番外 49_【火の遺跡】1 地上から地下十階まで
「うちに住む魔獣、短期間で増え過ぎじゃないかな……」
「気にするべきは、数じゃなくて
「この庭に、【試練の遺跡】四属性全部の主が……ラスボスが、勢揃いしてんねんぞ。ちっこいけど」
「まあ、一見牧歌的なほのぼの風景っぽいからピンと来ないよねぇ。ホントはその気になれば一晩で世界滅ぼせるメンツなんだけどねー」
世界が滅ぼせるかどうかについては、ロウサンとシロがいる時点で既に余裕だったので、今更じゃないかな。だからやっぱり、気になるのは数だと、セイは思った。
どうしてこんな事になったのか……何回思い返しても、よく分からない。
・◇・◇・◇・
風の遺跡の後は、火の遺跡を目指すことになった。
水のAランク以下のダンジョンの様子も、属性魔法を新たに授けてくれる【
けれど、水の遺跡の魔獣は瀕死、風の遺跡は水と木が枯れ果て巣が荒れていた状況から考えて、火と土の巣の魔獣も、もしかしたらギリギリになっている可能性がある。急ごう! となったのだ。
ロウサンに乗って上空から見たところ、王都の東に水の遺跡、南に風の遺跡があった。「だったら次は、時計回りで進んで西が良い」と仲間が希望したので、セイがフェンリルとリヴァイアサンのヒゲを持って「火の鳥の巣、土の牛の巣」と念じ、西の方角を指したのが【火の遺跡】だった。
風の遺跡から帰った翌日には、ロウサンに乗って出発。
西の火の遺跡は、侵入禁止の結界が無く、扉が開けっ放しで、人の出入りが激しいダンジョンだった。
冒険者もいたけれど、それよりも騎士の方が多い。金属鎧姿の男たちは騎士団と分かるが、革鎧の男たちにも冒険者とは違う「組織の一員」という気配を漂わせている者が複数いた。
姿を消して近付いてみると、鎧も武器も使い込まれていて、いかにも戦闘職です! という血生臭いオーラでむんむんしている。
「オラッ新入り、ちんたらしてんじゃねぇ! さっさと行って魔獣ぶちのめして男を上げてこい!」
「ヘタれたヤツぁ置いてくからな! 自分の限界は自分で見極めろよ!!」
新人らしき若者たちが怒鳴られていた。外見は騎士なのに、ガラが悪い。でも、なんか既視感があるな……?
「勇者一行の女性剣士の騎士団と、同じ旗を持ってますね」
キナコの指摘で、納得。ああ、それで。王女に付いてた王護騎士団とは違って、あの騎士たちは口も態度も山賊に近かったね。
新人を連れてダンジョンへ入って行く集団の後に付いて、セイたちは姿を消した上で、距離もちょっと取りつつ入場。念のためロウサンは別行動だ。
地上一階はどの遺跡も似た造りらしく、石製の床に石壁、謎の柱が立ち、セイの腰あたりまでの高さの横穴があちこちにある。
地下一階からは土の地面。岩山など障害物に高さがある物が多いのは、主が鳥型だからだろうか。スライム的な小型魔獣も、丸っこい火の玉ボディに小さなコウモリ羽が生えていた。
地下に降りてからも人間が多いので、騎士のみなさんの戦いっぷりを見学しながら、静かに後に付いて進んでいく。
ダンジョン全体としては、やはり枯れ木が目立つ。足をかけた途端に崩れる石の足場は、元からそういう造りなのか、老朽化のせいなのか判別が難しい……どちらにせよ、土の乾きっぷりが異常なのは間違いない。
階層毎にテーマの違うアトラクションっぽい造りなのはバーナ・ダンジョンと同じで、こちらの方が高低差が大きい仕様のようだ。迷路も立体的で、木の棒の梯子を登ったり降りたり、短い坂を滑り落ちたり、棒だけの建物(アズキが「巨大ジャングルジムやな」と言っていた)があったり。
天井から吊り下がったロープに掴まって、足場から遠くの足場へ飛ばなければならない箇所もあった。
ここでセイたちは騎士たちの後を付いて行くのを止め、人気が無くなった隙に飛ぶことに。
「……これは長年メンテナンスされてないロープ……もしかしなくても、百年以上……」
恐怖でセイの手が震えた。落ちれば下にあるのは、水不足ゆえにこってりとしたヘドロである。いざとなれば魔法で守ると魔槞環たちが袖の中から口々に言ってくれたので、えいやっと飛んだ。着地でよろめいたけど無事成功、やったー!
