第15章ㅤふとよみがえる光景
「それぞれに解散してくれ」
シルビアとユキが空から帰ってきて全員が集う。それに気づいたサラビエルの発言にルーファースは赤ドラゴンのことを見上げた。
『僕に名前つけてよ』
飛行中に、名前をつけてと赤ドラゴンに言われたルーファース。
『あのドラゴンさんは〝フェリス〟って、リキに名付けてもらったって言ってた。幸せなって意味なんだって』
仕方ないとルーファースは考えぼそっと呟いた。
『……アフェクト』
『どういう意味?』
『知るか』
『自分で言っといて? まさかテキトー!?』
アフェクトと名をつけられた赤ドラゴンは驚きつつ平静を取り戻す。
『まあつけてもらえただけで嬉しいからいいや。じゃあ父さんにも名付けてあげてよ』
『なんでお前の親なんか』
『お願い』
『あんな長く生きてそーなのに名前つけられてねえのかよ。つか名前なんて必要か?』
『必要だよ』
『デスタン……でいっか』
『いっかってなに!?』
ふと思いついたであろうものにまたもや赤ドラゴン、アフェクトは突っかかる。
『その意味は?』
『運命』
とりあえずも聞いたが、とてもいい意味にアフェクトは『僕の名の意味ないのに父さんのよすぎない? 僕の名前はーー』と叫んだ。致し方なく、ないわけじゃねえよとルーファースが言うと『じゃあなに?』と問う。
『影響する』
アフェクトは静まる。かと思いきや『影響するってなに。僕何に影響するって言うの』と疑問は解決されなかった。
別れなのだと感じてアフェクトを見たルーファースは二匹に名をつけたことを思い出す。赤ドラゴンにはアフェクトと、その親の黒ドラゴンにはデスタンと。
「ここにいるドラゴンには魔物を見つけたら抹消してほしい。デスタン……だったか? 私たちはこれからをゼロとしよう」
「お前が望むなら」
「やることがあるのでな、先に失礼する」
自らを殺そうとしたサラビエルをデスタンは許すようだ。仇討ちとして誰かのため、襲ってきたということを考慮してなのか。
踵を返し学園へ向かい歩いたサラビエルはふと止まり振り返る。
それぞれ対話している姿。皆がいる石橋を見て過去の記憶が鮮明によみがえる。
ある目的で学園まで連れてこられた黒ドラゴン。それまで静かにしていた黒ドラゴンが石橋で暴れたために学園の者たちが総出で対峙した。
石橋の手すりが崩壊し落ちていくドラゴンに続いてある男が一緒に落ちていった。
今では、首に絡まる鎖に苦しんでいるドラゴンを助けに行ったのだと理解している。
(ああ、クラウス。お前たちの後輩はお前に似ているよ。皆、相手のことばかり考えて……、馬鹿ばかりだ)
それが奇跡を生んだ。いや、そうしようとすればいつでもできたんだ。自分が捻くれていた。
ーーお前がドラゴンを助けようとしていたなんて気付かずに。いや、そのことを理解しようとなんてしてなかった。
サラビエルの後ろ姿が見えなくなった頃。
立ち去る前にと黒ドラゴンのデスタンはファウンズに近寄った。前触れもなく過去の話をし始める。
「ファウンズ。お前の父は勇敢だった。私にとっては命の恩人だ、感謝する。本人には言えなかったからな」
*
ファウンズにとってはとても興味深い話。
初めてデスタンがクラウスと出会ったのは、彼が森の中の自分のテリトリーに一人でやって来たときだった。
デスタンへ向けられた第一声が『赤い子ドラゴンは預かった』。
こいつは何を言ってるんだ? となったデスタンだったが、続けて赤い子ドラゴンの特徴を言ってのけるクラウスの発言は真実味を帯びていた。
なぜ? 目的は?
