第5話

 北原さんはもともと料理の才能があったみたいで、上達はとても早かった。和え物に野菜炒め、揚げ物とどんどん上手くなっていき、一人でお弁当を作れるまでになった。最後に残ったのは、シンプルにして一番難しい、玉子焼きだった。




「玉子焼きのコツは強火で焼き続けることだね」




 僕のアドバイスに北原さんは頷いた。




「うん、わかった。やってみる」


「これができれば、もう一人前だね。卒業だよ」


「ほんと?! 頑張るね」




 北原さんに料理を教えることは、僕にとって夢のような時間だった。でも正直、教えたことの吸収が早くて僕に教えられることはもうほとんど残っていない。


 それにめちゃくちゃ仲良くなれたから、普通に二人で遊びに誘うことも出来そうだ。




(そのためにはまず、勝悟に北原さんを振ってもらわないといけないんだけどね)




 僕はニヤニヤを押さえながら、北原さんに玉子焼きを教えた。明日この弁当を持って、勝悟に告白するらしい。




「うん。美味しい、合格だ」


「やった! ありがとう安田くん!」




 北原さんは嬉しそうに頭を下げた。ぽっちゃり具合に磨きがかかり、もう清楚だったころの面影はない。




「頑張ってね」




 僕は彼女を励ました。




(頑張って告白して、派手に振られておいで。そこを僕が慰める。完璧なパターンだ!)


「うん、ありがとね」




 僕は北原さんを見送ると、明日の慰め文句を考えていた。




「勝悟なんかより、僕のほうがいいだろ?」




 なんかもっといい告白の言葉はないものか。僕は北原さんが振られる未来を想像して、胸が躍っていた。

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