喜んでいるセイは、カワウソたちが「セイならロープ使わんでも、魔法で飛んだらええんちゃうんか……」「セイくんにいきなり生身で空中移動するイメージを描いてって言っても、難しいと思いますよ」「ぶっつけはきついか。ほんなら帰ってから特訓やな」「ですね」などと言って含み笑いしていたことを知らない。
その後も、姿を消したまま魔獣との戦闘を避け、運動量の多いエリアをひたすら進んで行く。
地下五階から六階へ行く扉は、ここもバーナ・ダンジョンと違い、既に開け放たれていた。
(開くのに必要な魔力は副属性だと思うんだけど、属性は何だったんだろ?)
その答えは、六階以降に出る中型魔獣の攻撃が【雷魔法】なあたりで、察した……雷の直撃を食らって気絶程度で済む騎士たちの頑丈さに驚きつつ。
地下七階から、急激に人が減った。
それまで湧いていたのが、火のスライム【ヒノタマスライム】や火鼠などの小型魔獣、火を吐く翼持ちの大トカゲや、足が六本ある犬っぽい姿の雷獣などの中型モンスターだけだったのが、大型モンスターも湧くようになるからだ。
上半身鳥で下半身が蛇の大型魔獣は、毒のある火を吐いている。
長い
そんなエグい攻撃を目の当たりにしていながら、ちょっと戦いたそうにうずうずしているカワウソたちを見て、セイは正気を疑っていた。どっちみち人がいるから無理だけど。
結局モンスターと一度もエンカウントしないまま進んでいき、地下九階の一番奥へ。ここまで来ると、さすがに無人だ。
閉ざされた巨大な扉。
慎重なセイたちは、念のため九階に人がいても見られないよう、そして扉が開いても向こうから毒が来ないよう、自分たちの前後にコテンが結界を張り、いざ。横の壁にある窪みに手を当てて、魔力を流す。
重い音を立てて開いた扉を、安全を確認しながら通り抜け、地下十階へと降りる。その先で見たのは────切り立った岩山がひしめいている、広大な景色だった。
「……地下だよね?」
「めちゃくちゃ遠いけど天井が見えるんやから、とりあえず屋内やろな」
「どこかに転移させられたって感じでもなさそうですよね……ここって最下層でしょうか」
「多分……?」
水の遺跡も風の遺跡も、最下層の広さは凄まじかった。ここも、造り自体はかなり違うが、雰囲気が似ている。
高さがあり、段差も多い岩山のいたる所に枯れ木が生えていた。先へと進む道は真っ直ぐではなく、分岐も見える。
迷路とまでは言わなくても、一番奥へ辿り着くには時間が掛かりそうだ。
でも行くしかない……足を踏み出そうとしたら、鬣と尻尾の先が燃えている獅子型の大型魔獣がどこからか現れた。
セイが細かい制御が出来るようになった【鑑定】で調べてみると、[種族名【焔獅子】]と出た。
焔獅子は無人の入口を見て数秒固まった後、地面のにおいを嗅ぎながら同じ場所をうろうろ回っている。扉が開いたのにニンゲンが居ないから困っているのだろう……焔獅子を驚かせないよう、距離を開けてからセイたちは消していた姿を表へと現した。
「すみませーん」
『あ? ニンゲン? なんで……あっ、
やはりここでも月絲族に間違われた。月絲族のダンジョンでの役割を思うと否定するのは心苦しいが、仕方ない。
「ごめん、僕たちは月絲族じゃないんだ」
