番外 47_【風の遺跡】4 竟門と殻魔環
『我々が授ける加護は、魔界へ行く者への
「キョウモン?」
それらしい生き物に会った覚えは無いけれど……どんな魔獣なんだろう?
詳しく聞いてみると、『竟門は巣の主だ』「巣の主はフェンリルさんじゃないの?」『我は巣の魔獣の主だ。竟門は巣そのものだ』など、やはり意味が掴みにくいやり取りの繰り返しになったものの、どうにか把握。
「質問いいかな? 小さくても水の巣が他にもあるのに、水竜の巣が閉じられてたら魔力は運ばれて来ないの?」
来ないそうだ。主のいる巣からしか属性魔力は発生しておらず、そこから他の巣へと供給しているのだ、と。
それじゃ他の水の巣も、水不足でみんな瀕死になっているのでは!?
『魔獣も主の巣から転移しておる。小さき巣に魔獣は棲んでおらぬ、心配は無用だ。魔獣たちは皆、主の巣に篭っておっただろう』
焦るセイをフェンリルが宥めた。
……そっか、通ってるのか。でも近い内に一応様子を見に行こう。
話を戻す。
それら他の巣の最下層に【竟門】という──生き物なんだかなんだか、どれだけフェンリルに聞いてもよく分からない──存在がいるそうだ。
名前は同じだが、別々の意思を持っている……つまり竟門とは、個別の名前ではなく、種族名。
そして、竟門に気に入られると、その巣の属性魔法を新しく取得出来る。
(“気に入られると”って言い方なのに、生き物じゃないってどういう事なんだ……)
言葉で聞いて分からないものは、実際に見てみると「なるほど、こういう意味だったんだね」とあっさり理解出来る場合が多いのだが。
「ここには、その竟門さんって居ないのかな?」
『居らぬ。ここは、真の挑戦者が、最後の試練に挑む場ゆえ』
「最後の試練」
『ここへ来るまでに魔法を習得し、使いこなせるようになっていなければ意味がない。我の巣や水のトカゲの巣などは、他の小さき巣で力を付けた熟練者が、最終的に目指す場所なのだ』
「……そうだったんだ」
初耳だ。
コテンが「えー? それじゃあさぁ、ギルドはド新人をド初っ端から最高難易度の危険なダンジョンに連れて行ったってコトだよねぇ? ボク、ギルドの人間とお話したくなってきちゃったなー」と尻尾で地面をべしべし叩いていた。
セイは、護衛にSランクの冒険者パーティーを二組も付けられた理由が分かって、納得。
その小さき巣とやらは……などと話してると、どの巣がどれを指して言っているのか、こんがらがってきたので勝手ながらランク付けして区別することに。
フェンリルやリヴァイアサンのいる基本四属性の【試練の遺跡】を、Sランク。
【試練の遺跡】を除いた中で、四属性それぞれで一番大きい巣を、Aランク。
SとAランク以外で、大きめの造りの巣複数を、Bランク。
中位程度をCランク。
エリアが狭く地下三階が最下層の小さい巣を、Dランク。
竟門は、全ての巣にいる。
Dランクにもちゃんと居る。実はそちらの方が低位の初期魔法を授かりやすい。竟門に気に入られる為に何度も挑戦する必要があり、湧く魔獣が弱く、巣が小さいので最下層に通い易いという利点もある。
ただ、竟門はいつでも表に出ている訳ではない。昨日まで居たダンジョンに、今日は居ない。正確に言えば、どれだけ呼んでも出て来ない。そんな事態が頻繁に有り、“竟門が出ている巣を探すのが大変”という難点があるそうだ。
巣のランクが上にいくほど、授かる魔法も高位になるのだとか。
ニンゲンはまずDランクの巣を属性別に順番に回って初期魔法を取得し、力が付いたらBランクへ挑戦し……と何度も、何周も巣と巣を巡って回り、段階を踏んで強くなるよう調整されている。ついでに(無自覚に)魔力も運ぶ。
「うーん、でもそのシステムの割には、四属性全部に適性持ってる人が少ないような」
『竟門は
「簡単には貰えないんだね。でもあんまり厳しいと、巣を回る人って減ってくものじゃ無いかな? 覚悟決まってる人は貰えるまで頑張るだろうけど、ちょっと稼ぎたいくらいの人は達成感が低いとやる気も落ちて、攻略自体を止めてしまいそうというか」
『うむ。魔法を欲するニンゲンは、
「殻魔環が……
『知らぬのか。殻魔環とは……』
「あ、殻魔環自体は知ってる、ていうか持ってる。えーと、コレだよね?」
『そう、まさしくそれ、……ソレは何だ?』
「え? 殻魔環だよね? 魔槞環を魔法で固めた輪っか、じゃないの?」
『待て、魔法で固めたのか? お主が? 何の魔獣だ?』
「固めたのは僕だけじゃなくて、
『すらいん?』
「ちょっと待って……一人出てきてくれるかな?」
言葉で説明するより見せる方が早いのだ。スライムに声をかけると、袖の中に隠してあった数珠状の魔槞環から、滑るように一匹落ちてきて魔獣に戻った。ポヨーン、ポヨーンと軽快な音を立てて、セイの回りを跳ぶスライム。
『その姿は、水の所の数多き泡か。我が巣で言えば小さき木の葉……ならば、まさか、信じ難いが、いや、それよりも……』
独り言というには大きいフェンリルの声を、黙って聞く。
フェンリルはスライムの殻魔環を凝視した後、セイを見つめてきた。目力が強い。
『──頼みがある。水の殻魔環を、譲っていただきたい』
「コレで良いのかな?」
『次に出来た時で構わぬが……ソレをいただけるのならば、我ら一族全員でお主に永遠の感謝の誓いを捧げよう』
重い。
海竜たちもだが、魔獣はいちいち言動が重い。スライムの殻魔環ならば沢山持っている。セイたちに付いてきた子たちだけでなく、水の遺跡で他のスライムたちも殻魔環を作る為に魔槞環になってくれたので、それはもう沢山家に置いてある。
本気で気にしないで欲しい。
「スライムくんにお礼を言ってあげてくれれば、それで……」
『だが、それはお主の物だろう。水の殻魔環は非常に貴重だ。特にその殻魔環は、我らからすれば奇跡に等しい』
「奇跡って……」
何がそこまで珍しいのか聞いてみたところ。
魔槞環は、『気に入ったニンゲンに付いていく手段として成るもの』と聞いていたが、実はそれ以外の理由で成る方が多いのだそうだ。
傷んだ身体を脱ぎ捨て新しく生まれ変わりたかったり、長命故の疲労感からしばらく眠りにつきたかったり、進化の過程であったり。つまり殻魔環化は、“脱皮”で合っていた。
通常の脱皮は、魔槞環になった後、経年による殻固化で行う。期間は個体によるそうだ。時期が来れば魔獣は硬くなった魔槞環から出て、空になった殻魔環が残る。そうして出来た殻魔環は、どうしても状態が良ろしくない。
それを土の中だの柱の上だの、【交換箱】では無い箱の中だのに隠すから、更に傷が増え古くなる。
だがセイが手に持っている殻魔環は、心身ともに健康な魔獣の魔槞環を魔法の力をもって一瞬で固めたものなので、新鮮で綺麗、めちゃくちゃ状態が良い。
【水属性の殻魔環】そのものの稀少さもある。水棲魔獣は当然ながら水の中で魔槞環化する。そのせいで深い水底に沈んでいて、他の種族と比べて入手が困難なのだとか。
しかも、今セイが持っている殻魔環は、他とだいぶ違うらしく
『尋常ではない良質な魔力と魔力量で輝いている』
『小さき泡から出来たものならば、生まれた幼狼が成狼になるぐらいが使用期間だが、ソレは加えて角が二回生え変わるほどの長きに渡り、
(……それだ!)
セイの脳内で閃くものがあった。フェンリルが『紛う方無き奇跡の一品』『小さき泡がニンゲンに付いていくなど前代未聞。だが、現に目の前で跳んでおる。発光しておるので特殊個体なのだろう』など語っているのを完全に聞き流し、セイは自分の思考だけに集中していた。
御大が講義で言っていた適性属性が増える方法、「神の加護」ともう一つ、先程は思い出せなかった内容──「ダンジョンのドロップ品からも魔法属性が増える」だ!
水の殻魔環を持っていれば、期間限定だけど水魔法が使えるようになるんだった。持ってないと使えないけど。………あれ?
