第11話 初依頼は波乱と共に

 なし崩しにパーティー結成となった翌朝、俺は洋館の一室、二階の部屋で目を覚した。窓を開け、朝日を浴びる。ここは街の中心から少し外れたところにある古びた建物。老朽化していたのを狂竜の2人が買い取ったらしい。昔の建物だからか、二階建てだというのにそれよりも大きく感じる。

 階段を降りて顔を洗い、リビングに行く。既にリビングのテーブルには果物と肉が盛り付けられた皿があった。キッチンにはユリアが立ち、テーブルには竜の少女が座っていた。


『おは………朝、早いんだな2人とも。』


 危ない。確かガレスにおはようを言わないように言われてたんだった。降神星団、だっけ。


『私達が早いんじゃなくて、あんたが遅いのよ。』


『うむ。其方は余程鈍感なのじゃな。余はこの美味しそうな匂いに誘われ、早くからここに座っておったぞ。』


『自慢気に言うことか、それ。』


 ドヤ顔を見せる竜を横目に見つつ、その向かい側に座る。


『そういえば、なんて呼べばいいんだ?狂竜はレイって子の方なんだろ?』


『うむ。狂竜時は余の意識もあるが、身体の主はレイであるからな。では、ルティアと呼ぶが良い。』


『いい名前だな。』


『余はセンスも一流、じゃからな。』


『二人とも、おしゃべりはその辺りで。冷めない内に食べるわよ。』


『はーい。』


 食事は早々に終わり、俺達は出かける準備を始めていた。


『今日は依頼、受けるんだよな?』


『そうね。パーティーも組んだ事だし、こなせる仕事の幅も広がったはずよ。』


『む。じゃが、どのレベルの依頼を受けるのじゃ?このメンバー、小僧は除いた余たちとユリアに見合った依頼は無さそうじゃが。』


『あはは。そうなんだけど、私も最近は戦闘とかしてないから、ウォーミングアップが必要なの。』


『はいはい、最低レベルの俺に合わせた依頼にしてくださいね。』


 まさか、ユリアがそこまで強いとは。俺なんてルティアに『伸びしろある』的なことしか言われてないのに。

 イマイチ格好のつかない俺を先頭に、冒険者ギルドへ向かった。


『猫探し、スライム討伐、トツゲキウサギの捕獲、家庭教師、人探し、マンドラゴラの採取………………色々あるな。』


 依頼を受けに来たものの、圧倒的な数の依頼を前にどれを受けるのか決められないでいた。まぁ、どれも平和そうで楽そうだが。………マンドラゴラ?何かヤバイものだったこと以外覚えてないな。危険じゃないのか、これ?


『出来れば、戦闘系の依頼が良いわね。それでいて、高報酬。』


(はぁ。其方らでは決められそうもない。仕方ないのぉ、余が決めてやろう。)


 頭の中に声が響く。声の方向を見ると、狂竜がこちらをチラリと見ていた。冒険者ギルドではこちらの姿で通っているため、レイが主の鎧姿に戻った。だが、連絡用に俺達4人の間ではテレパシーが働くようになっている。


(じゃあ、頼むよ。ルティア。)


(ええ、お願いね、ルティア。)


(よいよい。余は運命を司る竜、其方らの運命は──────────これさっ!!)


 スタスタと歩き、何かを掴みとった。レイからそれを受け取って広げる。横からユリアものぞき込んでくる。若干顔が近い。


『『ダンジョン探索?』』


(うむ。それが、余の運命レーダーに引っかかった。最近、魔物の出現が増えたダンジョンの調査、決まったのなら、征くぞ。)


『ん、これで行こう。』


『ま、この辺りのダンジョンなら危険も無さそうよね。』


『おい、それってフラ………うわっ!』


 死亡フラグを直で聞かされたのは初めてだ。その危険性を注意する前に、俺はガレスに引きずられていた。


『大丈夫だったのかよ、サクラ。』


『全然大丈夫、ピンピンしてるぜ。』


『はぁ。お前が狂竜にふっ飛ばされて動かなくなった時は死んだと思ってたけど、生きてて良かったぜ。』


『心配かけたな。』


『いや、それよりも、だ。どうやって、狂竜を懐柔したんだよ。会話も成り立ってなさそうなのに、どうやってパーティー組めたのかが、みんな気になってるぜ。』


 後ろから覗く冒険者達も頷いている。


『サクラー何してるのー?行くよー?』


(其方は誠、おしゃべりが好きじゃな。)


