第14章ㅤ夢ではない
とても深く短い夢を見ていた。
暖かい光が自分を起こそうとしている。
起こされるかのようにリキは瞼を開けた。
それに気づいたのだろう。誰かがリキの名を呼ぶ。
そちらに視線をやると窓から差し込む白い光に包まれるようにユキがいた。
確かユキはサラビエルの鎖の呪縛魔法によっていなくなってしまったはずだ。
幽霊として自分の前に現れてくれたんだろうか。
ーーいや違う。
自分がここへ来てしまったのではないかと思う。
ユキだけが白い光に包まれているのかと思えば、空間全てが白かった。
「ユキ? ここは……天国?」
そうリキが聞くと灰色のドラゴンーーユキは声を出して小さく笑った。
「私は天国に行けそうもないんだがな」
こうして眠りにつく前の出来事を思い出してリキは自分は死んでしまったのではないかと思った。
黒ドラゴンの吐く大きな炎の塊を受け止めきれなかった。だからこんな所にいるんだろうと。
しかし違うらしい。
だとしたら後ろにいたロキとユークは無事だろうか。肩にいたラピは召喚獣で消えてしまったとしても召喚すればまた出てくる。だから心配はしていない。
けれど人間であるロキとユークはひとつの命しか持っていない。
もし運良く自分だけが助かってロキたちがなくなってしまっていたら。
そう考えると心臓が波打つ。
あの炎玉を遮れたとしてその後に黒ドラゴンとの戦闘が続いたはずだ。
自分だけがーー。
自分だけが助かったとしたならそれは、間違った運命。
「ロキとユークは……無事?」
息を呑んで聞いたリキの声は震えていた。
リキの心配を感じとったかのようにユキは暖かく笑う。
「全員、お前の傍にいるだろう」
ーー全員?
はっきりとしてきた目で横になったまま見渡すが、掛け布団が邪魔をしているせいか誰も視界に入らない。
重たく感じる体を動かし上半身だけ起き上らせる。
ある人物の赤い髪が目に入った途端驚くほど安心した。
「ロキ……と、シルビアくん?」
なぜ彼がここにいのだろうとリキは理解ならなかった。
綺麗な金髪がさらりと顔に垂れる。
あの時あの場にいたのはロキとユークで。
そういえばユークはどこにいるのだろう。
上半身を起き上がらせた状態で、先ほどより見える辺りを見回す。けれどユークがいない。
なぜシルビアがいてユークがいないのだろう。
「……ユーク」
絞り出すように名を呼ぶ。
すると反応したのはシルビアだった。
目を開けたシルビアの蒼い瞳がリキを映す。
「リキちゃん……」
寝ぼけながらに見つめたまま名を呼ぶ。
ベッドにうつ伏せになって寝ていたシルビアは数回瞬いたあと、前触れもなくリキに飛びついた。それまでシルビアが座っていた椅子が勢いよく倒れ音をたてる。
「シルビアくん……?」
衝撃で倒れそうになりながらもリキは腕で自分の体を支えた。
なぜ彼がここにいるのか、不思議に思いながらも他のことが頭をかすめる。
「ユークさんは?」
その問いかけにシルビアは無反応だった。
というのも「無事で良かった」という言葉に重なってしまったのだ。
どうしてこんなに必死なのだろう。彼を悲しませるようなことをしてしまっただろうか。
*
そんなことを思いながらもう一度聞こうかとリキが考えていたときシルビアは離れた。正確にいうとはがされたようだ。
ロキがシルビアの首根っこを持って怒ったような顔をしている。起きたばかりですごい形相だ。
「なにするの」
「何してんだ。こっちのセリフだ」
リキから見て右側にシルビアと同じようにベッドにうつ伏せになっていたロキ。本当に起きたてなのだろう。シルビアに対しての言葉遣いがおかしい。
「ユークさんは」
「俺ならここにいるけど?」
リキの問いかけにカーテンに手を添えユークは姿を現した。
横だけカーテンに遮られて、いても見えなかったのだろう。
「良かった……」
なぜかシルビアがいて、あの時まで一緒にいたユークがいなくて心配だった。大きな怪我でもしているのではないかと。けれどそうではなくてとても安心した。
リキが緩む表情でユークを見ていると視界いっぱいにロキの顔が映る。
「俺もいるけど?」
とても不機嫌そうだ。眠気もまだ抜けきっていないのだろう。目が怖い。
「なんでそんな嬉しそうなわけ?」
「二人とも無事だったんだって思って」
「俺見てそんな顔したっけ?」
「してないかもだけど」
「なんでしねえの?」
まるで酔っ払いのようだ。いつものロキならこんなに顔を近づけてはこない。半分意識も薄いのではないだろうか。
