第9話 確かな成長
時は昼過ぎ、場所はいつもの草原。俺とユリアは二人してそこに立っていた。目の前にはぷよぷよと揺れる青いスライム。昨日から今日にかけて俺のステータスが急激に上昇したこと、それが冒険者カードのバグで無いことを証明するためにここまで来たってわけだ。
『このスライムを何でもいいわ、倒してみなさい。』
『ん、おっけ。』
頷くと、その手は空中に伸び、剣を取り出した。黄金の持ち手に銀色の刀身、光に当たり輝く剣を。
『サ、サクラ、それっ!!』
『何か出た。』
『何か出た、じゃないわよ!それどうやって……ううん、何でもないわ。』
『どう考えても何でもなくないだろ。』
一人で驚いたり、落ち着いたり忙しい奴だな全く。試しに剣を振る。軽く振っただけなのにスライムは蒸発し、その衝撃が10m先まで地面を抉る。やばくないか、この剣。
『それは勇者の剣、エクスカリバー。本当は名無しの剣なんだけど、勇者がエクスカリバーって呼んだからそう名付けられたの。それを抜き、手にできる者は勇者の資格がある者だけ。サクラ、あなたは勇者に選ばれたの。』
勇者の剣、エクスカリバー。本当の名前じゃないとか、その勇者、ゲームのやり過ぎだろ。持ってる剣にエクスカリバーって勝手に名付けたのかよ。まぁ、俺も木の棒拾って「エクスカリバー!!」とかやってたし、人のこと言えないけど。
『じゃあ、俺の急なパワーアップもそれが原因?』
『そう、って言いたい所だけど、余りにも身体に馴染み過ぎてるのよね。基礎がしっかりしてないとパワーアップなんてしないもの。サクラ、あなたどこかでその剣に触れたり、使用者に会ったり………ってそれは無いわね。まぁ、これでサクラも一人前の冒険者になれそうね。』
思案顔のユリアはふと顔を上げてこちらを見る。その顔は嬉しそうだ。ここまでユリアに鍛えてもらったのも俺を助けてくれたわけだ。やっと一人前、スタートライン。まだまだだけど進むしかない、よな。
『ユリア、ありがとな。じゃあ、これからどうするんだ?』
『そうね、パーティーを組むのよ、パーティー。』
◇
俺達は冒険者ギルドに戻り、甘ったるい謎の飲み物を飲みながら話をすすめる。
『俺達と組んでくれる人なんているのか?』
『アテはあるの。サクラのその剣は勇者の剣、その存在をよく思わない奴らも多いのよ。だから、出来る限り強い人が良い。』
『つまり?』
『つまり。』
『……………。』
椅子が引かれる音がした。ユリアの横に現れたのは黒騎士、いや狂竜だったか。確かに強いらしいけど、こいつとコミュニケーションとか取れるのか?ギルドの誰も会話が成立したこと無かったぞ。
『ねぇ、狂竜。私達とパーティー組んでくれないかしら?』
『………。』
狂竜は微動だにせず、黙ったままだった。あれか、お願いするならそれ相応の態度をしろ、とかなのか。
『お願いします!!』
『………………。』
頭を下げていると、周りの状況が分からない。何だかざわついているのは分かる。それと、俺の身体が浮かんで……浮かんで?
『うわぁぁっ!!』
『……………。』
俺の身体は軽々と持ち上げられ、狂竜の肩へと乗せられた。そのまま、狂竜はギルドの外へと歩いていく。
『あ、あのー。降ろしてもらえないですか……?それか、お話してもらえませんか?』
『……………。』
街の人が奇妙な光景を凝視する。目があった親子連れは、母親が子の目を隠して足早に立ち去っていった。
『あの、あのー!………………離せよ、このまっくろくろすけ!』
『…………………。』
声を荒げたと同時に身体が宙を飛び、降ろされる。朝来た草原、その入り口の辺りまで来てしまっていた。そして、尻もちをついた俺の目の前には黒々とした剣先が向けられている。
『なるほどね。実力を測ってやる、的な感じか。』
鎧の中を睨みながら立ち上がり、剣を取り出す。
『……………。』
狂竜も漆黒の剣をどっしりと構える。その構えに隙は無く、どこに打ち込んでも返される、そんな気がしてくる。
手元の剣を見る。エクスカリバーとかいう名前なら、ビームも出せるんじゃないか?相手の懐に入りこんで、そこからビームを撃つ。それで行こう、いや行くしかない。
『はあっ!』
狂竜へ駆け出し、剣を振り下ろす。それを狂竜は避けることもせず、剣で受け止めた。全力を込めたというのに狂竜はびくともしない。
『……………。』
『マジかよ。』
当然、相手からの反撃もある訳で。強い力で後ろに押され、そこに剣の横薙ぎがくる。
『……………!』
『避けれた……っと!』
避けられない、と思ったが、動きが見えるし、身体もついてきた。俺が避けた事に狂竜は少し驚いたように見えた……たぶん。
そこから、狂竜の連撃が始まった。右で踏み込み、振り下ろし、そこから突きを放つ。俺が更に後ろに跳んだ所に、柄頭を拳で打ち剣を穿つ。首を捻ってかろうじて避けた所を先回りし、穿った剣を掴み、首めがけて振り下ろす。そして最後に、成すすべもなく転がる俺にまたがるように立ち、目の前に剣を突き出す。ここでゲームオーバーらしい。
『………………。』
剣は突き出されたまま。こちらが負けを認めたら、終了だろう。そうしたら、パーティーメンバーの件もご破算。………どうする、どうする。何か、何か無いのか。…………一か八か、やるしかない。
『エクス…カリバーッッ!!!!』
狙い通り、とでも言うべきか。ビームが剣先から飛び出し、俺の身体は地面を高速で擦りながら、狂竜の射程範囲内から逃れた。かろうじて、立ち上がる。背中が痛い、血でも出てるんじゃないだろうか。
『……………。』
狂竜はその場から動かない。さて、ここからどうしたものか。ビームを見せてしまった以上、警戒されて当てられないはず。でも、当てるしかダメージを与えられない。なら、当てる方法は………………そうか。
『来ないなら、こっちから行く!!』
勢い良く走り出す。剣は右下に構え、両目で狂竜を見据える。射程範囲内ギリギリ、さっきよりも速く、重い一撃が振るわれる。でも何だか知らないが、動きが見える。
『エクスカリバーッ!』
右下に構えたまま上に飛び、少しビームを出し、更に跳躍。狂竜の頭上まで来る。身体から赤い液体が溢れ出す。どうやら、狂竜の一撃、避けきれていなかったらしい。でも、そんな事には構っていられない。狂竜は剣を振り抜き、頭はガラ空き。
『これで、決めるっ!!』
振り下ろした剣が狂竜の兜へと炸裂する。それと同時に俺の身体は吹き飛ばされ、地面に転がった。理由は明白、俺の剣が最高のタイミングで激突すれば、狂竜もかなりのダメージを負う。それを回避しつつ距離を取るために、自分から剣に頭突きをかました。それで俺は押し負けて、こうして地面に転がったってわけ。どうして、スライムの次にラスボスみたいなのと戦わなくちゃいけないのか、その疑問が解決する前に、俺の意識は潰えた。ら
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