第7話 慰労会の準備


 想像してたのとは全然違う結果だったなぁ。

 【会話する】スキルってなんだ……。


 まさかあんな意味不明なのが出るとは思わなかったよ。なにと会話出来るのかなるべく早くに分かるといいんだけど。


 ……でも、村の役に立たないスキルだって確定してしまうと、出て行かなきゃいけなくなる、よね。判明しないままなら、とりあえず畑の手伝いでこのまま残れる可能性が……。ないかなぁ?

 だけど自分のスキルだし、やっぱりはっきりとした内容を知りたいよなぁ。うーん、悩ましい。


 うだうだ考えながら講堂を出て、教会の集会所へと向かう。これから今夜の慰労会の準備をしなきゃいけないんだ。とは言っても、あとは食事関係くらいかな? 今年は随分前倒しで準備を進めてるなーと思ってたんだよ、コウの引き留め作戦があったからだったんだね。


 僕の前を、長老と村のお爺が顔を寄せ合うようにして話しをしながら歩いてる。ヒソヒソ話のつもりなんだろうけど、まぁまぁな大きさの声になっちゃってるよ……。耳が遠い人は声も大きくなっちゃうんだって支部長が言ってたな。


「コウは上手くいくかのう」

「できる限りのことはやったがな。アレの才能は計り知れん、なんとか村に残してもらわんと」

「まったく、わしが小さい頃はここまでスキルだなんだと教会が口出ししてきとらんかったのに、いつからあんな……」

「おい、もっと声を落としなせぇ、聞かれると面倒なことになる」

「む。まったく……」


 うん、教会批判はマズイよ。思わず後ろを振り返って、教会の人がいないか確認したよ。

 お爺たちを追い抜かないようにゆっくり歩いてると、村のおっさんたちが「おー、お疲れさん、ヘンテコなスキルだったなぁ!」「なにと会話できるのか分かったら教えろよー」と笑いながら声をかけて、そのまま早足で僕を追い抜いていった。


 ……コウは捕まったらオッサンらにもみくちゃにされるのが分かってたから、閉会と同時に全力疾走で出て行った。今逃げても集会所で囲まれて、結局もみくちゃにされると思うんだけど。


 ミウナは神官様たちに拘束されたまま連れていかれた。あいつは無事に慰労会に参加できるんだろうか。


 ジンは冒険者ギルドの職員たちに囲まれながらの移動。少し離れたところで女の子たちがジンに話しかけたそうにウロウロしてる。


 そして僕は、ひとり……。いいんだ、声はかけられてるし。と、後ろからドンっと衝撃がきた。


「セイにーちゃ! リリネが、かいわ、してあげりゅ。スキルのおてちゅだい!」

「セイ、おれもスキルてつだってやる! なんかしゃべれ」


 チビたちが腰だの足だのにまとわりついてきた。スキルの解釈がおかしなことになってるけど、嬉しいよ、ありがとね。待って待って、押しすぎ、こける!




 集会所へ着いたら、コウが胴上げされていた。……コウには逆効果じゃないかな。絶対に喜んでないと思う。

 講堂にいなかった人たちからジンは「剣のスキルが出て良かったねぇ!」と祝福されて、僕は「よく分からないけど頑張んな!」と励まされた。まあ、頑張れとしか言いようがないよね。

 ミウナは、その場に本人はいなかったけど話しには出て「神子様とはすごいね。じゃミウナは村を出てくんだね、寂しくなるね」で終わってた。神子スキルが出た村に国から何かもらえるっていうんなら、みんなもっと喜ぶだろうけど、単にスキル持ちが村から出て行くだけだからね。あっさりしたものだ。


 今はまだスキルチェックが終わっただけで、ミウナ以外はどんな職業になるのかハッキリしないもんだから、とりあえず目先の慰労会の準備を優先! ということで、僕とジンは【果水樹の実】を取りに行くよう頼まれた。

 外へ出たと同時にアーサーが、どーん! と体当たりしてきた。来るのがわかってたから驚かないよ、よーしよしよし、一緒に行こうね。だからアーサー、僕の上から一旦降りてよ。顔を舐めすぎ。ジン、笑ってないで助けて。


 春になってだいぶ暖かくなったけど、頬に当たる風はやっぱりまだ冷たい。陽が沈みかけると上着を着てても寒いくらいだ。


 二つ並んだ太陽のうち、午前の銀陽はとうに色を無くし、午後の金陽が滲むような朱金色に輝いて西のほうへ傾いていっている。真上の空にはまだ青色をたくさん残していても、金陽の周りからは赤色と紫色、薄紅色と夕輝き色に染められて広がりを見せていた。


