第16話 神の力、その代償
『禁忌魔法、それは人の理に反するもの、人類を滅ぼすことのできるものが該当する伝説上の魔法のこと。今は使用が禁じられているけどね。実際、上級魔法を応用して独自の魔法を使う人は多い。けれど、禁忌魔法はその完全な上位の魔法なんだ。』
『さっきのよりも上位の……。』
上級魔法でさえ、身体が焼ききれたのにその上位が存在しているとは。再生も何かの上位……回復とかか。
『うん。でもそれだけあってデメリットも存在する。さっき言った通り、これを使う人間は人間ではなくなる。身体的成長がそこで止まり、寿命で死ぬ事がなくなるのさ。それに禁忌魔法は禁じられているからね、冒険者カードが使えなくなるよ。こう、キープアウトって文字が浮かび上がっちゃうんだよ。』
『事件現場かよ。』
『事件現場?まぁ、似た感じかもね。禁忌魔法の使用が認められた場合は即拘束、出来れば処刑だから。』
エクスは両手を突き出し、手錠をかけられるジェスチャーをする。
『そんな大罪なのに完全な処刑じゃないゆわだな。』
『禁忌魔法使いは一騎当千、拘束なんてそもそも出来ない。処刑なんてもっと無理。あ、でも拘束の方は一人いたか………。』
気まずそうに閃いた顔をするエクス。おいおい、居るのかよ。今の絶対居ない流れだっただろ。
『知ってるのか、エクス?』
『あーうん。いつか会うだろうし、楽しみにしといて。きっといい刺激になる。今は言わないけど。』
『いや気になるんだけど。』
どんな奴なんだよ、刺激になるって。いい意味であることを祈るけど。強いのに捕まってるとかロクな奴じゃないだろ。
『ま、それは置いといて。禁忌魔法の話に戻ろうか。』
『はいはい。』
『禁忌魔法は古の神々が遺した魔法。人の身に余るものだけど、きちんと訓練すれば使いこなせるようになる。特に私の様な精霊がついてる再生は最もものにしやすい、と思う。』
『へぇ、案外何とかなるんだな。』
言ってからしまったと思った。エクスの顔が光悦とし始めたからだ。頬は赤く染まり、口からチロチロと舌が出始める。薄々気づいていたけど、可愛い系でもカッコイイ系でもない。
『ふふふっふふは!!そうだろう。だから今から君を鍛えてあげる。』
『それは、そのどうやって?』
この少女は─────────
『再生のメリットは使用が簡単、戦闘に有利、そして他人にも簡易な再生を付与できる所。でも。』
『デメリットは?』
『普通の人間は何度も何度も繰り返す死、流血、人体の損傷に耐えられない。ましてや戦闘中に利用する為に自分から切断なんて絶対に出来ない。』
『確かにそう……だな。』
再生系能力は大体化け物か超人のどっちか。精神が超越してるのは間違いない。ループ系主人公は例にもれず皆、精神を病んでいる。じゃあ、エクスはどうやって俺を鍛えるつもりなのか。
『だから、私は今から君を殺し続ける。』
『やっぱりドSか…………。』
『ふふふ、褒めないでくれ。照れるじゃないか。』
『褒めてねぇよ。』
常識人かと思ってたら狂ってたパターン。殺し続けるって聞いたことない、どんなスパルタなんだよ。
『それに殺し続ければ、再生速度、性能も上がる。後は頑張って自我を保つ、それだけだよ。』
『それだけって、おい。』
『うだうだ言うなよ、男だろ?って言いたい所だけど。嫌々やらされる訓練は身につかないからね、やりたいって言わせてあげる。』
『それは力技で…?』
恥ずかしい話だが、目の前で不敵に笑いさう少女にさえ勝てそうにない。
『いいや。そんなことしないよ。使うのはここだけさ。』
エクスはとん、とんと二回口を指で叩いた。どうやら口で説得するつもりらしい。
『ユリアも禁忌魔法の使い手。時空を司る賢者、それが彼女。』
『ユリアが……禁忌魔法……。』
ダンジョンでマナの源を元に戻す時、確かにユリアは「禁忌」と呟いていた。元に戻す力も時間操作なら納得がいく。でも、それならどうして俺に黙ってたのか。
『君は降神星団と遭遇した、それも幹部と。』
拘束服を着た槍使いを思い浮かべながら、頷く。
『ユリアはとある事情から降神星団に追われている。』
『そんな話……!』
『聞いてないだろうね。でも、話が先。降神星団とは想像よりも早く遭遇してしまった。それこそ君が一人で戦えるレベルになる前に。見つかった以上、追われる運命にある。だからこそ、十全に戦えない君を連れてはいけない。彼女は君をどこかへ預けるつもりだったんだろうね。それを察したルティアが君を殺し、私と正式な契約を結ばせるように促した。』
『結局、俺は足手まといだったってことか…………………。』
俺が強く無いばかりにユリアとルティアに辛い役割をやらせてしまったことになる。情けない、情けない、情けない。あの時、初めてあった時、勇者になるって誓ったのに。せっかく喚んだ頼みの綱が役に立たなかったユリアの気持ちを推し量る事はできない。
咳払いを一つして、うつむく俺にもう一度エクスが口を開く。
『でも、実戦で影の薄かった君は敵の印象には残りにくい。幸い、私の事も出さなかったみたいだしね。だから、君は相手が想定する盤上にない駒だ。戦況を覆す一手を打てる、そんな切り札なんだよ。まぁ、ルティアもそれを分かってやったんだろうね。そこで、だ。君はどうする?』
俺は、
『ここでの事は忘れて、この世界で楽しく暮らす?』
俺は。
『それとも、元の世界へ帰る?』
俺は────────────
『君はどんな未来を望む?』
『俺は誰よりも強くなる。今度こそ、大切なものを守る為に。』
次はもう無い。これが三度目の正直。これ以上情けない姿を晒すわけにはいかない。
その答えにエクスは満面の笑みで応えた。
『よく言いました。じゃあ、この世界の誰よりも死になさい。』
満面の笑みの下で結ばれた魔法陣は光り輝き、視界を白で染める、そんな熱量の光を撃ち出した。
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