訊ねればクラウスは『返してほしければ俺たちについて来い』と。
彼が一人ではないことがわかった。
それではまだ答えになっていないとデスタンが言い返せば、学園まで大人しくついてくれば子ドラゴンには危害を加えない、とはっきり言った。
『約束だな』
心の中を読むように見つめれば、真っ直ぐとした目でクラウスは見つめ返してくる。嘘など言っていないーーそう訴えている目だ。
それを信じてデスタンはクラウスたちについていくことにした。後ろについていくわけではなく、周りを囲われ連行される形で学園まで向かった。
デスタンが学園に進むはずの石橋の半分あたりから何人もの人が集っていた。進めずに止まる。学園の者たちだろう。誰もが警戒態勢なところを見れば厳重に注意されているのだとわかる。
『このドラゴンは学園で預かるということでいいな』
『どのくらい監禁しとくつもりだ?』
『少なくとも一年』
会話を交わす見知らぬ男二人をデスタンは怪訝そうに見た。
『どういうことだ?』
ドラゴンが喋ったことに驚く一同を無視し、デスタンはクラウスに顔を向ける。
『ここに大人しく来れば我の子を返してくれるんじゃなかったのか?』
気まずそうにするクラウスのかわりに別の者が口を挟む。
『ドラゴンが喋るなんて聞いていないぞ』
『我の方こそ監禁されるなんて聞いていない』
すかさず言い返せば、またクラウスに真実を求めるような目を向ける。
『我の子はどこだ? クラウス』
『ここにはいない』
『なんだと……。なら我は戻る』
ここだ。
ここで。
『ここで帰すわけないだろ。サラビエル、拘束しろ』
『しかし……』
『早くしろ』
立場の偉い者に命令されサラビエルは呪縛魔法を黒ドラゴンに向けて放った。
『やめろ!』とクラウスの声がした気がしたがもう遅かった。
『なんだこれは』
デスタンの首に絡まる黒い鎖。それは普通の鎖とは違って徐々に首を絞めつけていった。苦しみながら吐いた火玉によって石橋の手すりが崩れる。
それを見ていたクラウスはサラビエルに命令した者に振り返った。
『こんなことをするなんて聞いていない!』
『我々の方こそドラゴンが喋るなんて聞いていない。クラウスといったか、お前は知っていたようだな。ドラゴンなぞに名前なんかで呼ばれて』
そんなことはどうでもいい。と言うかのようにクラウスは、攻撃を受けているデスタンの前に立った。
最初に危害を与えたのはこちらのほうだ。なのにまるで自分の身を守るためにドラゴンに敵対しているかのような。
そんな現状に怒りを覚えクラウスはドラゴンの味方をする。
自身が壊した石橋の手すりがないところにデスタンは後退しながら足を踏み外した。
*
気づいたクラウスはとっさに追いかけるように自らに落ちた。ほんの少し飛ぶまでに数秒時間があったが迷いはないように見える。
『……すまない』
鎖を断ち切るときクラウスは謝罪を口にした。
こうなってしまったことにドラゴンに謝ったのか、はたまた子ドラゴンについて謝ったのか。それとも落ちる前に見たファウンズに、かの行為を謝ったのか。
デスタンが意識を手放す前に聞こえたのはその一言と、鎖と剣の衝突する音だった。
目覚めたデスタンの横には意識不明のクラウスが横たわっていた。
『我を助けたのはお前か?』
死んでいる、そう確信した。
『人とは哀れなものだな』
残酷で脆い。正義感があって美しくても、それで終えてしまう。
「お前の父を死なせてしまった。すまない」
デスタンは己のことを守って亡くなってしまったクラウスのことをファウンズに謝った。あの時にクラウスが命を落とした原因は自分にあったから。
「あの人ならあんたにしがみつくなりして死を回避できたはずだ。なのにそれをしなかった。できたのにしなかった。サラビエルやお前に責任はない」
まるでそれが本当のことのように、冷淡と。
「あやつが、彼が死を選んだと言うのか?」
「そうだ」
「なぜそう言い切れる?」
「あの人は死を望んでいた。俺がそうさせたんだ。あの人は、……父さんは俺の存在に苦しんでいた」
「自分の子供の存在に苦しむ親などいないだろう」
「本当の子供でないとしたら?」
「……まさか、血が繋がっていないのか?」
「血は繋がっている。なんというかーー」
そこまで言ってファウンズは話を途切れさせる。
「あんたに話すことでもないな。ただ、あの人は疲れていた、自分を取り巻く環境に。そこに俺がいた。他に関わる人たちもいるが、俺がいなければよかった話なんだ」
