#08

 瀬良くんとはファミレスでご飯を食べて、LINEを交換して別れた。

 それから毎晩、瀬良くんからLINEのメッセージが来る。今週末は一緒に映画に行くことになった。デートだ。


 ボクはスマートフォンを枕元に置き、ベッドの上に大の字になった。白い天井を眺めていると、今夜もそこに池内さんの顔が浮かんでくる。

 雫浜で別れて以降、池内さんとは話せていない。


「池内さん――」


 瀬良くんたちと会った次の日の放課後、ボクは教室を出ていこうとした池内さんを呼び止めた。池内さんは一瞬足を止めたような気がした。


「紗英ー、どうしたのぉ!?置いてくよー!!!」


 教室の外から池内さんのいつメンの声が聞こえた。


「待ってー!今行くぅ!!!」


 池内さんはボクの方を振り向きもせず、駆けて行った。


 ――急いでた時に声をかけたのがよくなかったんだ。

 ――タイミングが悪かっただけ!

 ――そもそもボクの声、池内さんに聞こえてなかったんじゃないの?


 何度も自分に言い聞かせたけれど、池内さんに避けられたんじゃないかという疑念は消えないまま、また無視されるのが怖くて、ボクは池内さんに声をかけられないでいた。

 今日だってそうだ。

 ディベートの時間、同じ班になったけれど、目も合わせてくれなかった……。


 ボクはベッドの上で寝返りを打って、身を横にして丸まった。


「めんどくさい」


 白いシーツを見つめながら、ボクは思わず呟いた。

 昼間、母親が変えたんだと思う。新しくおろしたての固いシーツは心なしか冷たい。


 ――いや、いっそのこと……


 ボクは自分に問いかけた。


 ――池内さんには避けられたままのほうがいいんじゃない?




 だって――



 池内さんは、きっとボクを愛さない。




 なぜなら、ボクは女だから。




 女だから、ボクは、染森そら彼女を愛さない。

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