「目が覚めたとき一番にロキを見たから無事だったんだって思ったの。だけどユークさんがいなくて。それでなぜかシルビアくんがいて。どうしてシルビアくんここにいるの?」
リキが話をふるとシルビアが説明した。
最初はシルビアもリキたちと行動を共にしていた。
ある街でドラゴンを飛ぶ姿を見かけ追いかけることにしたのだが、丁度ファウンズとルーファースを見かけシルビアはそちらを追うことになったのだ。
手違いで討伐機関に渡してしまったドラゴンの討伐依頼。どうすればそれを破棄することができるのか。
ファウンズたちと対面できたシルビアはそのことについて話した。
リキたちがドラゴンを追って行ったことも言い、一緒に早く追いかけようと提案したのだがそれどころではなかったらしい。
ファウンズとルーファースは姿をなくしたフェリスを探していた。
いなくなったフェリスを探さなければならない。ドラゴンを追ったリキたちも追わなければならない。
フェリス探しよりもドラゴンを追ったリキたちと合流する方が何かと危険で二人で行く必要がある。シルビアとファウンズで行くのが一番良いがそれは駄目だとファウンズは言った。ルーファースを一人にするのは信用できないと。
そうなると必然にシルビアとルーファースで行くことになるが組み合わせとしては今まで一緒にいたファウンズとルーファースが良い。
二つを天秤にかけてシルビアはフェリス探し、ファウンズとルーファースにリキたちを追ってもらうことにした。
それでシルビアはフェリスと赤ドラゴンに出会い、ドラゴンが向かった方角ーー学園にフェリスの背中に乗り赤ドラゴンを連れて来たらしい。
部屋が定員オーバーでここにいないフェリスは、ファウンズたちと同行していたのだが休憩中に離れているとき、赤ドラゴンの姿を見つけこの機はないと自分だけで追ってしまったと。
それでばらばらになってしまった皆はこうして医務室に集まった。
*
シルビアの話を聞いていて未だベッドの上にいるリキの前にルーファースが姿を現わす。「起きたんだ」とユークが言う。他のベッドで寝ていたらしい。
「ルーファース……ドラゴンへの謝罪は済んだの?」
「ああ、まあな。それより、お前が呑気に寝てるときに俺たちがあの黒ドラゴンを始末してやったんだぞ」
「図々しい。少し手合わせしただけだろ」
気をそらすように視線を外し話題を変えたルーファースの隣へファウンズがやってくる。
あの時、リキは寝ていたのではなく気絶していたのだ。
「あのドラゴンは殺してしまったの?」
ルーファースの『始末した』という発言。
確かに黒ドラゴンは始末しなければならない存在だったのかもしれない。学園を滅ぼしにやってきたと決意を心に決めていたようだったから。
それでもーー黒ドラゴンを始末した、という言葉とユキが殺されてしまったことが重なってそうであってほしくないとリキは微かに思った。
サラビエルに殺されてしまったと思っていたユキはなぜか目の前にいるけれど、亡くなってしまったという喪失感は未だ覚えている。自分のせいであったからこそそれは大きかった。
だから黒ドラゴンもユキのように生きていてほしいと思う。
「こいつの謝るべきドラゴンが何の縁があってか黒ドラゴンの生き別れの子供で、そいつのおかげで平和的解決をした」
「ということは黒ドラゴンは生きてる?」
ファウンズが肯定するのを見てリキは安心し、別に視線を移す。
ユキを見上げ、疑問に思っていたことを問う。
「それでユキはどうして……。あの時死んでしまったんだって思った」
「私もそう思った。しかし眠っていただけらしい」
ユキが言うには、あの首を鎖で締め苦しめる魔法をサラビエルは力を抑えて使った。黒ドラゴンをやっつけるのにユキの存在が邪魔になるのではないか、と心配してやったことなのだとサラビエルは言ったと。
サラビエルと直接話がしたいとリキが切り出すと、サラビエルは講師たちと会議中で話せないようだ。やっと本格的にドラゴンとの共存する世界を考えられているとのこと。
あまりリキは深く考えてはいなかったが、学園を中心に世界は回っているらしい。討伐機関が重要な所だと思っていたが一番は身近な学園だった。
ここは窮屈だ、とのことでユキは医務室から出ていく。
リキは考えがあってサラビエルの会議室に向かうことにした。なんでとロキに聞かれる。自分に関係のあることだからと答えると次にユークが「サラビエル講師は一度、ドラゴンと共存できる世界を一緒につくる、なんていう約束をしながら裏切った。だから今度は本当にその世界を、サラビエル講師に何があっても必ず実現させてもらう。そういう形で報いを受けてもらうことにしたんだ」と。
