世界には二種類の精霊が存在していた。
口頭言語、いわゆる言葉を司る精霊。
書記言語、いわゆる文字を司る精霊。
そしてその間に人がいた。
当初は棲み分けができていた彼らであったが、通信技術の発達により次第にその境界は曖昧となり、互いにいがみ合い、やがて人類を文字のみの集団と言語のみの集団に隔てる戦争へと発展する。
本作はその戦争史の起こりから顛末までを描くことに終始した作品で、特定のキャラクターが何かアクションを起こすというわけではない。
しかしながら淡々としていながらも含蓄ある表現の数々は当事者たちのシビアさに比して、読み進めていくとつい唇が吊り上がってしまうようなシニカルさがある。
言語を題材とするだけあって、七千字そこそこの空間を伸び伸びと泳ぎ回っているかのようでさえある。
内容それ自体も短いながらに起承転結がきっちりまとまった作品で、特にオチが二重にきれいに収まった感がある作品。
このまま埋もれてしまうのがもったいない良作ですので、ご紹介させていただきました。