禁忌魔法:希望

第20話 鉄鋼都市 アルステルダム

 扉を抜けた瞬間、転移魔法が発動する。その眩い光に思わず目を瞑る。

 光はほんの一瞬で、俺達はどこか工場のような場所に腰をついていた。頭痛で揺れる頭を押さえながら、顔を上げる。目の前には赤髪のイケメン。上は白いTシャツ1枚、下にジーパンを履いている。目を引くのは、白いTシャツに大きく黒い筆で書かれた「希望」の文字、そして腰に差している6本の形がバラバラの剣。顔から下がめちゃくちゃで理解が追いつかない。イケメンだからこそ成り立つスタイルじゃないか、これ。腰を下ろしたまま困惑する俺を見兼ねたのか、イケメンから声がかかる。


『ボーイミーツガール。』


『え?』


『こういうのって普通、ボーイミーツガールじゃないか。でも、僕と君はこうして出会った。ボーイミーツボーイ。りぴーとあふたーみー、ボーイミーツボーイ。』


『ボーイミーツボーイ。』


 矢継ぎ早にまくし立てられて、イケメンが英語を話すことにも突っ込めない。


『いいね。ボーイミーツガールは冒険の始まり、じゃあボーイミーツボーイは?………これが難しい。』


『はぁ。』


 出会ってすぐなのにもうついて行けない。そんな俺に気付かないのか、イケメンはこちらに手を差し伸べた。


『その答え、一緒に探しに行こうじゃないか。』


 心の中でため息をつく。このイケメンにこのまま押し切られる以外の選択肢が俺には無いし、今度はもう間違えない、そう決めたんだ。俺は差し伸べられた手を握り、立ち上がる。


『俺はサクラ、これからよろしく。』


『僕はミカエル。ミカでいいよ。こちらこそよろしく頼む、サクラ。それと、出てきなよエクス。居るんだろ?』


 ミカは俺の背後に声をかける。その声に渋々といった形でエクスが姿を現す。


『君の主人公気質には呆れる。予想通り、サクラを召喚したしね。』

 

『エクス、知り合いなのか?』

 

『あぁ、もちろん。僕とエクスはしん……ゴフッ!』


 エクスの拳がミカの服、ちょうど希と望の間に突き刺さる。それに合わせてミカが吐血し、崩れ落ちる。流れるような二人の動き、俺はコントでも見せられてるのか?


『腐れ縁だよ、只の。誰がセンス壊滅野郎と親友なもんか!』


『まさか、俺のTシャツも……』


『そう、このファッションモンスターが生み出したダサダサTシャツの1枚だよ。私は着たくないし、君にあげたんだよ。』


 興奮した様子のエクスの答えを聞きながら、自分のTシャツを見下ろす。デザインはシンプルなんだけど、ただただダサいのが問題だろう。

 そんなやり取りをしている内にミカが立ち上がる。その顔には屈託の無い笑顔が浮かんでいる。


『そのTシャツはね、仲間が離れ離れになっても、姿形が変わっても分かるようにってデザインした服なんだ。』


『それ俺が着てても良いんですか?』


『もちろんさ!僕達は同じ志を持つ同士、だろ?』


『は、はい。』


 圧倒的コミュ力、差し出された手を握りながら思考が止まりかける。そんな俺を察してか、エクスが俺とミカの間に入ってくれる。


『ミカ、その辺りで。それより、ここアルステルダムでしょ。サクラに案内したら?』


『あ!そうだった。二人とも、お昼とかまだだろ? 案内がてら食べ歩きでもしよう。さ、行くよ!』


 そういうと、ミカはさっさと工場から出ていってしまう。


『え、ちょっ!』


『ミカはああいう奴なんだ。その内慣れるさ。私達も行こう、サクラ。』


『おっけ。』


 熱気のこもる工場を歩く。壁に掛けられた無数の剣、恐らくここは剣を打つ工場だろう。つまり、アルステルダムは。

 入り口のドアを抜けた先、広がるのは赤い歪な塔が建ち並ぶ街並み。よく見れば地面も赤っぽい土が多い。空を舞う熱気に包まれた街を背に、ミカは両手を広げる。


『ようこそ、鉄鋼都市アルステルダムへ。』


 鉄鋼都市、そして商売の都市として栄えるアルステルダム。この場所で俺の、勇者としての冒険が再び幕を開ける。

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