殺して受けているうちに会場は盛り上がり、新郎と新婦の誓いのキスの場面になった。
新郎は断固拒否。
「俺にそんな恥ずかしいことが出来るか!」
新婦はすでに目を閉じて待っている。
「女に恥をかかすなー!」
「慎也、男を見せろー!」
などとヤジが飛んだあと、会場全体から
「チューしろ! チューしろ!」とコールが響くに至り、慎也は髪の毛を掻き毟って苦しそうな顔をしたのち、清美の額にキスをした。
「それで済むと思ってんのかー!」
「なめんなー!」
騒がしい会場。
嬉しそうな顔のたくさんの人。
真治の横では、裕樹も笑っている。
外は桃の花が咲いていて、春の到来を告げていた。
この良き日に、新たなスタートを切る
明日も、明後日も、みんなが幸せでありますように。
真治は微笑みながら、顔を真っ赤にして清美にキスをする慎也を見守った。
小野島診療所 羽鳥湊 @hatori_minato
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