第5話
北原さんはもともと料理の才能があったみたいで、上達はとても早かった。和え物に野菜炒め、揚げ物とどんどん上手くなっていき、一人でお弁当を作れるまでになった。最後に残ったのは、シンプルにして一番難しい、玉子焼きだった。
「玉子焼きのコツは強火で焼き続けることだね」
僕のアドバイスに北原さんは頷いた。
「うん、わかった。やってみる」
「これができれば、もう一人前だね。卒業だよ」
「ほんと?! 頑張るね」
北原さんに料理を教えることは、僕にとって夢のような時間だった。でも正直、教えたことの吸収が早くて僕に教えられることはもうほとんど残っていない。
それにめちゃくちゃ仲良くなれたから、普通に二人で遊びに誘うことも出来そうだ。
(そのためにはまず、勝悟に北原さんを振ってもらわないといけないんだけどね)
僕はニヤニヤを押さえながら、北原さんに玉子焼きを教えた。明日この弁当を持って、勝悟に告白するらしい。
「うん。美味しい、合格だ」
「やった! ありがとう安田くん!」
北原さんは嬉しそうに頭を下げた。ぽっちゃり具合に磨きがかかり、もう清楚だったころの面影はない。
「頑張ってね」
僕は彼女を励ました。
(頑張って告白して、派手に振られておいで。そこを僕が慰める。完璧なパターンだ!)
「うん、ありがとね」
僕は北原さんを見送ると、明日の慰め文句を考えていた。
「勝悟なんかより、僕のほうがいいだろ?」
なんかもっといい告白の言葉はないものか。僕は北原さんが振られる未来を想像して、胸が躍っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます