第14話 その剣の名はエクスカリバー


 夢を見た。

 よく見る夢、十年前の記憶。小さくなった俺は母さんや父さん、妹の楓と共に大型ショッピングモールに遊びに来ている。そして俺たちはショッピングモールの中で原因不明の地震に巻き込まれ、瓦礫の下敷きとなった。どれぐらい意識を失っていたのか、気づいた時には母と父に覆いかぶさるようにして守られていた。父と母がかろうじて俺たち二人のスぺースを確保してくれている。父と母の身体はあちこちが傷ついており、助からないだろうということは子供の目にも分かった。だからこそ最後に父と母が伝えようとする言葉を聞き逃すまいとした。


『桜....楓。私たちはあなたたちを愛しているわ。あなたたちの成長する姿を見たい、もっと笑ったり、泣いたりしたかった。でも、それももう終わりみたい。お父さんとお母さんはここでさよならしちゃうけど、桜、あなたは生きて。楓を守って頂戴。』


 そういうと、母は微笑んだ。あれが最後に見た母の笑顔だった。


『言いたいことは母さんが言ってくれた。私も母さんや桜、楓を愛している。お前たちを最後まで守れないまま先に逝くことを許してほしい。桜、これは父さんとの漢の約束だ。

自分の愛するもの、大切なものを守れるような漢になれ。頼んだぞ、お兄ちゃん。』


 最後まで陽気な父は母と同様に微笑んだ。


『分かった。約束する。楓も、これからできる大切なものも全部守って見せる。だからっ………』


 この先は言えなかった。二人が泣かないのに泣いてどうする。行かないで、なんて叶うはずもない。


『『愛してるよ、桜。』』


 歯を食いしばり、無理に笑おうとする俺を見て二人は更に微笑み、そう言った。そして、俺が横で気を失っている楓に手を伸ばし、少し先の隙間に移動する。更に大きく揺れ、俺たちのいた場所、両親がいる場所が崩れた。その光景を最後に俺は必死に楓を抱きかかえたまま意識を失った。

 意識が戻った時には救助隊員の方々の手によって助け出され、病院に運び込まれた後だった、俺の住んでいた街、天野市を襲った謎の災害。無事退院した俺は、行方不明者が多数いるにも関わらず遺体一つ見つからないため、捜査が止まってしまっていることなどを知った。それからは、離れて暮らしていた爺ちゃんの元で暮らした。その爺ちゃんも少し前に亡くなった。それで俺は一人になったってわけだ。

 十年間、助け出されるまでの光景を夢で見続けてきた。何もできなかった自分の無力さが恨めしい。楓を守るという約束も破ってしまった。次こそは上手くやる、そう思ってきたのに今回もこのざまだ。


『俺はここでゲームオーバーか。』


 まぶたを再び開ける権利はもう残されてない。ここで、これでお終い。結局何も出来ないクズのままだった。


ピュインッ

 

 意識の中、軽い電子音と共にゲームでよく見るようなウィンドウが表示される。そこにはこう書かれていた。


【復活しますか はい いいえ】


 意識の中に何でこんな物が現れたのかとかこんな怪しい物は危ないとか、考えることも無く俺は、はいを選択していた。

 

 パリン


 ガラスの割れるような鋭い音。俺は空中に放り出される感覚に襲われ、やがて叩きつけられた。


『いったぁ……』


 目を開けると、そこは見渡す限りの青、湖の上。湖だと思うのは360度、遥か遠くに陸地が見えるからだ。それはそうとして、何故か湖の上に立てている。割れたりする訳でも無い、安心して立てそうだ。


『やぁ、お目覚めかい。ユウキサクラ。』


『えっと、誰ですか?』


 透き通る様な声、それがどこからか聞こえてくる。記憶の隅に引っかかるものはあるものの、それが何か分からない。


『……もしかしなくてもその辺りのこと忘れてる感じだね。』


『えっと、ごめんなさい。』


 ルティアも確か同じような事を言ってた気がする。俺は何か大切な事を忘れてるのか?


『いいや、大丈夫だよ。そうだね、うーん……よし、そういう訳ならこっちの姿の方がいいかな。』


『うわっ!!』


 声が聞こえた瞬間、湖の中心から光の柱が飛び出す。その眩さに思わず目を覆う。


『私の名前はエクスカリバー。よろしく、サクラ。』


 光の中から現れたのは金髪を腰のあたりまで伸ばす美少女。胸元の青い生地に大きなリボン、そしてお腹周りの3つのベルトと白いフリフリのレース、ゴシック・ロリータとでも言うべき服を着ている。それを除けば美少年にも見える整った顔立ち、17歳くらいの見た目の子が立っている。


『よろしく。えぇっと。』


『エクス、そう呼ばれていた。』


 エクスに差し伸べられた手を握り、挨拶を交わす。


『じゃ。よろしく、エクス。』


『それじゃあ、そこの席に座って。』


『席?………あっ。』


 言われて振り向けば、そこに机と椅子が用意されていた。ご丁寧に鉛筆とノートまで。まるで、授業みたいだ。

 俺が席に座るのを確認すると、エクスは服のポケットから何かを取り出した。それを顔の所に持っていくと、片手でクイッとやる。………メガネだ。メガネクイッが上手く行ったことを確認すると、少し嬉しそうにしながら宣言する。


『これから、授業を始めます。』


 可愛い先生の背後にはホワイトボードまで出現しつつある。空耳かもしれないが、どこかで始業を鳴らす鐘が聞こえた。

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