第45話・レブルの兄は
「ここのスィーツはとても美味しくて皆に評判なんだ。僕らも一週間に一度はやって来るよ」
レブルは店内を見渡していた。白地にパステルカラーの水色の板が張られたシンプルな店内で、壁には観葉植物が籠に入れて下げられていた。
「何だか落ち着きますね」
「あら。レブルも一緒だったのね?」
「酷いな。私は一目できみと気がついたのに」
しばらくして両手にデザートのお皿を持ったナタルーが厨房から出て来た。お客の中にレブルを見つけて嬉しそうに話しかける。
「ナタルーはレブルさんと知り合いなの?」
「ええ。レブルとは学院で学んでいた学友です」
「そうなの。知らなかったわ」
「エリカさま。実は私がお父さまに彼の論文が凄いと教えたんですよ。後に彼がお父さまの支援を受けて研究室を持ったって聞かされたときは自分のことのように嬉しかった。ねぇ、あなた」
ナタルーは背後を振り返った。彼女の後ろには大柄の彼女の夫が両手にお皿を持って運んでくる。彼は表情豊かな方ではなく、人付き合いも得意ではないようでいつも厨房に引っ込んでいるが、今日は訪れたお客の数が多いせいか手伝いに駆り出されたようだ。
「いつもありがとうございます。ご領主さま」
「兄さん?」
「おお。レブルか。大きくなったな」
寡黙な男がウィリディスにお礼を言う。その男を見てレブルが驚いた。レブルの言葉に私も驚いた。この二人が兄弟なんて聞いてない。隣のウィリディスを見ればしれっとした態度でデザートを頂いている。
「兄さん」
「レブル」
大男にレブルが席を立ってしがみついた。
「会いたかった……」
「おまえのことはナタルーと一緒にご領主さまから聞いていた。瘴気に対しての研究を行っているらしいな。凄いぞ。レブル。おまえは俺の自慢の弟だ」
「兄さん」
レブルが兄と涙の再会をしている間もウィリディスは平然としていた。目の前のキュライト公爵はおいおいと泣いていた。
「良かったわね。レブル」
「はい」
二組の再会に私も涙腺が緩んで涙ぐんでしまった。ウィリディスに肩を抱かれる。
「そろそろ良いかな? レブルくん」
「はい。兄さん、またね」
「ああ。母さん達に宜しくな」
兄弟二人が抱擁し合う横では、公爵が娘の手を取っていた。
「ナタルー。また会いに来るよ」
「はい。お父さま。お気を付けて」
ナタルー夫婦に見送られて店を出たキュライト公爵は涙を拭った。レブルも目が潤んでいる。
「兄上。ありがとうございました」
「ご領主さま。ありがとうございました」
二人に深々と頭を下げられてウィリディスは、うんと照れくさそうに頷いていた。彼らは自分達の連れてきた仲間の元へ行き、リーガ達と共に王宮へ引き返していった。
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