第4話 初仕事と戦闘訓練

アサギと共に万組舎にもどりとナグサのレベルに合った依頼を選ぶと言いアサギは受付で依頼の受理を済ませる。

「狩の依頼ですか」

「本当はもうちっとやりやすいのが良かったんだがな」

「そうですね、ナグサさんは初心者ですからね。アサギさんナグサさんにこれ渡してあげてください。髪を束ねないと邪魔だと思いますよ?」


イチカは懐から結紐を出す。アサギはちらりとナグサの髪型を確認した後イチカに視線を戻し、結紐を受け取る。

「ナグサ、今から受けた依頼をこなしに行くんだが、その前にこいつで髪を結んどけ、邪魔になるぞ」

と言いナグサに結紐を渡す。アサギに言われ髪をポニーテールに結び依頼をこなすために街の門外にある森へと向かう。道中アサギはナグサに今回の依頼の内容を説明した。今回の依頼は蔦狼ちょうろうという魔獣らしい。


「蔦狼は体に植物の蔦みてぇな体毛が生えてる、その体毛を使って獲物を足止めしたりして狩りをする魔獣だ。すばしっこくてほんとはナグサみてぇな素人向けじゃないんだが……これしか良さそうなのが無くてな、最初は苦戦すると思うが頑張れよ」


              *   *   *


外門を抜け森に入り獣道を通りしばらく進むと少し開けた場所に出た。


「魔獣を討伐する前に少し戦い方を教えるから、一旦荷物を置いてくれ」


はぁはぁとナグサは息を切らしながら荷物を地面に置き座り込む。


「おいおい、大丈夫か?今から訓練した後魔獣を狩りに行くんだぞ?」


座り込んだナグサをアサギは心配な表情で見みる。一旦休憩を挟んだ後アサギはナグサに声をかけ戦い方を教え始めた。


「お前さんの魔法術士は魔法術を使って戦うのが主だ。魔法術は体の中にある魔力を使って火やら水やらを作り出して攻撃出来る。俺も少しは魔法術を使るからちょっとだけならコツなんかを教えてやれる、基本的な訓練方法を教えるぞ。まずは両手を前に出して掌を前に向けるんだ」


そういいアサギは両腕を前に伸ばし掌を前に向けたためナグサもアサギに倣い、同じポーズをとる。


「そしてこの状態で掌に魔力、体の力を集める感じを想像する。焔玉ほむらだまっ! 」

するとアサギの掌の前に火球が出現し直後アサギは一メートル先の地面に向けて火球を飛ばす。地面にぶつかった火球は地面んに焦げ跡を残し消滅した。

「と、まぁこんな感じだ。俺は魔法術の適正があるにはあるが低いせいかあんまり沢山は使えなくてな」

「次はお前の番だ、ナグサはつち属性が一番適正があったな、岩を作り出すところを想像してやってみるといい」


ナグサはアサギに教えられた通りに腕を正面に伸ばし掌を正面に向け、掌の辺りに意識を集中させ自分の前に岩の塊を作り出すところを想像する。すると体から何かが僅かに抜けるような感覚に襲われる。違和感に耐えながら魔法術の発動に集中すると掌の前に薄茶色の小さな石のができ始め少しずつ大きくなっていく。

「よし、いいぞ。もう少し先を長く尖らせてみろ」

ナグサは言われた通りに先を尖らせるように意識を集中すると少しずつ石は先端を伸ばし鋭くなっていき小型の楕円形の打製石器の様な形になる。

「よし、そのままあそこに飛ばしてみろ」とアサギは先ほど自分の火球が作った焦げ目を指さす。


「んんっ! 」


ナグサは気合を入れながら石を飛ばそうとするが微動だにせずその場に浮いたままだ。石を浮かした状態を維持できずナグサは疲れその場に座り込んでしまう。意識が途切れたせいか先ほどまで浮いていた石はゴトっと音を立てて地面に落ちた。

それを見たアサギはぼりぼりと頭を掻き


「おかしいな、魔法術を使える奴なら誰でも飛ばせるはずなんだが……ナグサ少し休憩だ、そのあともう一回やってみろ」


 少しの間休憩しもう一度魔法術を発動する、しかし先ほどと同じく全く飛ぶ気配がない。膝に両手をつき息を整えた後もう一度同様に魔法術を発動させるしかしまた先ほどと同様に全く動かない、

その後二回三回と繰り返し発動するが全く動かず地面に落ちる。ナグサは疲れ果て地面へと座り、近くに落ちている石を掴み二、三個程適当に投げ、掌を見つめながら今しがた投げたようにいっその事手で掴んで投げられれば楽だろうにと思う。その後近くの石を一個投げため息をつきながら立ち上がりもう一度練習しようと手を伸ばした時、ふとナグサは思った。飛ばせないのなら先ほどの様に投げれば良いんだと。アサギに魔法術士が誰でも発動した魔法術を飛ばせると言われ、飛ばさなければいけないものだと思い込んでいた。しかし魔法術士は魔法術を飛ばして戦わなければいけないとは言われていない。これから練習を続ければもしかしたら飛ばせるようになるかもしれないがいつできるかもわからないことを長々と続けるよりは諦めて思った場所に投擲できるように訓練した方が良いとナグサは考えた。

 方針が決まり投擲に適した形はないかナグサは思案する、考えが纏まったのかナグサは土を払い立ち上がり、魔法術を発動し先程より長めに成形する。先ほどとは打って変わって気合が入った表情で魔法術を発動させるナグサをみやり次失敗すれば慰めてやろうと思いながら見守る。魔法術を発動し、ゆっくりと石を大きくしていきなんとか苦無を形作る。先ほどとは違い魔法術で発動させた石を大きく作り始めたナグサを見ながらアサギは声をかける。


「さっきよりしっかりした形にしてるが、石も飛ばせなかったのに大丈夫か?」

「飛ばせませんよっ」

「は?」


 ナグサの言葉を聞きアサギは思わず声をもらす、飛ばせないのにどうして先ほどより時間をかけているのか疑問に思ったのだ。

「じゃぁ、そいつをどうするんだ?」

「投げるんですよ、飛ばすのは相手を攻撃するためでしょ?攻撃するだけなら飛ばせなくても投げればできますし」


そう言うとナグサは先ほど作り上げたナイフを右手で掴み地面の焦げ跡めがけナイフを投擲し、苦無は焦げ目よりやや左側に刺さった。ナグサの考えを聞いたアサギは感嘆の声を漏らし、腕を組みうんうんと頷く。


「考えたなぁ、俺は飛ばすのが普通だと思ってたぜ。確かに敵に当てる事が出来れば飛ばそうが投げようが一緒だな」

「ナグサ、投げて使うならこういう感じにした方が良いぞ」と言いアサギは地面に持ち手の細い刃の広い短剣を描いた。

「こいつは苦無くないっつって投げて使う武器だ投げるならこんな感じに持ち手を作って投げやすくした方が疲れねぇし、いざって時は短刀みてぇに使えるから便利だと思うぞ」

 

アサギの描いた苦無を参考にし苦無を形成し、適当に地面へと投げる。先程作ったナイフよりも深々と地面に刺さり、ナグサはアサギに礼を言いしばらく苦無を作り投擲を交互に繰り返した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る