ユークの口からそんな言葉がでてくるなんて思わなかった。
裏切られたこともあったから、これを機に力を貸してもらえたらなんて期待した。
「それでも私は微力かもしれないけど力になりたい。フェリスの生きやすい世界にするって約束したから、ユキにものびのびと暮らせるようになってほしいから。サラビエル講師だけには任せられない」
会議室に行くと決めたリキを止める者はいなかった。外で待っているとファウンズが出て行く。
シルビアたちはリキの背中を見送ってからファウンズに続いていった。
*
一緒に学園から出てきたサラビエル講師とリキは、全員が集う橋のところまで歩む。
「久しいな、リキ。無事でよかった」
目が合ったリキは「フェリスも」と言い微笑んだ。
フェリスとリキは別行動をしていた。
フェリスはルーファースに、ドラゴンへ謝罪させるためファウンズと共に。
リキはドラゴンへ危害を加えない世界にするためユキと同行していた。そのユキはサラビエル講師に殺されてしまった思ったのだが今では一時期奪われたという表現が正しいのだろう。
ユキが奪われて移動も簡単にできなくて頼りにしたロキとユークが力を貸してくれることになった。それから後にシルビアもついて来てくれることになったのだが途中で離れることになって。
いろいろあって今ではここに全員いる。
「会議した結果、一部のドラゴンには魔物退治を強力してもらうことになった。我々からのドラゴンへの手出しはなくなる。だが人間に危害を加えるようなドラゴンならこちらも抵抗はさせてもらう」
リキよりも前に出てサラビエル講師は堂々とした態度で言い切った。と思いきや、居心地悪そうに眼鏡のふちを押さえ直す。
「……これでいいだろ、罪滅ぼしは」
サラビエル講師は裏切り行為をした。黒ドラゴンを自分一人で倒すために。しかし力及ばず。
リキたちが来なければ命も取られてしまっていたかもしれない。
医務室のベッドで目が覚めたサラビエル講師にそのことをユークたちが話しても、倒さなければ気がすまないと身を引こうとせず。
どうしてそんなに執着しているのか問うと、ある人物の敵討ちだとサラビエル講師は答えた。
その人物を聞いたファウンズとユークはなんで今まで思い出さなかったのか、自分自身を不思議に思った。
それでも黒ドラゴンを退治するのは諦めろと、ファウンズは言い放った。黒ドラゴンには子供の赤ドラゴンがいて、その赤ドラゴンとルーファースが繋がっているから。
仲直りしたところをみると赤ドラゴンとルーファースは本当に親しい関係なのだろう。
やっと良い関係となったのだ。これからの世界にも重要な存在となるかもしれない。赤ドラゴンの親である黒ドラゴンを殺してその可能性を壊すわけにはいかない。
それにあれは事故だったんだ。
ファウンズの言葉にサラビエル講師は、わかっていたかのように目を伏せ辛そうな顔をした。
『確かにあれは事故だったのかもしれない。それでも、私のせいでもある。あのとき私が……』
『あんたのせいじゃない。ドラゴンを学園へ連れて来ようとしたやつが悪い。あんたが提案者なのか?』
『あのときはまだそういう口出しができる立場じゃなかった……』
『言うことを聞くしかなかったんだろ。それはもういい』
どうでもいいといった感じのファウンズにサラビエル講師はなぜか、許されるのかもしれないと感じた。
そして、敵討ちをしなければと強く思いながら、絶対に許されはしないとどこがで感じていたことを知る。
『あの人が望んだはずのない世界。サラビエル講師、あんたはそんな世界をつくりかけている。小さい頃はドラゴンの暴走に巻き込まれてあの人は亡くなったんだと思っていた。だが今の俺には、最後までドラゴンを守ろうとしていたように見える。そんなドラゴンをあんたは仇として倒そうとしていた』
サラビエル講師はそこではっとする。
*
『おかしいだろ? あの人が守ろうとしたものをあんたが消せば、あの人の死はあんたが無駄にしたも同然になる』
守ろうとしていた。あのドラゴンを。
目に映ったあの人の最後は、首に絡みつく鎖に苦しみながら橋から落ちるドラゴンを追うように自ら崖に飛ぶ姿だった。
脳裏で再生されたあの時の記憶を一切先入観なしに見たら確かにそうだったのかもしれない。
