第24話 希望を背負い生きる男【前編】
宿の中はそこそこ広く、三人はゆうに寝られるスペースにキッチン、トイレ、風呂までがついている。ミカ曰く「知り合いが優しくしてくれて、一人なのにこんなに広い部屋を用意してくれたんだ。」とか。
部屋の中央には四人がけの机が置かれ、椅子に座ったエクスがお絵かきをしていた。頑張って見ても前衛的な芸術作品にしか見えない。これは……
『相変わらず上手いね、エクス。プレゼン用紙の作成ありがとう。』
『ふん、私にかかればこんなものさ。まぁ、カオルならもっと上手いだろうけど。』
『カオルは絵を描くのが好きだしね。でも彼女はシメキリが無いと駄目なタイプだから、難しいね。』
思い出話に入っていく二人に置いて行かれる俺。気まずい空気を一人まといながら、エクスの斜め向かい側へと座る。
『サクラ、私のイラスト付きでミカの話がよりわかり易くなるだろうから、先に感謝してもいいよ。』
『ん、それなりに。』
ミカは俺の前まで来ると、席に座る。そして、エクスから束になった紙の内の一枚を受け取る。そこには大きな人型──外に色とりどりの丸、中に白い丸と黄色い丸があるもの──が書かれていた。
『まず、サクラ。君は魔法を使うには魔力がいるんだ。魔法に使う魔力はこれ、この白い丸。これを使って大気中の精霊、各魔法に対応するもの、火なら赤、といった感じで働きかける。そうすれば、精霊が魔力に反応し、魔法が発動されるんだ。ちなみに、魔法陣をきちんと結んで、詠唱した方が精霊への命令度は上がる、威力も強くなるんだ。』
『なるほど……大気中の精霊がマナってことか。』
『まぁ、難しい原理とかを省けばそうなるね。具体的に言うなら、大気中の精霊、つまり意志のない、ただ生物の魔力に反応する特別な魔力の塊がマナだね。彼等のお陰でこの世界の生命は維持されているんだ。』
じゃあ、あのマナの源は精霊と呼ばれる魔力の塊の塊ってことか。何かよりややこしくなった気がするけど。
『ん、じゃあこの黄色い丸は何なんだ?』
『これはオド。生命維持に使われる魔力だよ。体内の魔力が無くなれば、これを使う事もできる。より高密度で強力な魔力。でも、これは普通の魔力と違って回復が遅い。だから一度に沢山使えば、生命維持ができずに死ぬ、もしくは戦えない身体になるかのどちらかだね。』
『言われてみれば黄色い丸の方が白より少ないな。それじゃあ、俺が再生の時に使ってる魔力って……』
その質問には、退屈そうに話を聞いていたエクスが口を出す。
『君は魔力の源流が私だからね。魔力が無くなる心配も無し。存分に再生したまえ。』
『魔力が大量にあるなら、俺も上級魔法を使えたりするってことだよな。』
『そう、だったら良いんだけどさ。それぞれ人間には魔力の器がある。私はこのぐらい。』
そう言って、エクスは紙にプール位の大きさの箱を書く。
『そして、サクラはこれ。』
その横に俺の器、お茶碗くらいの大きさの箱を書く。
『ちっさ。』
『この小さい器に私の魔力が大量に注ぎ込まれたら、君の身体は崩壊する。再生するとは言えど、あんまり使うのはおすすめしないさ。ゆっくり鍛えようじゃないか。』
じゃあ、毎回あのお茶碗一杯を何回も汲み直しながら戦うイメージだろう。恐らく、再生に使う魔力も多い。そこに上級魔法の使用が加わればしばらく再生も出来ない。それは確かに不味い。
『そして、僕がこれ、だね!!』
ミカが横に器を書く。砕け散った破片、もはや器とは呼べない何かを。
『これ、割れてますけど……?』
『うん。割れてるね。』
『いいの、ミカ。』
『構わないさ。』
尋ねるようにエクスが言い、ミカが答える。ミカはじっと俺の目を見て、ゆっくりと口を開く。
『僕には魔法が使えないんだ。魔力が無いからね。』
『それは……』
『僕の生まれの影響だよ。僕はとある魔法を生まれた時に背負わされてね。そのせいでマナに干渉出来ない、出来るだけの魔力が無い。まぁ、戦う時はオドを使うから、心配しないでいいよ。』
『そんなことしたらさっき死ぬって言ってませんでしたか……!』
『あぁ、死ぬね。でも、慣れてきたら血反吐を吐きまくるだけで済んでるよ。』
『どうして……そこまでするんですか?』
『僕は希望になる男、だからさ。』
彼が禁忌魔法による苦しみに身体を蝕まれて尚、戦う理由を俺は知らない。ただ、その目に宿る光、ここに居てどこかへ向けられる瞳が嘘でないと言っている。正真正銘、心から希望を目指している、と。
空気を変えるためか、ミカは手を叩く。乾いた音が部屋の中に響き、やがて消える。
『それじゃあ、次は後半、
そして俺は知る事になる。彼等が禁忌を背負い、戦う理由を。
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