 風に流れていく雲とは別の黄金色の雲──金雲がいくつか、巣へ帰る大きな魚のように夕陽に向かってゆっくりと移動していき、その跡をなぞるように光る粒子が煌めいては消えていっていた。

 村の広い穀酵麦畑も気付けば昼の薄黄色から橙色へ変わり、影が濃くなっている。


 僕たちはのんびり歩いてるけど、アーサーは元気いっぱいにあっちこっちの草むらに顔を突っ込んで回ってる。良さげな木の枝を見つけたらしく、めちゃくちゃ誇らしそうな顔でくわえて僕に見せに来た。目がキラッキラしてる。


「アーサーがなに言ってるか、ほんとに分かんねーの?」

「うーん……顔には、この棒良いでしょう! すごいでしょう! って書いてあるっぽいけど言葉では伝わってこないかな」

「やっぱ動物じゃねーのかぁ。なんなんだろうな!」

「動物だったら良かったんだけどね」


 ん? でもよく考えたら、会話スキルの相手が動物だった場合、結局僕は村から出ることになるのかな? 動物相手に話ができるスキルの仕事ってなにがあるんだろう。酪農のお手伝いとかかな。


 あ、ジンまで良さげな棒を見つけて振り回し始めた。僕はからのカゴ付き台車を手押ししてるから探せない、なんか悔しい。


 ゆるい坂道を登りながら見下ろすと、村の入り口の広場に王都からやってきた馬車の車の部分だけが六台停まってるのが見えた。

 馬は小屋で休んでて、スキルチェックの旅に同行してる専門スキルを持った人が世話をしてるはずだ。明日見せてもらいに行こうっと。うちの馬たちも素朴で可愛いけど、馬車の馬は大きくて逞しいし、凛々しくてめちゃくちゃカッコいいんだ。


 王都から国の隅々までスキルチェックのために旅をするのは、慣れた神官様たちでも大変だそうで……一応地方ごとに分けて複数の隊で回ってるらしいけど、とにかく遠いし山道は険しいし、なにより魔獣や野盗に警戒しなきゃいけないからね。


 だから、当然護衛の騎士とか警護団なんかが一緒に付いていく。

 せっかく護衛が付くんなら、ということなのか、村の税などの色々な査察をするために中央と地方の役人も一緒に付いて回る。ついでに定期的なメンテナンスが必要な設備や結界の点検と補強のために、専門のスキルを持った上級職人も付いてくる。更に、都市部でしか手に入らない物資も届けてくれて、中央の行商人も荷馬車で付いてくる。


 色々増えて結構な大所帯だ。うちの小さい村でも六台も来るんだから。


 あの中の一台は荷馬車なんだよなー。本も持ってきてくれてるかな。『暁闇の剣 黎明の拳』と『錬金術師ディー』の新刊が出てるはずなんだけど。今回の馬車に入ってないと次は一年後。……僕は一年後、どこにいるんだ。

 教会の図書室用に買われてる本だから、どうしても読みたければ自分で隣村の本屋で買えばいいんだけど、新刊だけ買うのもなー。

 なんて考えてるうちに、果水樹エリアに到着。


「おっし、さっさとやっちまおう! なに採ってこいって?」

「待って、メモ見るね。えーと、【春待柑蜜水】を三十本と【黄昏リリンコ水】五十本、味が仕上がってれば【王春モモカ水】を二十本」


 結構あるな。果水って、つまりは“果物ジュースが入ってる実”だから、重さがあるんだよね。帰りの下り坂はジンが台車を押すから、コケるようなことは無いと思うけど。


「手分けしてやるか。俺、リリンコ行くから王春頼むな!」

「りょーかい。あ、台車持って行って」

「おっす!」


 黄昏リリンコの方が遠いし数も多いからね。両手カゴだけ取り出して台車はジンへ。

 果水樹エリアは普通の果樹園も兼ねてるから広いんだ、急いで頑張ろう。

 あ、アーサーも手伝ってくれるの? じゃ、美味しい実がなってる樹を探してくれるかな? お願いすると、ワン! って元気な返事。可愛いなぁ、ありがとう。

 アーサーお気に入りの棒を失くさないよう入り口の目立つところに置いておいて、と。


 さ、行こう!

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