番外編ㅤ誰のため

 これはファウンズの知らない、ファウンズの亡き父であるクラウスの過去の話。


『妹を愛してあげて』


 ベットに座る女性の腰まである銀髪が、後ろの窓から入る朝日によってきれいに輝いている。

 朗らかに笑うその女性をクラウスは悲しそうに見つめていた。


『お願い』


 それでも彼女は美しい声でそう頼むのだ。

 どうしてだと苦しそうに言えばやっと彼女も弱い部分を見せる。


『私はこの子を愛しているわ』


 抱っこしている子供に目を落とす。それはかわいいかわいい彼女とクラウスの子供だ。

 けれどと彼女は言う。私の命はもう長くない、だからーーと。


『だからと言ってなぜ……!』


 どうして愛した彼女ではない女性を愛せと言うのか。


『酷なことを言ってるよね、私。クラウスに酷いこと、してるよね。でも最後に私ができるのはこんなことしかないから』


 ごめんなさいと彼女は言った。それも悲しそうに、自分を哀れむように。

 それ以上クラウスは何も言えなかった。



 彼女の言っている妹と言うのは、彼女自身の妹だ。妹はクラウスをとても好いていた、それを愛と呼べるほどに。

 そのことが原因で彼女と妹は喧嘩をしていた。というのも妹が勝手に拒絶しているだけなのだが、それに彼女はとても傷ついていた。



 理由があって三人暮らしをしている。一緒に暮らしていて顔を合わせないことはない。それでも今までは普通に楽しくやっていけていた。それは妹がクラウスを好きという感情を前面に出していなかったからだ。



 自分の子供をあなたたちに頼みたいと彼女に言われてから妹は何かが壊れたかのように暴走を始めた。『お姉ちゃんは良いよね。最初に会っただけで……年が近いって理由だけでクラウスと結ばれてさ! どうしてお姉ちゃんたちが愛した子を愛さなきゃいけないわけ!?』


 愛せと言ったわけではないが遠回しにそう聞こえたのだろう。

 家を飛び出した妹は帰ってこない。どこも行くあてのない妹を姉である彼女は心底心配していた。


 だから探してきてと彼女に言われたんだ。それから妹のことを愛してという話になった。



 クラウスは妹を探し当て一緒に家へ帰った。結構時間がかかってしまったと言いながら彼女の部屋へ入った。いつも通り。


 そういつも通り。


 ベッドに仰向けになって寝ている彼女の白い美しい顔にいったん見惚れるが、銀色に輝く髪が妙に広がっていることに違和感を抱く。まるで座った状態から勢いよく背中から倒れたような。