だとしたら呪縛魔法をドラゴンにかけた自分が本当に悪い……そう思い絶望するサラビエル講師はファウンズの言葉にまたもや救われる。
『あの人もあんたと同じで上の言うことを聞くしかなかった。リキの望む世界はあの人の見ていた世界と同じだと俺は勝手に解釈している。だからそれを実現してほしい』
初めてのファウンズからの頼み。いや命令なのかもしれない。
医務室の窓際のベッドにはリキが眠っている。そのベッドの両脇には椅子があり、窓の方のにはシルビアが、もう一つの方はロキが。
ルーファースは空いているベッドに座っている。
ファウンズの傍に立っているユークは無表情でファウンズと同じ真剣な顔をしている。が、話を聞くためサラビエル講師たちの方を向いているロキは静かに驚いていた。
ファウンズがこんなにも喋っていると。
いつも喋らないというわけではないが、無口な彼が一人でべらべらと喋ることが珍しかったのだ。
話を聞いていても細かいことまでよくわからないが「あの人」にお互い執着していることがわかる。それが誰かはロキは知らない。
『裏切り行為の罪滅ぼしをしてくれ』
罪滅ぼし。
それはリキへの裏切りに対してのもの。
ドラゴンと共存できる平和な世界を一緒に実現する。リキと約束をしたものの、そうしようともせず逆にその邪魔をした、悪化させようとした。
ユークも畳み掛けるようにそのことについて提案したのだ。
「あのとき私のために涙を流してくれたな。嬉しかった」
ユキがリキに近づき話し出す。
サラビエル講師に呪縛魔法をかけられたユキは首元を締め付ける黒い鎖に苦しめられていた。倒れて意識が朦朧としているように見えるユキを見て悟ったリキは涙を流した。
意識をなくしていただけで本当に良かったと思う。
「実は私の名をつけたのはシルビアだということが判明した。縁とは不思議なものだ。空を飛びながら少し話をしようと思う」
ユキは小さな男の子に名前を付けてもらったと言ったことがある。ドラゴンである自分を怖がらない子供だったと。
雪の降る日であったからユキ。単純な名前の付け方だがユキはとても嬉しかったらしい。
傍まで来ていたシルビアはユキの背中に乗り「じゃあ行ってくるね」と言い残していった。
「僕たちもそうしよっか」
「は?」
「よしそうしよう」
それを見て何を思ったか赤ドラゴンが提案する。
「どうせ〝一部のドラゴン〟って僕たちのことでしょ。魔物退治する前にこういう楽しみもいいでしょ」
理解していないルーファースを両手で持ち、赤ドラゴンは飛んでいく。
ルーファースの制止に赤ドラゴンは止まることはなかった。
青い空に近づいたのを見て諦めたルーファースは赤ドラゴンの背中によじ登る。
今自分が乗っているのは赤ドラゴン。喧嘩というか絶交していたような仲だった。
*
ルーファースの知っている赤ドラゴンは自分よりも小さい、背中に乗ることができるなんて考えられない子供。
そんな赤ドラゴンの背中に乗っている。
こうなったのはファウンズたちに捕まって、解放されるためにフェリスに赤ドラゴンのことまで打ち明けて、そのことについて謝罪するよう命令されーー。
謝罪し許されたからこそ今一緒にいるのだ。
それもこれもリキのせいなのだろう。
リキがドラゴンと仲良くしようと、ドラゴンが生きやすい世界にしようとしていたからまた再開することになったし。そのことがあったからフェリスは赤ドラゴンに謝れと言ったのだ。
最終的になんだかいい感じにまとまった。
周りの奴らが、奴らの力がそうさせたのかもしれない。けれどその発端はリキの発言にあった、行動にあった。
いい風に言えば、なにかもリキのおかげなのだろう。いや現実を言えばなのか。
そんなリキが大嫌いだったルーファースはリキに酷いことをした、酷いことを言っていた。学園にいた頃の話になるが。傷つけることを何でもないことのように、傷つけたことに傷つくことすらせず、それをすることをごく当然かのようにしていた。
リキはただの純粋なやつだった。それを馬鹿だと思っていたのだ。偽善者が、と。
リキが善だと思ってやったのではないのならそれはただのルーファースの思い込みで、リキが善だと思ってやったことなら本当にそれは善だったのだろう。
偽善者なんて言葉は、ふさわしくない。ふさわしいとするなら自分だとルーファースはリキへの偏見を改める。
「(今まであいつにしてきたこと、どう報いればいいんだろうな)」
ルーファースは空を茫然と見上げ考える。