『月絲族じゃないって、でも言葉……んー、でもそっちか。月絲族にしては細い……小さい……そうだな、違うな』
月絲族って、すごく大きくて太いんだな! 月絲族が、すごく大きくて太い。なるほど! セイは自分を無理やり納得させた。
「僕たちは冒険者っていうか……魔界を目指す真の挑戦に来たんだけど。君と戦えば良いのかな?」
水と風の遺跡では、早い段階で最下層に直で跳んだせいで、通常の【真の挑戦】のやり方を知らない。試練とやらを受け続けていくと最終的に遺跡の主に会える……そういう仕組みなのだろうか。
ここまで戦闘無しで来た分、連戦になる覚悟で焔獅子に問いかけた。
『真の挑戦者ねぇ……久し振り過ぎて、何するんだったっけって感じだよ。ふーん……へー……うん、強い魔力を感じる。そこの岩に魔法で攻撃してみて』
「火魔法でやった方がいいのかな?」
『なんの属性が使えんのさ?』
「一応、全部のはず……」
『へー! すごいじゃん。じゃあ水魔法がいいな』
「分かった。……岩に水魔法で攻撃してって言ってる。アズキくん、キナコくん、先にお願いしていいかな」
こういう場合にどの程度の力を出せば良いのかよく分からないセイは、カワウソたちに見本を頼んだ。
アズキとキナコが快諾。詠唱後に岩にぶつけられたのは、焔獅子と同じ大きさのウォーターボール。威力は、岩の一部がやや崩れたくらい。なるほど、そういうのか。ほぼ同じ水魔法を出して、セイは岩へとぶつけた。
『ははっ、アンタら、すっげえ手加減しただろ。うーん、うん。奥まで案内するよ。でもその足じゃいつ着けるか分かんないか。オレのカノジョ呼ぶから、待ちな』
焔獅子が「ガウッ」とひと鳴きすると、鬣が無く、しかし今いる焔獅子には無い鳥の翼を持った獅子が、岩山の上から降りてきた。雌の焔獅子で、エリアの最奥までセイたちを乗せて運んでくれるらしい。
ありがたい……が、このまま乗るのは、寄生虫というか衛生的なモノが気になる。でもそんな失礼なことを正直に言えるはずも無いので、「乗せてもらうお礼に! 水の遺跡の魔獣たちからは大変喜んでいただけた浄化魔法を、ぜひ!」と強引に勧め、相手が頷いたと同時に雄の焔獅子もまとめて一緒に、さっさと浄化魔法を掛けた。先払いだよ!
浄化魔法が気持ち良かったのか、二匹がゴロゴロ喉を鳴らして擦り寄ってきた。燃えてる鬣が近付いてきた時はドキッとしたが、炎なのは見た目だけで実際には燃えていなかった。その気になれば本物の炎に変えられる……なるほど。
翼を持った雌焔獅子に乗って、最奥まで。……ロウサンの乗り心地と比べてはいけない……岩山を自分の足で乗り越えずに済んだことに、ただ感謝しよう。ほんとありがとう。巣の中を端から端へと飛び回られて酔いそうになったけど。
そして最奥の、行き止まり。一際高い岩山の頂上は、枯れ木に囲まれた土の広場になっていた。あるのは壁の魔法陣だけ。遺跡の主である火の鳥も、他の魔獣も全く居ない。気配すら感じない。
魔法陣に近付いてみると、中央にあるはずの鍵、宝珠が無い──どころか、嵌っているはずの穴そのものが、無かった。
「え……」
『どうした? 魔力を流さないのか?」
「えっ?」
焔獅子が不思議そうに見てくる。これが普通の状態なのか……?