 倒れた……。


 無意識に顔に触れようとしたクラウスより先に彼女の妹が駆け寄った。部屋に入ったばかりのときは少し気まずそうにしていたがベッドの所まで行って勢いよく膝をついた。


『お姉ちゃん!?』


 違和感は悪い方向へ的中した。

 クラウスが彼女の首筋に手を当て確認すると脈は動いていなかった。


 どうして。


 念のため鼻の所にも手を当てるが息をしていない。


 どうしてこうなった。



 自分が彼女の妹を探している間に彼女の身に何がおこった。彼女は自分の命はもう少ししかないと言っていたが一体何がおこってこんなに静かに終わってしまっている。



 泣く。彼女の妹が泣く。ベッドの端に水の染みができていた。


 そうなるのならなぜ拒絶した。


 こうなるとは思っていなかったからか。本当はもっと話がしたかったのだろう、今回のことを謝りたかったのだろう。その後悔も含めての涙なのだろう。




*

 泣く。泣いて泣いて泣き叫ぶ。

 そうしたいのはクラウスもだった。けれど涙が出ない息ができない。現実だとは思えないのだ。彼女は寝ているだけ、そう錯覚さえ覚える。


 ああだけれど。

 君は死んでいる。


 死んでいても美しいなんてあるんだなと頭の片隅で考える。

 もう体温なんてものはない。

 最後に彼女と話したのは何だったっけ。


 ーー〝妹を愛してあげて〟


 その言葉を思い出した。お願い、と頼まれた。


 ーー酷なことを言ってるよね、私。クラウスに酷いこと、してるよね。でも最後に私ができるのはこんなことしかないから。


 そう悲しそうに切実に。



 それが彼女の最後の願いなら、俺は。俺は……。



『アマンダ。これからお前のことを愛す』



 君が望むなら何でもする。



 涙で崩れた顔の彼女の妹が振り向いた。


 クラウスの表情は何も感じていないような無であったが、涙で視界がぼやけた状態のアマンダにはよく見えなかった。





 姉がいなくなって随分とたつ。アマンダは姉がわりの様な、まるで姉になったような立場に慣れていた。

 息子と愛する人にご飯を作ったりする日々。

 それなりに満足していた。

 それでもアマンダには別の欲が浮かんだ。


『私の子供がほしい』


 その言葉を受けたクラウスはアマンダを凝視した。


『やっぱりこの子はお姉ちゃんの子なのよ。お姉ちゃんが愛した』


 そう言ってアマンダが見つめる先にはクラウスと愛する妻との間に生まれた息子。

 銀髪で翠色の瞳。よく彼女に似ているユークをクラウスはとても大事に思っていた。

 なのに。それなのに。

 これ以上望むというのか。


『私のこと愛してくれていないの?』


 ーー〝妹のことを愛してあげて〟


 アマンダの姉の言葉を思い出す。

 なぜそんなことを言われたのかよくわからなかったが、彼女の死を目にしたショックで『お前のことを愛す』とアマンダに告げていた。

 愛する妻の最後の頼みなら、と。


 だけれど。

 本当にそれが妻と彼女のためになるのか。


『……わかった』


 疑問に思いながらもクラウスは応えた。




 アマンダとクラウスの間に男の子が産まれた。名前はファウンズ。ユークは兄となった。


 ユークは父に愛されていた、ユーク自身もそう感じていた。でも父は弟を愛していなかった。それは自分がいるせいなのか考えたことがあるが答えは見つかるはずもなく。ある日、父が俯きながら言った。


『ファウンズは、俺の息子じゃない。正式にいうと、ユーク……お前が生まれてきた母とあいつが生まれてきた母は違うんだ』


 ああ、そうか。だから父はファウンズのことを愛していないのだ。


『じゃあ父さん。おれ、父さんの息子やめたい。やめてもいい?』


 そうすれば父の子供はファウンズだけとなり、例えよく思っていなくても唯一の息子という存在となった弟が愛してもらえる。そう信じて言った。父は愕然としているようだった。なぜ息子がいるのにそんなに悲しそうにするのだろうとユークは不思議だった。


 ユークは七歳で魔法学園に行くと言った。学園の講師を務めていたサラビエルに潔く渡すことを選んだクラウスは、ユークに拒絶されたと思ったのだろう。


 実の息子と信じていた存在がいなくなり、心にぽっかり穴が開いたような感覚にまたもやクラウスは陥ったのだ。二度目。愛する妻が亡くなったときと、今回で。





*

 アマンダは自分の子であるファウンズを愛していた。口癖のように『かわいい子』と何度も我が子を見て呟いて。

 けれどクラウスがそんな子を愛していないことに気づき、何度も確かめたことがある。


『あなたは私もこの子も愛していないのよ。愛されもしていないのに存在する価値なんてあるの』

『……悪かった。本当に』


 そう言われたいんじゃない、というかのようにアマンダはかぶりを振る。


 クラウスが派遣から帰ってきた家には誰もいなかった。アマンダだけではなくファウンズまでいないのだ。お昼ならまだしも未明に二人ともいないのはおかしい。

 探して見つけたのが海に面した断崖だった。

 ファウンズのことを抱っこして、危ない絶壁に立っている。


『私は愛すべき者なのよ、大切なものなのよ。……でもやっぱり、神の御業で死んだお姉ちゃんが愛されるものなのね』


 なにをいっている。

 クラウスには理解ならなかった。


『お姉ちゃんには勝てない。小さい頃からそうだった。同じ意味のある名前だと思ってた。同じく愛される者の名前だと思ってた。でもお姉ちゃん……アメリアの方が愛される者の名前だった』


