第25話 希望を背負い生きる男【後編】

『禁忌魔法についてサクラはどこまで教えてもらったのかな?』


 そうミカに聞かれた俺はエクスに教えてもらったことを話した。この作業、いるのか?とも思うが、俺が聞いた話を理解しているかの確認なのだろう。

 一通り聞くとミカは大きく頷き、僅かに口角を上げる。


『うんうん、そうだね。その通りだ。じゃあ、その知識を踏まえて追加授業といこう!』


『『おー!』』


 こうしてミカ先生の授業、後半戦が始まった。

 ミカはエクスから一枚の紙を受け取り、こちらに見せる。そこには空から落ちる何かが書かれていた。それが何なのかはこの絵からでは読み取れない。


『禁忌魔法、という名は後づけなんだ。ソラの神との戦争より少し後のある日、空から幾つかの物体が飛来した。いや、落ちてきた。人々がよく知るのは王都に落下した書物だね。一冊の小さな本でありながら神に近い魔力を纏うそれは、触れた者を次々と死に追いやった。』


『適合しなかったから……。』


『そうだ。それがあって王都は本格的に攻略を始め、やがて適合者が現れた。王国はその魔法の力を試し、融合と名を付けた。そして、そうした力を持つ武器が他の場所にも現れたと推測づけた。エクスカリバーを含め、もう既にこの世界にあったであろう強力な魔法。それらを上級を超えた存在として禁忌魔法と名付けた。』


『じゃあ、禁忌魔法はこの世界に幾らでもあるってこと……?』


『さぁ、それはどうだろうね。王都の融合と、僕らが手にした分だけが今の所存在が確認出来てるよ。ま、代償もあるし、適合出来なければ死ぬ、そんなリスクがあるものは中々出回らないものさ。』


『代償……?』


 エクスの話じゃ、身体の成長が止まるって事と、冒険者カードが使えなくなる、位だった気がする。

 俺がそういうと、ミカは驚いたようにエクスの方を見る。エクスは白々しく口笛を吹き始めた。


『はぁ、エクス。ちゃんと説明しないと駄目じゃないか。』


『あ、後で言おうと思ったのさ。』


『それならいいけど。』


 そっぽを向いたエクスを白い目で見ながら、エクスはこちらを向く。


『で、サクラ。』


『うん。』


『強大な力にはもちろん、代償が伴う。君の場合は「自分の身体、命への執着が薄れる様になる」とかだろうね。』


『執着が薄れる…………』


 何度も再生を繰り返す内に、再生を前提に戦うようになる。そうすれば、自動的に執着が薄れていく、そういうことだろう。


『まぁ、代償というより副作用みたいなものかな。何かを得れば何かを失う。例え何かを失ったとしても、君の中に確固たる信念があれば大丈夫だよ。「これが自分だ!」っていうのがね。』


『これが自分……ミカにとって希望になるつっていうのがそれなのか?』


『うん。エクスのTシャツはそのままだけど、他の仲間、僕のパーティーメンバーにはそれぞれの信念を教えてもらってね。それを字として入れたんだよ。』


『私は聖剣であるって事が信念なのさー!』


『いいな、何かそういうの。』


 仲間の事となると、やけに楽しそうに話すミカ。エクスも少し笑っている。

 いやまぁ、このダサTシャツを着ている人が勇者も入れて6人もいると思うと怖いけど。


『はは、他人事じゃないよ。これから君も彼らに出会うんだ。人々が手を繋いで助け合う世界を夢見た者。全てを愛すると決めた者。皆を笑顔にする為に輝く者。自分の正義を貫く者。果て無き高みを目指す者。この世界を綴り続ける者。そして、希望になる男。加えて、君が勇者になる男だ。』


『…………はい。』


 俺に彼等に負けないだけの信念があるだろうか。そんな臆病さが答える口が重くさせる。


『彼等は僕なんかより優秀だからね。彼等と話をしていく内に君の信念、勇者になる、だけじゃない君だけの答えが見つかるはずだよ。だから、そんなに力まなくて大丈夫。旅はまだ始まったばかりさ。』


 ミカは真剣な顔を解くと、俺の肩を軽く叩いた。意識してみると、肩に力が入っていた。何度か深呼吸をして、肩を回す。

 俺が落ち着いた事を確認すると、ミカは手を叩く。話を変える、そういう合図だ。


『明日で請け負った仕事は終わり。だから、明後日には旅を始めよう。それと、サクラ。これを。』


『…………剣?』


 渡されたのは何の変哲もない剣。特徴があるとすれば、手にした時の妙な感覚。


『これは疑似魔法剣。陣を組み込んであるから少量の魔力で魔法を発動できる。本来の魔法より劣るのと、連発すると剣が壊れるのが難点だけど。まぁ、詳しい仕組みはまた今度、お手軽魔法グッズっていう認識でいいよ。』


『わざわざ俺の為に……ありがとう。』


『いざ、という時が僕の予想通りならすぐに来る。その時に使って。使い捨ての剣だから壊れても構わない。……ほんとはちゃんとした剣を打ちたかったんだけどエクスが邪魔して………痛っ!……ゴフッ』


『余計なこと言うんじゃない!私がいればサクラは充分だけど、自衛手段があった方が便利だから許してあげたのさっ!』


 エクスの手が光を纏い、ミカの腹へと突き刺さる。ミカは吐血し、そのまま机へ突っ伏した。


『なぁ、エクスって何でそんなに自分以外の剣が嫌いなんだよ………って痛ぁ!』


 黙っておけばいいのに突っ込んだ俺にももちろん光が襲いかかる。右ストレートが顔面へと打ち込まれ、後ろへ倒れる。

 照れ隠しなのか、ただの殺意なのかは分からないが、その拳に込められた本気だけは伝わってきた。


『暴力系ヒロインは人気にならない………ぞ。』


 その言葉を最後に俺はKOされる。明日、ミカの予想が当たるとも知らずに、俺は呑気に床に倒れていたのだった。

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