第28話 竜となる

 『再生』

 それはどれだけ身体が散り散りになろうと、元の形へと戻る力。ただ、その力にも限度がある。塵芥と化すことが連続すれば、完璧に血肉を戻すことが出来なくなる。その場合、どうなるのか。穴を塞ぐ為に使

それが例え、人間の身体で無かったとしても。


『ん、何が……どうなったんだっけ。』


 横たわった身体を起こし、周りを見渡す。既に火口の噴火は収まりつつあり、サラマンダーの気配もない。あるのは血溜まりだけ。俺が生きてるってことはアイツが死んだってことでいいだろ。


『さて、こっからどうやって帰るか、なんだよな。』


 今、俺が居るのは山頂付近。そこまで高くない山だとしても、歩いて降りるのは時間がかかる。かといって、誰かが迎えに来てくれるという訳でもない。歩いて帰るしか選択肢はないらしい。


『よし、帰るか。』


 若干重く感じる身体を何とか動かしながら、下山を始める。一歩、二歩、三歩、踏み出すごとに身体が軽くなる。錯覚かと思ったが、そうではない。


『って、そんなわけ無い……翼?』


 既に地から離れ、僅かに浮いた身体を見れば、背中から翼が生えていた。サラマンダーの赤い翼が。それだけじゃない、尻からは尻尾が、身体も全身が鱗に覆われている。まぁ、そこはいいか。再生で服は戻らなかったんだし。


『半人半竜ってとこか?』


 どうしてこうなったのか。恐らくあの爆発が原因だろう。爆発の連発と俺の死に過ぎで再生能力がバグって俺の身体とサラマンダーの肉体を混ぜたんだろう。迷惑な話だな、全く。

 そう呟く俺の顔はニヤついているに違いない。だって、ドラゴンと合体してるとかちょっとかっこいいじゃないか。日常生活に支障をきたしそうなのが問題だが、戦闘力は上がってるはず。


『ん、街が近づいて来てる?いや、落ちてるのかぁぁぁぁぁぁ!!』


 街にいる人の形がくっきりとし始めたのに気付いた時には既に翼は羽ばたくのを辞めており、俺は真っ逆さまに落ちていた。


『動け、おい、翼、動け!!』


 ついさっきまで生えていなかったものを直ぐに使いこなせるはずも無い。ゲームの操作だってやってる内に慣れてくる。それをいきなりやれと言われても無理だ。

 下を見る。下は火山の周りを囲む湖、噴火の影響で濁ってはいるが、まだ辛うじて水が張っている。ここに俺が落ちても、被害は出ない…………なら。


『試してみるか。』


 サラマンダーと合体したのなら、俺にもサラマンダーの力が使える筈。試してみる価値はある。

 鱗に覆われ、爪の生えた両手を前に出し、詠唱する。


『我が名、我が魔力に応えよ。』


 両腕が赤い炎をまとい始める。水面まであと百m。


『炎の竜、常世全てを燃やす災害。』


 頭の中でさっきまで戦っていた竜を思い浮かべる。それが今、俺の中にある。


『俺にその力を貸してくれ!!』


 両手の前に巨大な魔法陣が浮かぶ。それが炎を纏い、俺の全身もまた熱く燃える。その炎が中心に到達した時、俺はその名を叫ぶ。


『サラマンダー!!!!』


 心臓が強く、そして熱く脈打つ。魔法陣の先から、上級魔法の何倍にもなる威力の火炎が打ち出される。

 熱い、熱い、熱い。でも、耐えられる。身体が鱗で覆われているからだろうか。人間が扱える温度を超えてなお、放射し続けられる。


『そろそろ、着地出来るな。』


 威力を調節し、足が水面に付くくらいまで高度を下げる。これで何とか助かった、そう思った俺へ恐ろしい速さで光が突き刺さる。


『よかった、無事だったのね!!』


『なんだ、エクスか。』


 エクスは俺の腰の辺りを抱きしめるように掴む。普通なら良い場面何だろうが、流石は聖剣、飛び込む速さが高速、俺の腹にクリティカルヒットしてしまった。


『よく考えたら、一人でドラゴンと戦わせるなんて無謀だったし、あり得ないレベルの爆発音が響いてくるしで、心配してたのさ。』

 

『ま、何とかなったわ。…………ドラゴンになったけど。』


 エクスはそう言われてから、俺の身体をまじまじと見る。そして噴き出した。


『ぷっ、ははっ。そんなことある?サクラはやっぱり面白いな。……性能が気になる所だけど、それはまた後で。今はミカの所に行かないと。』


『そうだ。ミカは大丈夫なのか、一人で行かせたけど!?』


 オドしか使えない、そしてその影響で直ぐに吐血するような人間だ。ここに来てからも、戦っている場面は見たことが無い。もし、降神星団の幹部辺りと遭遇したらどうするつもりなのだろう。

 俺の心配する顔とは逆に、エクスは笑う。


『ははっ。』


『何が可笑しいんだよ。』


『いや、まだミカの実力を見たことが無かったな、と思ってね。何を隠そう、彼は私達、いやこの世界で一番強い男さ。全てを鑑みれば、勇者よりも、ね。』


『そう、なのか……。』


 能ある鷹は爪を隠すとは言うが、ちょっと隠し過ぎじゃないだろうか。一番強いって言われても中々想像がつきにくい。


『だから、心配いらないさ。それよりも。』


『それよりも?』


『君の私もそろそろ落ちそうなんだけど。』


『え?』


 見れば、ほぼ水面。無意識の内に動かしていた翼も意識した途端止まる。俺達は成すすべもなく、水面へ墜落した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る