 名前にそこまでの意味なんて。

 そう思いながらもクラウスは口にしない。

 まるで口を挟むことを許してくれない雰囲気をアマンダが漂わせていたからだ。


『私は愛すべき大切なもののはず。でも私は神の御業では死ねない。だから愛されない。ーーそれでも私は、今より優しい世界を選ぶ』


 自然とこわいほど自然と歩み寄ってきたアマンダに眠っているファウンズが渡される。安心したけれど、その気持ちとは反対にアマンダが離れていく。

 焦ったクラウスだったが遅かった。


『もう自分ですら自分を愛せないのがいやなの。ファウンズのこと、大事に育ててあげてください。私が最後にその子にできるのは、貴方に頼むことだけだから。ごめんなさい。……幸せでした。ありがとう』


 穏やかな表情を見せながら後ろ向きで崖を踏み外す。涙が上へのぼっていった。


 重荷だったはずの存在。それがまた別の重荷として、比べものにならないほどの重荷として変わった瞬間、クラウスの心は壊れそうだった。


 悲痛を叫んだ。

 どうして。

 俺が。

 俺が、いけないのか。

 どうすれば良かったんだ。

 なにをすれば、良かった。


『父さん……? どうしたの?』


 はっとした。クラウスの思考が止まる。

 抱っこしていたファウンズがいつの間にか起きていたのだ。暗い顔をしていたからか不思議そうにしている。なんと答えようか迷っていると勝手にファウンズが別の方へ視線を向けた。


『わあ。きれい』


 嬉しそうにしているファウンズの表情がよく見える。同じ方向を見れば、海の水面下から太陽が昇ってくる瞬間だった。

 その光景はとても綺麗なものだ。心に激しい感動を与えるほどに。

 でもどうしてか、悲しい出来事があった後でもそれは作用する。悲しみがこみ上げてくる。


『父さん。きれいだね』


 何も知らないファウンズのことを見てなお苦しくなった。お前のいっている父さんはお前の母を殺してしまったんだと。それを知らずに敬愛して父さんと呼ぶ。そんなファウンズにどう謝罪していいかわからない。


