第5話 初陣

 魔法術の訓練を始めしばらく時間が経った頃、アサギは自分の荷物を持ちナグサにそろそろ狩りに向かうと声をかける。ナグサはアサギに声をかけられ、本来の目的を思い出した。魔法術の練習に夢中で狩りに出ていたことをすっかり忘れていた。アサギに返事をするとナグサは自分の荷物を持ち、歩き出したアサギについていく。

              *  *  *  * 

しばらく歩いたところでアサギは姿勢を低くし左手を横に伸ばしナグサに止まるように指示し、少し開けたところを指さす。


「あれを見ろ、あそこに一匹魔獣がいる、あれが今回の討伐目標だ。見えるか?」


アサギに言われ目を凝らすと、そこには青碧せいへき色の体毛の狼がいた、足には植物の蔦のようなものが巻き付いており、背中には二、三本ほど同じ蔦のようなものが生えており時折しなっている。ナグサはアサギに頷き、それをみたアサギは小声で作戦を伝える。ナグサが頷いたのを確認した後、アサギはわざとらしく音を立てながら藪から出ると焔玉ほむらだまを発動し蔦狼の足元へと放つと左手で帯から鞘ごと刀を抜き構える。

 蔦狼はアサギから敵意を感じ取ったのか牙を剥き出し唸りながら体制を低くしアサギめがけ走り出し、首を噛み切ろうととびかかるがアサギは紙一重でかわし、蔦狼から距離をとる。距離を取られた蔦狼はアサギを捕えようとアサギめがけてつた状の体毛を伸ばす。襲い掛かる蔦を右に左によけながら蔦狼を翻弄し、即座に抜刀し襲い掛かる蔦を切り落としながら蔦狼との距離を詰める。距離を詰めつつ納刀し蔦狼の顔面を鞘で下から殴り上げ、左方へと蹴り飛ばし蔦狼は樹に激突する。するとアサギは茂みにいるナグサに目線で合図し、茂みから出るように促す。ナグサは茂みから出ると土の魔法術で苦無を二本作りそれぞれ片手にひとつづつ持ちアサギの元へと向かう。


「さっき囮になるって言ってたじゃないですか、これだと作戦の意味ないじゃないですか?」

「わりぃ。最初は作戦通りにいくつもりだったんだがな、やっぱ初戦は確実に仕留めて討伐した実感を味わったほうが早く進むかもしれねぇとおもってな」


軽く謝りアサギはナグサに蔦狼の首に苦無をさすように指示する。ナグサは嫌そうな顔をしながらも渋々言われた通り蔦狼の首に苦無を刺す、刺した時に刺し傷から生暖かい血が溢れ、ナグサの顔や服にかかり、生臭さと初めて生き物を殺した感触に吐き気が込上げる。ナグサは手で口を押え吐き出さないようにするが吐き気は収まらず、それどころか吐き気はどんどん強まり、堪らず近くの茂みへと移動し吐き気と主に口の中から吐き出した。


「ううぉえ……うえ……」


ナグサの様子から吐いてしまった事を察し、アサギは荷物袋から吐き気止めと水袋を持ち出しナグサの元へ行き背中をさする。


「大丈夫か?」

「大丈夫じゃないです……うっ、うぉぇぇ」

「吐き気を抑える薬だ、とりあえずこれを飲め」


とアサギはナグサに薬を渡しナグサは吐き気止めを水袋を受け取り薬を口に入れた後水で流し込み、アサギに少し離れた所で休んでいるように言われ離れた所で吐き気が収まるのを待った。しばらくし吐き気が収まってきたためナグサは荷物の置いてある場所まで移動し地面へと座り込む。


「おめぇみてぇに血やら死体やらを見て吐いちまうやつが時々いるんだ、こればっかりは慣れるしかねぇ、頑張れよ」


アサギは息絶えた蔦狼の死体を後ろ腰に差してある短刀を抜き蔦狼の解体を始める。吐き気が収まったのかナグサがアサギの近くへ寄り座り込んだ。


「もう大丈夫か?」

「うん、薬のおかげでだいぶ良くなった……」

「こっちに来て大丈夫なのか?また吐いちまうぞ?」

「刺した感覚がちょっとだめだっただけで、見る分には平気みたい」


 アサギは死体を解体しながらナグサに作業の手順を説明し始める。死体の解体を教わり嘔吐と休憩を挟みつつ実践しながら体で覚える。解体し終えるまで五時間が経過した。


             *   *   *   *


 解体作業を終え残りの魔獣は後日狩る事にし帰路につく。初めての戦闘を経験したナグサは町へ戻りアサギと食事をとった後、宿屋に着き借りている部屋に入ったナグサは疲労困憊ひろうこんぱいですぐさま眠りについた。

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