「あの……竟門さんが授けるみたいに、属性が本当に増える殻魔環もあったりする?」
『ぬ? そんな物は無い……いや待て、何か聞いた覚えがあるぞ……殻魔環を絶えず身に付けておれば、相性が良ければ芯まで馴染み、殻魔環を手放しても魔法を覚えている場合がある……だったか』
「ありがとう!」
当たりだ! スッキリ清々しい気持ちで、仲間たちに通訳して伝えた。
「それって………スキルオーブやんけ!! なんで今まで気ィ付かへんかったんや、殻魔環てスキルオーブやんけぇえ!」
「アズキくんアズキくんっ、もう一つ気が付いてしまいました! 落ち着いて聞いてください、良いですか、殻魔環はただのスキルオーブじゃありません」
「なんやとッ」
「ぼくらが、“作れる”、スキルオーブです」
「!!!!」
カワウソ二匹は「「ウオオオオオッ」」と雄叫びを上げ、爆上がりしたテンションを発散させるべく池の中へと突進し、とんでもない速さで泳いで行き、遠く姿が消えた。彼らは水陸両用で水掻きも持っているので、笑えるぐらい泳ぎが速い。魔犬たちが遊びと勘違いしたのか、嬉しそうに後を追って泳いでいく。
……勢いがすごかったから、つい無言で眺めてしまった。フェンリルへと向き直る。
「コレが水の魔力の代わりになるって思って良いのかな?」
『ソレから水の魔力が長く供給される。ニンゲンに頼る必要など、無くなるな』
とは言え、コレだって永久じゃない。そもそも永久に続くものなど、この世に存在しないと言ってしまえば、それまでだが。
(結局水のSランク遺跡をどうにかしないと、根本的な解決にはならないんだよね……魔法陣の再起動と、あと、巣の開放)
王家が秘匿し、入り口を閉じたままでは、魔法陣が直ったとしても解決には至らないのだ。
(うーん……。うん、後で考えよう)
「今持ってるのが二個だから、とりあえず二個渡すよ。それで、お礼を要求するようで申し訳ないんだけど、ちょっといくつかお願いがあって……」
『望みを言え。可能な限り叶えてやろう』
お礼は気にしなくていいと言っても無理だろうから、いっそこちらの願い事を被せた。フェンリルは、叶える気満々で、グイグイ迫って来る。
「魔界に繋がってる魔法陣と鍵を見せて欲しいんだ。絶対に触らないと誓うし、少し離れた所から見るだけで……」
『好きなだけ見るが良かろう。そんなもの礼にならん。他には』
「……えー、と。いつになるか分からないけど、知り合いが大人数でここの攻略に来る予定があるんだ。その時に、攻略が完了したかのようにその人たちに誤解させたくて。巣に小細工させて欲しい」
『好きなようにされるがいい。我らも協力しよう。そんなもの礼にもならん。他には』
「……チビたちの、フェンとリルの魔槞環から殻魔環を作らせて欲しい」
『そんなもの、許可すら不要だ。他には』
「……尻尾の抜け毛も欲しい」
『そんなもの! 抜け毛だと!? なんと、みみっちい!!』
みみっちい。
苛立たしげに前足で土を掻くフェンリル。『もっとまともな望みは無いのか!』と、願いがショボくて怒られている。そんなこと言われても。
抜け毛ではなく普通に尻尾の毛をくれるらしく、雌のフェンリルも呼んで、二匹で岩に大量に毛をぶっ刺した。
毛の回収は、厚みのある葉っぱの形のボディに透明な四枚羽を持った小型魔獣たちが手伝ってくれた。よく見れば、葉の裏側に小さな昆虫の足が六本付いている。『よいちょー』『あらよっとー』の掛け声で毛を抜き取り、パタパタと往復する可愛いお運び隊だ。
小さくて数が多い。スライムみたいなものかな? 種族名だけでもと【鑑定】してみたら【コノハスライム】と出た。ん? “木の葉スライム”??
「セイ! お礼タイムやんな!? そのちっこい奴らから殻魔環作ってええか聞いてくれ!」
どうやってお礼の気配を察知したのか、素早く池から帰ってきたアズキが、お
頼めば、お礼に飢えているフェンリルは勿論快諾。コノハスライムだけでなく魔犬と魔狼たちも魔槞環になると言う。ありがとう。
これでお礼は満足して貰えただろうとフェンリルを見ると、まだまだ不満そうだ。貰う側じゃなく渡す側が、少ない事に文句タラタラってどうなんだ……?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます