第4話

 誰もいない放課後の家庭科室で、僕は北原さんにスイートポテトを教えていた。このレシピも僕が下駄箱に仕込んだものだ。今日は部活が休みで他の部員も顧問もいない。二人だけの空間だ。




「あとはオーブンで焼くだけかな」




 完成間近に迫ったポテトをオーブンに入れて僕は言った。




「やった! 楽しみだね」




 北原さんはそう言って笑った。ふっくらしていても、かわいい。僕は思わず心の中でガッツポーズをした。これじゃまるで新婚夫婦みたいじゃないか。




「あ、あのさ、北原さんはどうして僕なんかに料理を教わろうと思ったの?」


「うん、実はね。毎朝、靴箱に料理のレシピが入っていて、最初はなんか怪しいなって思ったんだけど、作ってみたらめちゃくちゃ美味しくて。それで料理にはまっちゃってさ。今は作るのも食べるのも好きになったんだ」


(そのレシピ、僕が入れたんだよ)




 思わずそう言いたくなった。でもここは我慢だ。




「そ、そうなんだ。僕も料理がすごく好き。作るのも食べるのも」


「じゃあ私と一緒だね」




 北原さんは無邪気にほほ笑む。そして少しうつむいて、続けた。




「安田くん、私ね。料理を作ってあげたい人がいるの。だから私の師匠になってくれない?」




 少し恥ずかしそうに北原さんは僕に頼んだ。その相手ってもしかして、あのイケメンの勝悟か?!


 僕は一瞬迷ったが、快く受けることにした。勝悟は太った女の子が嫌いだ。それにここで北原さんと仲良くなれれば、大逆転勝利もあり得る。




「もちろんいいよ。でも僕はこう見えても味にはうるさいから、試食をたくさんすることになるかもね」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る