#04

 胸の高鳴りが抑えられないまま、ボクは学校を後にし、駅前へと繰り出した池内さんについてきてしまった。ドキドキするのは、きっと顔が火照っているのを池内さんに気づかれやしないかと思っていたのもあるからだ。

 ボクが池内さんを――女の子を好きだとか、そういうんじゃない、きっと。


 ボクの数歩先を、元気に大手を振って歩いている池内さんに話しかける。池内さんは、なんならスキップしそうな勢いだ。


「ねぇ!池内さん……ウチらさー。ど、どこ行くの?」


 沈黙に耐え切れなかった。

 バス停についたボクは、妙に胸が締め付けられ、高鳴る鼓動をよそに、池内さんに話しかけた。ボクより少し背の低い池内さんはケータイに目を落としていた。伏した長い睫毛が頬に影を落としていた。


「んー……とねぇ……雫浜しずくはま駅へ行きたいの」


「雫浜駅?崇徳すとく学院とかあるところだよね」


 雫浜駅といえば、市を南北に分断する一級河川尾白おじろ川の向うにある駅だ。崇徳学院とのバスケの練習試合に行くのに何回か利用したことがある。


「そー、その雫浜駅。崇徳学院の子と待ち合わせしてるんだ」


 崇徳学院は県内屈指の有名私立高校だ。バスケットボールの強豪校で、今年は春の県大会の一回戦で、ボクら小美玉おみたま高校が当たってしまったのが記憶に新しい。前評判通り、ボクらは速攻で一回戦敗退してしまった。

 その崇徳学院になぜ帰宅部の池内さんが行きたいのだろうか。ボクは理由を尋ねると、池内さんは


瀬良せら翔平しょうへいって知ってる?」


 と言った。

 瀬良翔平といえば、崇徳学院男子バスケ部のセンターポジションの男子だ。背が高くて甘いマスクが、崇徳学院に留まらず、他校の女子生徒にも人気の男だと記憶している。練習試合ですら見学の女子たちがどこからともなく集まってくるほどだと聞く。


「瀬良くん、試合とかで見かけたことあるけど……それがどうしたの?」


「今日ね、お互いに友だち連れてきて一緒に遊ぼうってことになったの」


「へえ、仲いいんだ。もともと知り合い?」


「ううん!違う違う!えっ……と。ポイントガードに横川よこかわっているでしょ?」


「横川?」


「そう!横川りょう。亮ちゃんが小学校の同級生で、今度一緒に遊ぼうって誘われたから、『瀬良くんと一緒ならいいよ』って言っといたのね。そしたら、亮ちゃん、セッティングしてくれて、瀬良くんに会えることになったんだ」


「へえ、そうなんだ」


 それだけ答えるとボクは黙った。要するにボクは、池内さんのWデートの人数合わせ要因として選ばれたようだ。かわいい女の子が、自分より見た目イケてない女子を自分の引き立て役にするようなものだろう。

 話だけ聞いていると、池内さんは瀬良くんに会いたいみたいだけれど、その横川くんとやらは池内さんのことが好きなんじゃないんだろうか。


 ――この場合、どう立ち回るのが正しいんだろう。


 ボクは、池内さんと、顔ははっきり覚えていない男子たちのことをぼんやり思い描いて、会った時のことをシミュレートしてみようと思ったけれど、何せ情報が少なすぎる。

 結局のところ、出たとこ勝負で合わせるしかないという結論に辿り着き、考えるのを辞めた。

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