デスタンには彼が何を言っているのか理解不能だった。しかしクラウスと同じ父親の身としてそんなことはありえないだろうとは思った。が、ドラゴンである自分がそれを否定をしたところで耳を貸さないだろうと他の可能性を考える。
「何があったかは知らないがそんなことを言うな。彼が何をどう思っていたかなんてわからん。だがお前を生んだ母はそれを聞いたらどう思う。少なからずとも母はお前の味方だろう? 自分で選んでお前を生んだんだ」
サラビエルに聞いたのだ。ファウンズはクラウスの息子で、あのとき石橋にいたのだと。目の前で亡くなる瞬間を見たということになる。
それで深く傷ついているであろうとデスタンは憶測していたが、別のことで心に穴が空いているようだ。
「そう、だな。母は俺のことを愛していると言ってくれていた。まさかドラゴンに励まされる日がくるなんてな」
「お前は彼のことが嫌いなのか?」
「嫌いじゃないからこそ苦しんだ。どうして僕を見てくれないのって思っていたな、あのときの俺は。父さんのはずなのにたまにそう見えなくなる時があって……こわかった」
小さいけれど聞き取った本音だと思える言葉。
意外にもファウンズはデスタンに心を開いているのかもしれない。クラウスが亡くなったあの日、あの場所で同じものを見たという事実があるからなのか。
*
「俺はこの場所で父である存在をなくしたのを覚えている」
「それは俺もだよ。俺もファウンズと同じ。どこか似ていると思わないか?」
黒ドラゴンが立ち去り、ほどなくして気配がしたがファウンズは振り返らず独り言のように呟いた。
クラウスが落ちる瞬間サラビエルとファウンズはそこにいた。けれどそこにはユークもいた。
あの時に落ちたであろう橋の方を見たまま沈黙が流れる。
ユークはあの後のパーティー会場でファウンズと出会ったことを思い出す。
お互いまだ小さい頃パーティー会場で鉢合わせした。
ファウンズは暗い顔をしていた。自分の父が亡くなったばかりであったから周りなんかどうでもいいというかのように目を伏せていたのだ。
そんな彼をユークはまっすぐと見つめていた。するとファウンズは顔を上げた。それが学園での対面。
全機関にドラゴンへの攻撃を禁止されてから、西ブリゲイドにドラゴンの姿が現れるのは不思議ではなくなった。
「平和になったものね」
「手のひらを返したようにドラゴンとの交流が始まってなんか妙だよね」
その場面を見ていたフウコとライハルトは感嘆しているようだ。が、浮かない顔をしている二人を見てリキは別のことを感じ取った。
「嫌なの?」
「そうじゃなくて、なんか一瞬にして世界が変わったようだなって。もちろん嬉しいことだよ。僕たちが小さい頃、ドラゴンが学園に連行されるように歩いていったの見たことあるからさ」
「ああ、あれね」
同じ孤児院にいたライハルトとフウコは黒ドラゴンが魔法学園に連れて行かれている光景を思い出す。
厳重に警戒している学園の者たちの中にいたのは、大きないかつい顔をした漆黒のドラゴン。
「あのときはびびったわ。孤児院を出て学園に行くことになったときはあのドラゴンが頭にちらついてほんとこわかった。あんなのと戦うのって」
「僕もこわかったな。でもあんなのと対決することができるようになるのかって興味津々だった」
「あんたはほんと好奇心旺盛な子供だったわよね、妙なところで」
「それは褒め言葉? そうとして受け取っておくよ」
スマイルスルーするライハルトと、フウコの会話を目の前にしてロザントは改めて思う。
「あんたたちって本当に仲良しよね」
フウコは心底嫌そうな顔をする。
「やめてちょうだい」
「いやー照れるなー」
「ライハルト、思ってもないこと言わないで、柄にもない。せめて棒読みにして」
「僕たち仲良しでしょーーうっ」
「きもい。やめて。ほんと気色悪い」
顔面をぐーで殴られる始末。眉間のあたりがじんじんとしてライハルトは手でおさえる。
「眼鏡壊れる」
「壊れたときはライハルトの貯金でどうぞよろしく」
「酷いな……」
その光景を見ながら呆れたようにロザントは息を吐く。
「吐き気がするほど仲良しね」
それに反応して向き直ったフウコがわざとらしい笑みを見せた。
「ところでロザントちゃんはなぜここにいるのかしら?」
「柄にもなく丁寧な言葉遣いだね」
「殴るわよ」
「殴るというより今蹴りが入ったけど」
回し蹴りは難なくかわすライハルト。
*
一行に話が進まない。と、呆れきった目で自分たちを見るロザントにフウコは簡潔的に問うことにした。
「ロザント、ここへ来た理由を述べよ」
「なんで出題みたいになってんの。別にあんたたちに会いに来たわけじゃないわよ。リキがここにいるって聞いて来たの」