全くもって考えが浮かばない。今までのことは何をしても許されはしないだろう。じゃあ何をすれば。
そう思ったとき、自然と体がふわっと動く。そんな感じがした。
ーーああこうすればいいのか。
「なにしているの」
気づけば赤ドラゴンの両手に包まれていた。
落ちてしまおうとしたルーファースを赤ドラゴンは自然とキャッチしたのだ。
遠くを見たままルーファースは答えを求める。
「今まで酷いことをした。かもしれないやつにどう報いればいいんだ」
「そんなの簡単だよ。謝ればいいんだよ」
「謝る?」
「ボクに真実を打ち明けてくれたように、本当のことを全部言うの」
地上ではサラビエル講師と黒ドラゴンとリキが話をしていた。
ルーファースと赤ドラゴンが戻ってきたことにより視線が集まる。
そんな中ルーファースはリキの前まで行き、話があると言い二人で離れた場所にやってきた。
「ユナテッド。その、すまなかった」
俯き加減に目の前にいるルーファースにリキは不思議そうにする。
「学園でのこと、いろいろと」
言い訳にすらならないかもしれない。と、ルーファースは自分のことを話し出す。
自分を含むぜんぶが無くなればいいんだ
そう自暴自棄になっていた頃。
誰彼構わず酷いことをしていた。
そうなってしまった原因かもしれない過去。
それを聞いたリキは黙ってしまったルーファースのかわりに口を開く。
*
「私も魔物に両親を殺されてしまったの。でも見てはなくて、それを見てしまったルーファースは辛かったよね。自暴自棄になったりしてもおかしくないと思う。だからとは言わないけどもう気にしないよ。ありがとう」
「……なにが」
「ルーファースの過去とかいろいろ、本当のこと言ってくれてありがとう」
「二度も言うな。そんなに俺のこと知るのが嬉しいのか」
「うーん、まあ、嬉しいよ」
答えてからルーファースの冗談だと知る。
「微妙な返事だな。にしては笑顔」
「ごめんね。なんだろう、まだちょっと抵抗があるというか」
「俺のこと?」
「……ごめん」
「別に、そうなるのが当然だろ」
伏し目がちになったリキを見てルーファースは視線を横に逸らす。
「俺は許されることを知らなかった。だから一度そういうことをしたやつにはとことん同じ、いや、それ以上のことをした。むかついたんだ、そういうことをしたはずの相手が何食わぬ顔で近づいてきて。なんで? って。そのくせ自分から離れていったと思ったら壊してしまおうと思った」
最初は演習中の些細な攻撃だった。ある人をかばったためにリキはルーファースの怒りをかったようで、パートナーになるよう言われ演習中に手がすべったなどと大鎌を飛ばしてきたりした。
それでも、そのときはまだ良い。
仲が縮まっていたほう。
「捻くれてんのかな、俺」
「それがルーファースなんだと思うよ」
魔物との戦いで一緒になったときのことだ。戦闘後にルーファースの悪いところを自身に指摘した。すると押し倒されあざになるほどの力で手首を掴まれ、敵意むき出しの目で悲惨なことを言われたのだ。
その後の関係は良くならず。
そこから悪い方向へ一変した。
「いやえっと、嫌な意味じゃなくて。複雑な心境だけどそう思うルーファースがルーファースなんだよって話で。捻くれているとかそんなことは言ってないよ」
演習中に踏みつけられたり、任務中には蹴飛ばされたり。いろいろと酷かった。
それでも目の前にいる人は今は反省している。
彼もいろいろと事情があるのだ、また同じようなことが起きないことを望んでリキは許すことにした。
「あのときはごめんね」
ルーファースとの話が終わり橋へ戻ってくるとリキは赤ドラゴンに話しかけた。
洞穴の赤ドラゴン。
よく見れば彼は、初めての任務出撃のときに会った赤ドラゴンだった。見間違えはしない。体に無数の傷がある。ファウンズがつけた傷だ。
「ううん、あのときはボクも病んでたし。君は最初にあったときの約束を守ってくれたでしょ? だから、お姉さんのことは好きになれそうだよ」
「ありがとう。嬉しいな」
「ボクも」
突然登場した赤ドラゴンにリキは傷つけたりしないと約束した。相手は無言でもちろんドラゴンが喋るものではないと思っていたリキは一方的なものだと思っていたが、次に洞穴で会ったとき何もできなかったと後悔した。傷つけないと言いながら、自分の仲間が赤ドラゴンを傷つける行為を止められなかったのだから。
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