『父さん? どうして泣いてるの?』


 振り向いたファウンズは目を見開いた。涙を流していたクラウスはファウンズを見ていたためにばっちりと目が合ってしまったのだ。


*

 ファウンズを抱っこする腕に力を込め、俯く。


『すまない……すまない』


 アマンダを死なせてしまった。自分が愛せなかったから。自分のせいで。

 妻以外を愛するなんて考えられない。そんな感情で人ひとり死なせてしまった。

 目の前の息子の母親を。唯一ファウンズのことを愛していたアマンダを。


 愛する愛さない、なにをそんなに難しく考えていたんだ。


『お前を愛す。誰よりも自分よりも。だから、許してくれ……』


 まるで誓いのように。なにか重たいものを抱えているように。

 嬉しい言葉なのだろうけど、そのときのファウンズはクラウスが弱っているということにしか頭がいかなかった。だからその言葉を真撃に受け止めることができなかった。


『父さん。ぼく、父さんを恨んだことなんてないよ』


 愛されていなかった自覚はある。けれど好きだった、この世にひとりという存在の父クラウスが。


 透き通ったな空色の瞳を向けてくるファウンズはとても純粋ないい子だと、やっとひとりの人間として見た。

 愛していた人ではない人との間に生まれた子供、産まれるべきではなかった、そう偏見な目で自分の息子を見てしまっていた。


 それに気づき今までのことを後悔したクラウスは、ファウンズのことをぎゅっと抱きしめながらに涙を流した。





 愛する妻アメリアを失ってしまったクラウス。愛する妻の妹アマンダは自分のせいで死んでしまった。

 殺してしまった、という罪悪感をクラウスはずっと胸に隠し持っていた。誰にも言わず。アマンダの実の息子ファウンズにも言わず。

 ただ一人クラウスだけが知っていた。     


 アメリアと夫婦になる前、クラウスは学園の講師であった。

 何もなくなってしまったーー側にいるのはこれから先強くならなければいけない実の息子。

 いろいろ考え家を置いて行くことを選んだ。

 アメリアと息子のユーク、ファウンズ。それとアマンダ。

 皆で過ごした家の中を見渡せば、昔の光景が思い浮かんだ。それは暖かい……。

 アメリアたちの幻の姿が消えてしまう。相反してクラウスの心は一気に冷えきった。


 家の中の閉まった扉。その前に立ち止まったままのクラウスはふと聞こえた『父さん』という声の方に無意識に向く。そこには息子のファウンズがいて、学園に向かうため家を出て行く直前だったことを思い出す。

 ファウンズは真っ直ぐな瞳で見上げたまま。


『僕、学園で強くなるよ。強くなって一人でも生きられるようにする。だから父さんーー無理しないでね』


 小さな子供が何を言っているんだ、と思うがそう言わせてしまっているのは自分なのだとクラウスは気づく。まるで自分が重荷になっていると感じているような台詞。良い父親であった覚えがないクラウスは自分自身を非難した。



 学園にはもう一人の息子がいる。母親と同じ銀髪に生まれてきたユーク。

 そんな兄の存在をファウンズは知らないだろう。物心がつく前に学園に行ってしまった。自らの意思で決めたユークのことは学園にいるサラビエルに任せた。

 サラビエルはお互い講師になる前からの友人だった。アメリアとサラビエルとよく一緒にいた。


 ユークは俺のことを父として見れなくなったのだろう。そう思っていた頃をクラウスは思い出す。

 父さんの息子やめたい、と言ったユーク。ファウンズはユークの母とは違う人の息子、と聞いて幻滅したのだと思っていた。


*

 けれど今考えてみればそのことで離れて行ったのではないのではと気づく。自分に非があったのだ。


 愛したユークの母ではない人との子供、そんな偏見な目でファウンズを見ていたのをユークが悟っていたとしたら。

 子供には難しいことはわからない、ただ自分の父がなぜか弟であるファウンズを嫌っている。そう思っていただけだとしたら。

 兄であるユークは弟のファウンズを守るために何を考えるだろうか。

 自分の子供がひとりになれば、そのひとりに愛が注がれる。

 なんて答えにいきついたりしなかっただろうか。




 学園でクラウスはユークと対面し、一対一で話をした。

『学園での暮らしはどうだ』

『普通だよ。あ、そういえばサラビエルが何かと便利だからってラストネームを一緒にしてくれた。ユーク・リフって名前になったんだ』

『知っている。俺が了承した』


 サラビエルに引き渡す時に話し合ったことだ。

 お互いにどこか他人行儀で沈黙が襲う。そんな中でも二人はそれぞれの心を覗くように見つめている。


『……あのときは悪かった』


 最初に視線を外したクラウスの言葉に聞き耳をたてるユーク。


『ファウンズのことを、お前と一緒に愛せなかった』

『気づけたんだね。今はちゃんとファウンズのこと見てる?』


 ああ、と頷いたクラウスだったがあまり自信がなかった。ファウンズのことを前よりちゃんと見ているつもりではあるが、ファウンズ自身がどう思っているかわからない。今まで冷たい態度をとっていただろう自分の行いに後悔しかない。


 クラウスのそんな心配をよそにユークは石橋の手すりに手を置き、間延びした声を出す。


『ファウンズもここで学ぶことになったのかー……おれのこと覚えてないよね』

『一緒に暮らしていたのは物心つく前だったからな』

『そうだよなあ。でも少しくらい覚えてほしかったな、兄の顔くらい』

『言うつもりはないのか?』

『父さんは言ってないんだよね?』


 久しぶりにそう呼ばれた動揺でクラウスはどもりながら肯定する。ユークから『父さん』と呼ばれることはもうないだろうと確信に似たものを感じていたから驚きと喜びが混じった。


『だったらいいかな、言ってないなら。わざわざおれが君の兄なんて告げないほうがいいんじゃないかなって。ほら理由とか聞かれるでしょ。なんで今まで教えてくれなかったのか、離れていたのか。何も知らないほうがいいと思うんだ』


