第3話

 愛しの北原さんへ。


 僕はそれから、可愛らしい便せんに手紙をしたためていた。しかしこれはラブレターではない。北原さんにむっちりしてもらうための、料理のレシピだ。




『ふわふわ玉子のクリームオムライス』




 これはいい、字面を読んだだけで食欲が湧いてくる。僕の家庭科部としての実力を発揮するときがきた。オムライスは意外とカロリーが高いのだ。それにクリーム。うん、これは太りそうだな。


 レシピだけじゃなく、完成した写真も付属しておいた。差し出し人や余計な文言は一切ない。ただオムライスの写真とレシピが入っているだけだ。この珍妙な贈り物を、僕は四か月間、毎日続けた。ある日はカルボナーラ。またある日はお好み焼き。カロリーが高そうな食べ物たちは、北原さんの胃袋を刺激したらしい。ついにはお弁当にまで、僕の送ったレシピの料理を持ってきた。




「北原さん、なんか最近太った?」




 達也が影で僕に言った。北原さんは一回りくらい、体格が大きくなっている。まわり友達も気づいているようだが、女子同士で話題にしにくいのだろう。僕は、




「そ、そうかな」




と誤魔化す。




「あれじゃ、この学校の美少女ランキングトップから陥落かな」




 達也は残念そうに言った。太ったくらいで女子の魅力がなくなるなら、そんなランキング下位で結構。僕は北原さんの太ももを見て思った。立ち上がると両ももがくっついている。




「最近、ほんとご飯が美味しくって」




 遠くの席から北原さんの声が聞こえてきた。当の本人は僕のレシピを嬉しそうに受け止めている。そうやって北原さんの見つめていると目が合ってしまった。すると彼女は立ち上がり、友達との会話を終わらせてこちらへ向かってきた。




「安田くん、家庭科部でしょ? 突然で悪いんだけど、今度料理教えてよ」


「えっ、いいけど」




 思わぬチャンスが巡ってきた。僕は興奮で耳たぶが熱くなる。




「じゃあ、連絡先教えて」


「う、うん」

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