#13
その日以降、瀬良くんからのLINEは来なくなった。
瀬良くんから連絡は来なくなったけれど、相も変わらずボクは池内さんとも話せていない。
季節は
体育の授業は水泳からマラソンに変わったし、制服は半袖の開襟シャツから首の詰まった長袖に変わってリボンをつけることになっている。上に着るのもベストじゃそろそろ寒いから、セーターを出そうと思う。
この三ヵ月、ボクの日常には変化がない。
変化がない。
そうだ、変化がない。
ボクは相も変わらず、学校に行って、自分のことを「私」と言い、友だちと他愛無い話で盛り上がって、部活して、帰宅して、宿題して、アニメ見て、寝ている。
変化がないことにしたい。
だけど、ボク自身は気づいている。
夜、ベッドに仰向けになって凝視する黒い天井に思い描くのは、池内さんの顔じゃない。
アプリの通知で枕元に置いているスマホの画面が青白く光った。
「なんだ、ニュースか……」
プッシュ通知が、LINEのものですらないことに落胆する。
スマートホンの電源を押して、画面を切った。
――ボクは何を期待しているんだろう。
勝手な自分に、我ながら嫌気がさす。
「迷惑なの!何にも知らない癖に、ボクのこと、好きだなんて言わないで!!!」
あんなひどいことを言ったのだ。
瀬良くんから連絡が来るんじゃないかと期待している、自分を軽蔑する。
ボクはスマホを枕元に放り出して、再び天井を見上げた。
瀬良くんの顔を思い出そうとするけれど、詳しくは覚えていないことに気づく。
――淡い期待でも無理です。
顔もはっきり覚えていない人からの連絡を待っている意味がよく分からないし、未練がましいにもほどがある。
自分から振っておいて、瀬良くんの愛情を期待する意味が分からない。
この三か月間、ボクは毎夜、瀬良くんのことを堂々巡りに思っては、自己嫌悪に苛まれていた。ボクの全脳細胞を瀬良くんが占めている。
――ボクは、瀬良くんのことが好きなんだろうか。
ボクは眉根をギュッと寄せて、天井を見つめた。
――スゲェ、自分勝手。
自己嫌悪で胸が苦しい。
――申し訳ない。
でも。
謝りたい気持ちでいっぱいいっぱいになるボクが夜闇の中で想像する瀬良くんの顔は朧気で、「背が高くてイケメン」という、乏しい語彙力で表現される以上のイメージは出てこないまま、意識は混濁として、耐え難い睡魔のなかに飲み込まれ、気が付くと気怠い朝を迎えるのだ。
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