落ち着いてよく見てみると、本来なら宝珠がある場所に、魔力感知型の扉を開ける窪みに似たものが、あるにはあった。だいぶ浅いけれど。
……えー? 戸惑いながら手を当て、魔力を流す。魔法陣に沿って端から中央に向かって赤みの強い黄色の光が走り、その後を追うように赤色の光が走る。
全体が光ったと思ったら、魔法陣の彫ってある壁が扉となって、開いた。
(ちょ、まさか魔界に行くのか!?)
あまりに予想外の展開に焦ったが、扉の向こうに見えたのは魔界ではなく、小部屋だった。しかも入り口以外の三方が石壁で閉ざされている。行き止まりだ。
部屋の中にあるのは、大きめの箱だけ──【交換箱】? 何故、魔法陣の先にあるのが、交換箱部屋なんだ?
……いや、似てるけれど、蓋がしてあるのに箱の上に【魔界】【地界】の文字が無い。ということは……
「交換箱じゃ、ない?」
『あれは宝箱だよ』
「タカラバコ? ……宝箱?」
「「宝箱!?」」
カワウソたちが大声と共にその場でビョンっとジャンプして、箱へと走ろうとした……のを、セイはカワウソたちの胴体を素早く掴んで止めた。ギリセーフ。
「中身が何か分からないのに、危ないだろ」
「えっ、でもっ、宝箱やったら俺らが貰ても大丈夫なもんが入ってるはず……」
「貰わないよ。僕たちが貰う理由なんて無いし」
「セイくんっ、見るだけ! 見るだけですから!」
「宝箱って言うくらいなんだから、中に入ってるのは誰かの大事な物なんじゃないの? だったら勝手に触るのはダメ。……ごめん焔獅子さん、この巣の主さんに会いたいんだけど、どうすればいいのかな?」
『はははっ、アンタ面白いな! そうだな……選ぶのはアンタだ、宝箱に聞いてみなよ』
「聞く……宝箱に?」
なんのこっちゃ。完全意味不明だが、言う通りにしなければ事態は進まなさそうだ。
「宝箱さん、お伺いしたい事が」
────何を望む?
「は?」
声が、直接脳内に響いた。カワウソたちとコテンを見ても、不思議そうに
────何を望み、ここへ来た?
声と同時に、宝箱の向こうの壁に大きな鏡が現れ、セイの全身を写し出した。
(うわ、最近まともに鏡見てなかったけど、髪ボサボサに伸びて、だらしなくなってるな)
問題はそこではない。
この部屋には仲間も焔獅子カップルもいるのに、セイしか写っていなかった。魔法の鏡なのかな?
(望み……どう言おうかな……一番は“遺跡の主の火の鳥に会いたい”だよね。それと、この巣の魔獣のみんなが無事なのか確かめたい。水の遺跡の事を伝えて、水不足で困ってるようなら池の一つや二つくらい作って帰りたい。水の殻魔環を渡すのも有りだけど、過剰なお礼が返ってきそうで迷う。魔界へ行かなきゃいけないから、加護を貰いたい……どうすれば貰えるのか教えて欲しい。言われた通りに頑張るよ。でも今までの主さんたちがすぐに協力的になってくれてたから今回もなんとなくそのつもりでいたけど、そろそろ拒絶っていうか警戒されてもおかしくないんだよな……チュンべロスについても訊ねたいんだけどなぁ……)
────おぬし、なんかすごいな
「は?」
────全て本心。全て真。驚き
「なに……?」
声に出して無かったのに、姿の見えない何かに考えが伝わってしまったのか? そういうのは先に言っておいて欲しい。僕、変なこと考えて無かったよね……?
────望み、聞き遂げた。望み、叶えに行くが良い [ 解錠 ]
鏡が、ふわりと暖かな空気を出して、一瞬で溶けて消えた。溶けた後にあったのは、扉。
扉が勝手に開いていき、その向こうに見えたのは──地下十階に降りてすぐに見たものと、全く同じ、岩山がひしめく広大な景色だった。
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