 なんで今まで教えてくれなかったのかーー学園にいて会う機会がなかったから。

 なぜ離れていたのかーークラウスが自分の息子であるファウンズを偏見な目で見ていたから、改善するためにユークはクラウスから離れ学園に。


 そんなこと言えるはずがない。


『それにおれ、ラストネーム……ファウンズと違うし。信じてもらえないよ』


 ユーク・リフとファウンズ・キル、どう考えても実の兄弟とは思えない。血は繋がっていてもラストネームが違うだけで他人のようにさえみえてしまう。


『例えファウンズがおれのことを知らなくても、おれはファウンズのことを知っている。今が初めましてでもいい。そばで見守ってるよ。おれはファウンズを苦しめるものがあるならそれを取り払うし、辛いと嘆くならそれを受け止める。それがお兄ちゃんの役目だから』


 大人びた顔つきのままユークはクラウスを見上げる。


『だから、父さん。無理しないで』



*

 ファウンズにも言われた台詞。そんなに自分は暗い顔をしているのだろうか、限界そうに見えるんだろうかとクラウスは考える。


 息子二人に言われるということはそういうことなのだろう。

 二人の女性の死を目の前にした。とても大切な。愛する妻とその妹。妹のほうも別の意味では大事に思っていた。

 愛する妻の妹。どんな重荷であろうと守らなければという気持ちがあったが……。


 いろいろとあって疲れてしまっていた。


『父さんがもしおれたちの前からいなくなっても、おれたちは大丈夫だから』

『それはいなくなれと言っているのか?』

『違うよ! そうじゃなくて。父さんにはファウンズのそばにずっといてほしい。だけど、そうなる日が来たならファウンズのことはおれが守るから心配する必要ないってこと』


 ファウンズのそばにずっといてほしい、という中にユーク自身の存在は入っていないのだろう。自分のことはいいから、と弟ばかり優先させる。

 まるでーー妹のことを愛してあげて……と言ったユークの母のようだ。本当によく似ている。


『ね、父さん。少しは気楽になった?』


 そんなユークが笑う。

 無意識に頭に手を乗せた。


『ああ、そうだな。お前は本当に俺に似ないで良い子に育ったな』

『なにそれ』

『思いやりのある俺の自慢の息子だよ』


 笑いながら聞いてきたユークだが、驚いたようにその瞳が開かれる。


『ユーク、お前は母さんによく似ている。名前も彼女が付けたからな』


 アメリアは銀色にきらきらと輝く髪が腰まであり、うぐいすのような翠眼をしていた。

 今のユークは銀色の髪を肩で揺らしている。それでもそっくりなのは彼女のように色白で、くりっとした翠眼をしているからなのか。


 アメリアの声は本当に透き通った綺麗な声だった。まるで鳥のさえずりのように心地良いもので聞いているだけで心落ち着いた。

 男の子のユークはそれとは全く別物だが、すっと耳に入ってくる。


『ファウンズは父さんに似ているね』

『ああ』


 ファウンズはクラウスによく似た。

 黒髪で空色の瞳。髪型も短め。身長で大小と分けて単純に分けてもいいくらい。

 違うとするのなら子供特有の穏やかな目をしているファウンズに比べ、クラウスは鋭め。


 ここまで同じとなると、母に似たユークと同じように性格まで一緒になってしまうのだろうかとクラウスは心配する。

 クラウスは自身のことを関心が薄い人間だと思っている、つまりは冷めた人間。


 今ではファウンズはアマンダのように明るさをつとめているが、成長したら同じになってしまうんだろうか。


『父さん。父さんがもし自分のことを冷たい人間だなんて思っているなら、ファウンズはそうならないからね。それに父さんも違うよ。父さんは暖かい。いてくれるだけでおれたち幸せな気分になるんだから、そうであるはずがない』


 ユークもファウンズも優しい子だと、クラウスはこのとき胸に刻んだ。

 そのことを忘れてしまうはずがないが何があってもいいように。

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魔法召いのリキ・ユナテッド〜召喚師・召喚獣・召使い〜 音無音杏 @otonasiotoa

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