#12

「あんな女のこと、気にすんなよ」


 瀬良くんはボクに青いハンドタオルを差し出した。

 泣いていることに気づかれていた。動揺するボクに対し、余裕を見せる瀬良くんに無性に腹が立った。

 悔しいのだ。

 ボクのことを分かったように振る舞う瀬良くんにも、池内さんと付き合っている横川くんにも、自分勝手にボクの気持ちを翻弄する池内さんにも、それから、何もできない自分にも。


「友だちの彼女でしょ。そんな言い方ないんじゃないの?」


 ボクは、瀬良くんのタオルを受け取ることなく、手で涙を拭いながらそっぽを向いた。


「だから、お前のこと無視するような女のこと、気にすんなって」


「気にするよ!」


 ――余計なお世話だ、分かってない癖に。


 カッとなって怒鳴るボクに瀬良くんが目を丸くした。

 ボクは気にせずに続けた。続けずにはいられなかった。


「気にするよ!だって、ボクが好きなのは、池内さんなんだから!!!気にしないわけないじゃん!!!!!誰のせいで、ボクが池内さんに無視されてると思ってんの!?瀬良くんが!瀬良くんがボクのこと好きだなんて言うからだよ!?!?!?」


 瀬良くんの顔が歪む。


「迷惑なの!何にも知らない癖に、ボクのこと、好きだなんて言わないで!!!」


 真っ赤になって、ついには俯いてしまった。

 ボクは、彼の方を見ないまま


「じゃあ、ボク、行くね」


と言い残して去った。

 その時にはもう瀬良くんへの怒りは収まっていた。

 ただ、ボクのせいで、彼がつらそうにしているのを見ていられなかった。




 池内さん彼女は、染森そらボクを愛さない。

 染森そらボクも、染森そら彼女を愛さない。

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