第8話 少年は朝に消える【後編】
極光を突き破り、剣を叩き込む。振りぬいた剣は少しお姉さんを仰け反らせただけで力尽きてしまった。体力の限界を避けられず膝をついてしまう。追撃がくるかと思ったが、お姉さんはこちらに手を差し伸べてくれた。その手を掴んで立ち上がる。
『おめでとう、一撃入ったね。うんうん、さーちゃんに上手く受け継げたみたいだね。』
『受け継げた………?』
お姉さんの視線の先、俺の手にはお姉さんが持っているのと同じ光り輝く剣が握られていた。
『それそれ、その剣!!それ、勇者の資格がある人しか使えないの。だから、それが使えるってことは、君は勇者になれる。』
『これ、もし俺が使えなかったらどうなってたんですか?』
『その時はさっきの凄い光で灼かれて死んでたよ。』
『へ?』
淡々と言うお姉さんに恐怖する。光の中で声を聴かなかったら、あのまま丸焦げだったのか。
『ま、結果オーライだし。いいでしょ。』
『はぁ。確かに。』
『それよりも、お姉ちゃんとのお別れイベントの方が大事じゃない?』
そう言ったお姉さんの身体は光に包まれ、徐々に離散していく。
『お姉さんはこれからどうなるんですか。』
『ひと仕事終えたし、酒盛りもできたし、ちょっと眠るだけだよ。』
『眠るって……。』
『そうだ!私の正体、聞きたかったんでしょ。教えてあげる。ほら、こっち来て。』
わざとらしく元気そうに手を打つお姉さんは、俺に向けて手招きする。寄っていくと、お姉さんは俺の耳元で囁いた。
『私は──────────。』
『それって………っ!』
聞いた事を確認しようと、お姉さんの方を向こうとした首に衝撃が走る。あまりの痛みに意識が遠のく。かろうじて開いた視界には、右手を手刀にしたままのお姉さんが映る。
『どう……して……。』
『私の存在は隠しておきたいの。盤上にある駒じゃまずいから。だから、今から私との記憶を消すわ。でも、君とユリアのピンチには絶対駆けつける。だから、その時には私を呼んで、思い出して。………………ごめんね。』
更に目の前に魔法陣が展開され、頭にノイズが走りだす。
『約束……次会う時には俺、勇者になってますから。』
『うん、約束。』
そう言ったお姉さんの目から涙がこぼれた、その光景を最後に俺の瞼は閉じた。
『………ラ!…………クラ!起きて、サクラ!』
『うわっ、どうしたんだよユリア。』
身体を起こすと、ユリアが俺の肩を揺すっていた。顔面蒼白の顔が目の前で揺れる、いや揺れてるのは俺なのか。
『朝いっつも私より早く起きてるのに、今日に限って全然起きないし、何か涙流してるし、心配したのよ!』
『あー、何だろ。何か大事な用があったと思ったんだけど…………分かんない。』
頭に靄がかかったように記憶が曖昧になる。異世界に来てすぐの時も確か、同じ事があった気がする。
『はぁ。ま、サクラが目覚めなくてもこのまま一人で行くとこだったんだけど。』
『さっき、心配したって。』
『うっさい!!…………サクラ、強くなった?』
『そんな訳無いだろ。睡眠訓練法かなんかなのか。』
言われてみればそんな気も………しないでもない。
『とりあえず、ギルドに行けば分かるはず。さっさと行くわよ。』
『はいはい。』
俺とユリアはいつも通り冒険者ギルドへと繰り出した。
主を失った空間。花畑に再び彼女が現れる。
『さーちゃん、行っちゃった。ほんとはまだ消えるまで時間あったんだけど、どうせなら感動的な別れをしてみたかったしね。うんうん、さーちゃんには悪いけど、案外上手くいっちゃった。いや、いってないか。最後気絶させてたし。』
残念なことに魔力が切れるまで私には時間があった。まだ猶予はある。
『
先程までいた男の子はもういない。どこまでも広がる青空に独り言が響くだけだ。これから旅立とうという子に聞かせるようなものじゃない。
『聖剣が認めた彼、類まれなる特異点、彼というイレギュラーは世界を救うか滅ぼすか。それは次会ったときの楽しみにしようかな。』
その言葉の終わりと共に一迅の風が吹く。もはや、この地には誰もいない。
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