間章 太陽覗く空の下
閑話 降神星団総本山にて
時は遡り、ダンジョン最深部での戦いの後。拘束服に身を包む少女、ランスは転移魔法を利用して帰路についていた。彼女が幹部の一人を務める降神星団、その総本山への。
白い石で形作られた室内。繊細な彫刻に迫力あるアーチ。その広間から伸びる広い階段を登り、天まで届くと思う程大きな扉の前に立つ。その扉は手を触れると、きしむ音を立てながらゆっくりと開いた。
その中は一面の鮮やかなステンドグラスに円卓、といっても席についているのは二人だけで、残りの5席は空いたままだ。その内の一人、最も奥に座る青年が軽く手を上げる。
『帰ったか、ランス。』
赤髪の青年は見た目より大人びた声を出す。
そんな彼の左隣の席へ移動する。
『はい♡貴方様のランス、ただいま帰還しました♡』
『えらく遅かったじゃないの。大丈夫かい、姫様。』
続いて、その右隣に座る初老の男が声をかける。心配するというよりはからかいに近い言葉を受けたランスの顔は曇り、冷たい視線を投げかける。
『あら、いたの。』
『あっはっは。いつも通りの鋭さでおじさんは安心だよ。』
『けっ。』
陽気に笑う男に蔑みの目を向けてから、青年の方へと向き直る。青年は冷静な顔のまましっかりとランスを見据える。
『それで、報告を。』
『はい♡任務は達成しましたが、生憎と邪魔が入ってしまって……。』
『邪魔。』
青年が纏う気配がより濃くなり、表情も少し険しくなる。
『3名の冒険者に侵入を許し、交戦しました。』
『…………それで?』
『マナの暴走を確認し、帰還しました。』
『……………なるほど。ランス、君が撤退を選ぶなんて珍しい。彼等を殺さぬ理由があったんだろう?』
『はい、彼等の中に賢者を発見しました。それに加えて、異質な気配の男に妙な!騎士がいました。』
一度目を閉じ、しばらく思案する。そして幕を上げるように、ゆっくりとまぶたを開く。
『遂に賢者が見つかったか。ご苦労だったな、ランス。その騎士は恐らく護衛だろう、もう一人の方も恐らく同じ。そして、賢者ならマナの暴走も止めているはず。ふむ………………。』
再び、思考の海に沈んだ青年の意識は既にここには無かった。
『へぇ~凄いね、姫様。お手柄じゃない。』
『貴方に褒められても全く嬉しくないわ、死になさい。』
男の軽口に少女は嫌悪感を露わにする。拘束服の中がうねり、一本の槍が飛び出す。
『うわっと!!危ないじゃないの、おじさんもうちょっとで死んでたよこれ。』
飛び出した槍は男の首すれすれを通り、イスの背もたれを粉々にしていた。相変わらず、余裕を崩さない男に少女の苛立ちは募る。
『これで殺せてたら、あんたも幸せでしょうね。』
『あっはは。全くだ。』
二人が笑い合い、一息ついたその瞬間。少女は槍を射出しようとし、男は懐に手を入れ何かを取り出そうとする。一触即発、そのタイミングで青年が静かに手を上げる。
『止め。』
大きくはないが、よく通る声に二人の動きは止まる。
『貴方様がおっしゃるなら仕方ないですね。』
『あっはは。久々に退屈しのぎが出来そうだったのになぁ。』
『………………何ですって?』
『うん?』
『退屈しのぎはこちらのセリフです。早く死んでしまいなさい、老いぼれ。』
『あっはは。やっぱり姫様は姫様だ。技量、精神共に異常無し、って感じだわ。』
『ほんっと、食えない男っ!!』
向かい合い、言い争う二人へ青年は更に声をかける。その様子には慣れが伺える。このやり取りはいつも繰り返されているのだろう。
『そろそろ、いいか。』
『全然いいよ。』
『もちろん、大丈夫です。』
一息つくと、青年は真剣な面持ちを整える。
『我らが神の、その御身の復活の為、総力を持って賢者を捕らえよ。出来る限り生きたままが好ましい。』
『おっけー。』
『はい。』
『これで計画に何ら支障は無い。至急、他の幹部を集める。二人も手伝ってくれ。』
『はいはい。』
『はい♡任せてください♡』
円卓の間を出ていく二人の仲間を見ながら、青年は光指す天窓を見上げる。その手には純白の剣が握られていた。その剣を優しく撫でながら、青年は呟く。
『ようやく終わる…………この世界も俺も何もかも。』
太陽覗く空の下、永らく闇をすみかにする組織がこの日を境に表舞台へと姿を現し始めた。
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