#05

 雫浜駅前の時計は15時前を指していた。

 崇徳学院は創立記念日だそうで、彼らの部活が終わってからの待ち合わせになったそうだ。


「え?ウチらの授業終わってからの待ち合わせにすればよかったんじゃないの?」


「えぇー。早く会いたかったんだもん!瀬良くんに」


 ボクの至極まっとうな真面目な意見に対して、池内さんは悪びれもせず答えた。


 駅前ロータリーの向こう側から連れ立って歩いてくる、マッシュヘアの男の子と頭1.5個分突き出た長身短髪の男の子に、池内さんは大きく手を振った。多分横川くんと思わしきマッシュヘアのほうが片手をあげる。隣の背の高い男――瀬良くんは軽くこちらに会釈した。


紗英さえは瀬良のことは知ってるよね?紗英のご指名で連れてきたんだし」


 横川くんが池内さんに話しかけた。池内さんはにこにこしながら瀬良くんのほうに向きなおり、


「初めまして~」


と言った。


「これが池内紗英!オレの小学校の同級生だったヤツ。ええっと……それから……?」


「染森さん……だよね?」


 横川くんに促されて、池内さんがボクのことを紹介するよりも先に、瀬良くんがボクの名前を発した。


「え?……なんで私の名前知ってるの?」


 思わずボクは聞き返す。


「なんでって……小美玉高、よく練習試合に来てるし、強いから」


 あの・・イケメン瀬良様が、まさかボクの名前を知っているなんて思ってもいなかった。直接話したことはないし、しかもボクは女子バスケ部員だ。よほどの有名人でない限り、他校の男子部員の名前なんか知らない。誰かからボクの名前をわざわざ聞いたということだろうか。


「あー。染森さんって、こんな子だったんだ」


 横川くんが感心したような顔をする。


「へぇ!染森さん、けっこう有名人なんだね!崇徳で噂のオンナなの?」


 横川くんは、黙ったままでいる瀬良くんの顔を見上げて、


「まぁね」


と言った。


「えー!どんな噂ぁ?教えてよぉ!」


 ケラケラ笑う池内さんに釣られて男子二人も笑っていたけれど、ボクについての話はそれっきりだった。

 これからどこに行こうかという話から、ボクたちはボウリングに行くことにした。

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