第3話 スキルチェック_ジン


 五歩進めばスキルチェッカーを乗せてある机の前だ。ジンが飾り台の上にある、ツルッとした透明の球を両手で包むように触った。

 他の十六歳組たちのスキルも気になるけど、ジンのは特に気になる。剣のスキル、出るかなぁ。出るといいな。出て欲しいな。でもジンだったら、他のもっと良いスキルが出る可能性もあるんだよね。


 みんなによく見える位置に立てかけられてる神通石掲示板に、フワーと文字が浮かんできた。……なに、なんて書いてある? えーと。


「【剣を持ち、旅をする】これは……」


「冒険者だなッ!!」


 突然、銅鑼を鳴らしたみたいな大声で叫ばれてビクッとした。えええ、なに?

 見ると、正体不明のガラの悪いオッサンたちがドヤドヤと前へやってきた。進路上にいた僕は慌てて横へ逃げる。ついでに隣にいたコウに近寄って小声で尋ねた。


「あれ、誰?」

「ガズルサッドの冒険者ギルドの職員」

「冒険者……」


 うわー、冒険者ってあんなにガラ悪いんだ。

 ガズルサッドって、行ったことはないけど商業施設がたくさんある大きな街のはずだ。都会だ。ここから馬で五日くらいかかるらしいのに、なんでわざわざ来たんだろ。


「剣を持つ、冒険者だ! 旅をする、冒険者だな! よし、この坊主は我らガズルサッドの冒険者ギルド預かりとする。決まりだ!!」

「待ちなさい! 審議はこれからですよ。剣を持って旅をする、というならば私たちフォーライソー教中央教会本部巡回視察団の護衛騎士である可能性が……」

「そう言ってめぼしい奴は全部中央に持っていっちまうだろうが! 護衛だの騎士団だのを怪我して退団した奴ばっかり寄越しやがって、うちのギルド舐めてんのか!!」

「我々巡回視察団は命懸けで国のために……」

「俺たちだって命懸けだ! だいたい消失街の調査も新しい鉱脈の発掘調査も国から何年せっつかれてると思ってんだ。こっちだって国の為に良い人材をもらう権利がある!」

「言い分は分かりますが、そもそも……、そこ! 勝手に登録用紙に名前書かせてませんか!?」


 魔大熊みたいなギルド職員と神官長様が怒鳴り合ってる横で、少し身長が低めの冒険者がジンにペンを渡して、指で紙の上を「ココとココに名前」と言いながらトントン叩いてた。いつの間に。ジンもなんでこのタイミングで名前を書こうとしてるんだ……。


 あれ? 五人いたはずなのに一人減ってる。抜け出して仲間を呼びに行ったか、ギルド本部に早鳥の連絡を出しに行ったってとこかな。行動が早いなー。


「そろそろ若手育てなきゃマズイんだよ! 冒険者がジジイばっかりになっちまうだろうが。こっちに引っ張れそうなスキルの奴は今年は見つかり次第もらってく。まずこの坊主だ!」

「ハッ、愚かなことを。身体の出来上がっていない少年をいきなり冒険者にするなど愚の骨頂、若い才能を潰すだけです! まずは騎士団で基本を教えてからですね」

「そう言って使える奴をお前らだけで囲い込んで何年だよ! アァッ!?」


「ハイ、すみませーん、失礼しますよー」


 二人の間に、ゆるーい口調で割って入っていったのはこの村の教会の責任者、支部長だ。僕たちみんなの親みたいな人でもある。

 ど迫力の冒険者と真っ向から怒鳴り合う神官長様もすごいけど、その中に軽い調子で入っていく支部長もすごいなぁ。


「この話し合い、双方譲れない感じがよく伝わってきてましてですね。すぐに決着をつけるのは難しいのではないかと。ですから一旦置いて、日を改めて長審議にかけられたほうがいいのではないかと、ハイ」

「……チッ、しょうがねぇな」

「仕方がありません。あくまで一時保留ですよ」

「寛大な対応ありがとうございますー。じゃあジン、下がっていいよ」

「はい」


 支部長はお礼を言ってたけど、元々スキルチェックの日はスキル内容の表示だけで終わるのが普通だ。じゃないと、村人とうちの教会職員合わせてほぼ全員のスキルチェックするんだから時間がかかってしょうがない。詳しい職種については日を改めて個人面談しながら決める、というのがいつもの流れなんだ。

 今みたいな、よその街の冒険者ギルド職員が見学に来てて、しかも口出ししてくるなんて初めてだよ。


 神官長様たちが大騒ぎしてた時も、列に戻ってきてからも、ジンは無表情無言のままだ。天真爛漫で開けっぴろげな性格に見えて、重要な場面では一切騒がずに冷静に状況を見る奴だ。だから僕たちのリーダーなんだよね。


 それにしても、これはどうなるんだろ、ジンは冒険者になれるのかな。

 せっかくのチャンスをジンがこのまま逃すわけないだろうし、なんとかなりそうな気がするんだけど。でも教会が欲しいと思った人材を逃すとも思えないし……。うーん。


 神官長様がコホンと咳払いをして変な雰囲気になっている場を仕切り直した。


「それでは次。ミウナ、前へ」

「……はい」


 ミウナは十六歳組で唯一の女の子だ。今日は長い赤い髪を編み込みでまとめて、服も綺麗なやつを着てる。本人は自分の服にこだわりなんてないから、教会の女の人に着せられたんだろうな。


 あ、珍しい、あのいつも強気なミウナが緊張してる!

 ん? 小声でなにか言ってる……?


「裁縫……裁縫……裁縫……」


 ミウナは裁縫スキル希望かー。出るかなぁ?

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