#11
瀬良くんは
「……そっか」
と言ったきりだった。
ファッションビルから最寄りの駅まで、ボクらは黙って歩いた。
「おーい!瀬良ぁ!!!」
背後から聞き覚えのある鼻にかかった陽気な声が聞こえてきた。
「それから、えぇっと……染森さん!染森さん、だったよね?」
声の主は横川くんだった。
「お前らもデート?」
「お前らもって……」
瀬良くんは横川くんのほうを振り返って尋ねた時、
「亮ちゃーん!待ってよぉ!」
と、さらに後ろから池内さんが大きなショッパーを持ってちょこちょこと小走りにやって来るのが見えた。
「放ってくなんてひどいじゃん!ねぇ、これ持ってよぉ」
「悪りぃ、悪りぃ。お前の試着待ってたら瀬良が歩いてくのが見えたからさぁ、つい……」
横川くんは池内さんの荷物を受け取りながら謝った。
「あー!瀬良くん!久しぶりぃ、ボウリング以来だね!元気だったぁ?」
池内さんは満面の笑みをつくって、普段よりも一段と高い声で瀬良くんに話しかけた。よそ行きの声だ。
「あぁ、まぁね」
池内さんは、瀬良くんに視線を向けたまま、動かさなかった。それはきっと意図的に。
横にいるボクのことは眼中にないフリをしている。
「そっかぁ、よかったぁ!……ねぇ、亮ちゃん、次、あっち行こ!」
「お……おう。じゃ、またな瀬良!それから……染森さんも」
「亮ちゃーん!行くよ!」
横川くんが見ても。
いや、多分、誰が見ても不自然なほどに。
池内さんは瀬良くんの隣にいるボクに気づいていない風だった。
――話しかけないで。
決して口には出さない。
でも、態度が雄弁に物語る。
池内さんの姿が、彼女の存在がボクの心臓を
池内さんの憧れだった瀬良くんは、ボクのことが好きだから。
でも、ボクが好きなのは、池内さんなんだ。
スタスタ速足で歩いていく池内さんを横川くんが追いかけていく。
二人の後姿を眺めていたら、ボクの目からはいつの間には涙が零れていた。
なぜなら、彼女は女の子で、ボクも女の子だから。
女の子であるボクは、愛されるわけがない。
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