「リキに何か用?」
「別に用ってほどのことではないわよ」
なるほどというようにライハルトの眼鏡が光る。
「用がないのに会いに来たってわけだ」
「なるほど、顔を見にきたのか。あんたってほんとお姉ちゃんっ子よね」
「な、なにそれ!?」
「リキってほらお姉ちゃんぽいところあるでしょ。おしとやかで怒ったりもしないで、なんでも許してくれるような存在っしょ」
「フウとは正反対だ」
「それは認めるわ」
珍しくも嫌味にも聞き取れるものにフウコは素直に頷いた。そのまま話の対象である人物に視線を向ける。
「私としてはストレス溜まって爆発しそうな気がするけど、しそうになったりしないの?」
「村にいたときは同い年の子があまりいなくて喋る機会なかったから、そんなにお喋りじゃないのかも……」
困ったように笑う。リキは小さい頃を思い出すが、同い年の子と遊んだという記憶がなかった。話すとすれば自分よりうーんと年上のおじいさんや両親と同じくらいの女の人と男の人。といっても両親は物心ついたときにはもういなくて、精神的に頼れる人がいなかった。周りには優しい人ばかりで不自由はしなかったが。
心の開ける友人がいないからか愚痴をこぼすこともなく、遊ぶとすれば森の探検。で、そこで会った大きな鳥さんは唯一心を全開にできる存在となった。
人間同士だとやはり大人と子供の区別があるわけで、どうしてもそこを考えてああ違うんだなと思う。けれど大きな鳥さんには容姿もかもしれないが、不思議な雰囲気があって他の何ものでもないと感じた。
落ち着いた声に、自分の話を聞いてくれようとする姿勢、それは村の人たちにもあった。されど一つだけ異なる。
いつ関わりをなくしてもいいとある意味一線を引いているものを感じとっていたから、リキは関係を紡ぎたかったのかもしれない。離れたくないと。
関わりたいと思いながらも離れていこうとする者は初めてだった。ただ単純に大きな鳥さんという初めて目にするものに興味が湧いていたからという理由も間違いではない。
「愚痴とか言ってもいいのよ?」
「フウみたいになんでもかんでも言う子じゃないからね、リキは」
「なにそれどういう意味」
「人それぞれ、十人十色ってわけ」
あんたリキには優しいわよね、と言われたライハルトはそう? と含んだ笑みで答え。沈黙を挟んでから向き合う。
「リキ、ドラゴンと敵対しなければならない環境を変えてくれてありがとう」
それはいきなりのことで「急にどうしたの」とフウコは驚く。「お礼を言わないとと思って」と聞いてから何か考えているような顔をする。
そして同じように姿勢を正し、リキの手を取り両手で握る。
「リキ、私からもありがとう。ドラゴンと戦うなんて本当嫌だったから夢みたい」
続くようにロザントが腕を組みながらに当然の顔をして言う。
*
「私はリキが変えてくれるって信じてた。最初はもちろん何言ってんの馬鹿みたいって思ってたけど、あなたの本気さが伝わったから。できないことをしようと試みるんじゃなくて、叶えたいことを成し遂げようとする姿が……なんとなくわかった。まあ私はなんもしてないけどね、あなたが全部やった」
一緒に行動できなかったことを後悔しているようにどこか不服そうだ。
「私だけじゃ何もできなかったよ。皆の力があってできたことだから」
謙遜しているように見えるが実際、周りにいる者たちがいろいろとしてくれた。問題にぶちあたったりもしたが誰かがその壁を必ず壊してくれる。ただその風に乗っていたようなものだ。当の本人はそう思っている。のだが。
「そうだぴょん! 私たちを忘れるなぴょん!」
リキの肩に乗っている子兎のラピは偉そうに胸をはる。
「ほーんと、うさぴょんは自分の手柄みたいに」
「いやいやいや、ちゃんと私〝たち〟と言ったぴょん!」
「だからその私たち召喚獣のおかげだぞっていう姿勢が……」
フウコは思わず笑ってしまう。どうしてそんなに自分に自信があるのか。
つられるように皆が笑うのでラピは周りを不思議そうに見回した。
「リキはとんだ俺様召喚獣をよんだな」
「俺様!? 私はメスぴょん!」
「へえ女の子だったんだ」
「まじで」
「声で気づけぴょん! ばかやろう!」
ライハルトとの会話に素で驚いたフウコまで喝をいれられる。考えてみれば失礼だなと思ったフウコは視線を真横にそらす。
「私は気づいてたよ、うん」
「絶対嘘だぴょん」
フウコのことを疑いの目で見ていれば、自分のことをじっと見つめるロザントの姿に気づく。
「なに見てるんだぴょん」
