言語の精霊戦争

ゆうみ

第1話 精霊

 これは、まだ右も左も分からないであろう君に、精霊たちについて知ってもらうための小話だ。あまり身構えずに聞いて/読んで欲しい。




 つい数百年前まで、精霊は自然と同時に生まれた存在だと考えられていた。惑星が誕生すれば惑星の精霊が生まれ、海ができれば海の精霊が生まれ、森ができれば森の精霊が生まれ……というように、ある対象がこの世に生じた瞬間、精霊も自然発生的に生まれるとされていたのだ。


 しかし、これは間違いだ。今思えば、なんでこんな空説が広まっていたのか不思議でならない。


 二百年ほど前に起きたある出来事を切っ掛けに、ようやくその事実が知られ始めた。精霊は自然の存在によって規定されているわけではない。かと言って、あらゆる事物から独立しているわけでもない。そうではなくて、人によって規定された存在なのだ。そう考えなければ、説明がつかないことが起こった。


 賢い精霊はさらに推論を進めた。いわく、人が初めて言語を獲得した時、単語でくくられた存在ないし概念に精霊が宿ったのではないか。つまり、人が夜空を惑う星を惑星と呼んだ時、惑星の精霊が誕生し、水の広大な集まりを海と呼んだ時、海の精霊が生まれ、木々の連なりを森と呼んだ時、森の精霊が生まれ……といった風に、言葉の発生と精霊の発生が同時であるという説を提唱した。この説が、急激に市民権を獲得し始めたのだ。


 精霊たちは、この自身のルーツにこれ以上ない驚愕を示した。彼らは慌てに慌てた。有史以来の大恐慌だったと言える。では、なぜそれほどまでに混乱したのか? それはひとえに、精霊たちが戦争の最中にあったからだ。




 さて、これから語るのはそんな精霊たちの戦争史だ。唐突に話が変わって混乱したかもしれないが、落ち着いて聞いて/読んで欲しい。


 実は、さっき言ったような認識の転回が起こったのは、この戦争が遠因であったりもする。ともかく、この戦争は精霊にとって史上最も大変な出来事だった。


 精霊の戦争史は含蓄もあれば、滑稽ですらもある物語である。それを知っておいて損はないだろう。これから話す戦争を知って、少しでもこれからの生に役立ててくれれば幸いだ。

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