『おっけ、今行く!』


『で、どうやったんだよ?』


 好奇心に満ちた目で俺を見る彼等に俺は一言、


『オトしたのさ、俺のテクで。』


         ◇


『ダンジョンって、一体どこにあるんだよ。』


 痛む身体の節々を抑えながら、森の中を歩く。ここは草原を抜けた先の森、その中枢に近いところまでやって来ていた。


『地図で見ると、もう少し先ね。』


 先頭のユリアが答える。


(其方、歩くの遅すぎじゃぞ。ふざけたりするから、タコ殴りに遭うのじゃ。)


『ま、そうなんだけどさ。』


 さっき、決め台詞と共にドヤ顔をした俺は『面白くねぇんだよ!』『ふざけんな!』『〇〇のくせに!!』等、様々な罵倒をくらい、ユリアに救出されるまでタコ殴りに遭っていた。確かに質問にちゃんと答えなかった俺も悪いが、笑って許してくれたらいいんじゃないのか。


(臭うな。)


『何が?』


『魔物ね。多分。』


(いや、それもあるが……まぁ、先に魔物じゃ!)


 俺は気配に気づけなかったが、少し先の茂みから、ゴブリンの集団が姿を現した。これがパーティーでの初戦闘、協調性を大事にして行こう。


『……………ッ!!』


 その想いはレイが軽く振るった剣の一薙によってかき消された。ゴブリンの集団はきれいに上下真っ二つに割かれている。一撃で10数匹を屠る、その強さには惚れ惚れするが、もう少し俺の出番も用意して欲しい。


(すまぬ。レイも悪気があるわけではないのじゃ。問題はこの先のダンジョン、奴等の臭いが漂ってきておる。)


『奴等?』


 試しに鼻を動かすが、全くそうした臭いを嗅ぐことはできない。


(降神星団、あの犯罪者集団の臭いじゃ。)


『『!!』』


 降神星団。確か、太陽を信仰する相当危険な連中。そんな奴等がどうしてこんな初心者の街の近くにいるのか。


(臭いがする、ということは恐らく幹部の類がおる。其方らはここで帰るなり、助けを呼びに行くなり、好きにせよ。余たちは征くが。)

 

『行くに決まってるだろ。せっかくパーティーで受けた依頼、なんだからさ。』


『私も。自分のこととサクラのこと位は守れるもの。それに降神星団の幹部には賞金かかってるもの。逃さないわ。』


(うむ、では征くぞ。)


 やがて森が開けた場所に辿り着き、そこに地下への入り口を発見する。先頭がレイ、真ん中が俺、後ろがユリアで進む。真ん中は守ってもらっているようで、少し恥ずかしいが、実力順なら仕方ない。


(臭いはこの辺りで途切れておるな。)


『まだそんなに進んでないぞ。』


 階段を一階分降り、歩き始めて少し経った時、レイが足を止めた。左右は壁、まだ先には進めるが、臭いが切れているならどう進むべきかも分からない。そうして足を止めた時、ユリアが前へ乗り出した。


『ここで臭いが途切れてるのよね?』


(うむ。)


『なら、ここに仕掛けがあるはず。』


(じゃが、その類の魔力は感じぬし、見つけられぬが。)


『見つけられないなら、


『何をする気なんだ?』


『万物よ、在るべき姿へ戻れ。』


 ユリアを囲むように4つの魔法陣が展開される。その全てが時計を模しており、回るスピードはバラバラ。何をするのかは分からない、だが、目の前で行われる魔法の凄みだけが伝わってくる。


カウント・ゼロ


 その言葉と共に時計が高速で逆回転を始め何周か周り12時を指した時、ひび割れて魔法陣は消えた。後にはユリアと足元に現れた魔法陣だけが残されていた。


『ユリア、今のは?』


『それは後、今はこっちが先よ。』


(これは転移魔法の類か。)


『ええ。使った後、念入りに証拠を消したみたいだけど、残念ね。これを使えば、奴等の所までひとっ飛びよ。』


(覚悟はよいな?)


『もちろん!』


『任せとけって。』


 そう言いつつも、実はかなりビビっている、なんて言えないまま俺達は魔法陣を起動し、降神星団の元へと転移した。

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