「いや、召喚獣にオスメスあるんだなあと」
感心しているように驚いている。そんなロザントも学園での演習のとき、二匹の兎姿をした召喚獣を出していた。一匹はクリーム色のした兎で、もう一方は漆黒。大きさはラピの二、三倍といったところ。肩に乗れるほど小さくはないが、黒兎の方は羽がついていて常に空中に浮かんでいた。
「そういえば貴様も兎みたいな召喚獣出していたぴょん」
「キサマってなによ? あの子たちはオスメスわからないのよ、喋らないから。ーーってなに驚いた顔してんの」
「喋らないって、ありえないぴょん」
「すごいびっくりって感じだけど、あんたの存在の方がありえないのよ。べらべら喋って気持ち悪い」
本音を言っただけだ。
それなのにあのラピが泣きべそをかく。
何を言われてもどんな罵倒でも怒って反抗してくるのに。
「気持ち悪いって言われたぴょん……ぐすっ……リキ、そいついじめるぴょん」
「なっ」
まるでロザントは悪者になった気分になる。
リキはよしよしなんてラピの頭を撫でているし。
ーーそこ変わりなさい。
なんて頭の片隅に浮かんだものより大事なことがある。リキの許しを貰わなければ。
されどそんな必要はなかった。
「ロザントは悪気あって言ったことじゃないよ。そいつって言うのはやめよう?」
「でも」
*
「うん。辛いこと言われたね。でもラピが喋るのは全然気持ち悪くないよ。ただラピが喋るのはありえないすごいことだから他の人にもそう言われることがあるかもしれない」
喋る兎に初めて出会ったときには誰もが驚くだろう。驚きをこえて気持ち悪いなんて思ってそれを正直に口にしてしまう人もいるかもしれない。それでもラピはラピなのだから、喋ることが普通であるのだからおかしいと気にすることではない。
「なるほど! ありえないすごいことだから驚いてそう言ったぴょんね!」
「そうそう」
すぐに元気を取り戻す。単純だとラピはよく言われるが純粋な子なのである。
「ほんとリキはうさぴょんを乗せるのがうまいね」
「あたりまえだぴょん! ずっとここに乗ってるんだぴょん」
「いや、そういうことではなくて」
肩に乗せていることを言ったのではないが、まあいいかとライハルトは暖かく笑う。
リキはドラゴンであるフェリスと行動を共にすることが多いが基本ここ、西ブリゲイドにいた。他の者たちはドラゴンとともに各地の討伐機関にいる。
北フォースにはシルビアとユキ。シルビアが小さい頃に灰色のドラゴンであるユキに名前をつけたことで絆ができた関係だ。
東ブリゲイドにはファウンズとデスタン。ファウンズの父クラウスに黒色ドラゴンのデスタンは命をかけて守ってもらった。人間がどうして、など思いながらデスタンはクラウスの息子であるファウンズに彼への恩を返そうとして側にいる。あるいは罪償い。
南トループ、そこにはルーファースとアフェクト。
赤ドラゴンのアフェクトとルーファースはお互い小さい頃に仲が良く一度縁の切れた関係だったが、ファウンズたちの行為により修復された。
ルーファースが謝罪をしアフェクトがそれを許す。それだけのはずだったがアフェクトのほうも謝っていた。ひどいことを言ってごめんなさいと。
トループにはユークもいた。あの時の話を聞いたユークはルーファースが一人だとまた暴走するかもしれないからと、見張り役をかってでたのだ。
冗談めかして『兄として側にいるよ』と言ったユークをルーファースは理解できないといった顔で凝視していた。
リキのいる西ブリゲイドにはロキもいるのだが、朝が弱いために未だ部屋で寝ている。
各地にドラゴンがいるのはいわば宣伝活動のようなものである。ドラゴンは人間の仲間、人間はドラゴンを傷つけない。そのことを少しずつお互いに知ってもらうために。
「フェリスや皆が傷つけ合わない平和な世界、になったよね」
両の手のひらの上に包むようにして持ち聞いてくるリキにラピは柔らかい表情を向けた。
フウコとライハルトは、やっと起きてきたロキに話しかけている。ロザントだけがリキの言葉を聞いていた。
「ラピ、私のために生まれてくれてありがとう」
ラピだけは他の召喚獣と少し違って、リキがなくなってしまえば共に消える存在となっている。どうしてそうなるのか、どうしてそうなることを知っているのか。ずいぶん前にリキに問われたラピはわからないと言った。
わからないけれど、リキがご主人さまで、最後まで一緒にいられるのは嬉しいと。
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