第44話・この街の住人の秘密


 レブルは静かに部屋の扉を閉めた。するとウィリディスの姿が変わった。私の見慣れた姿へと変わる。でも公爵は諦め切れなかったようだ。


「どうしたら兄上達をその人柱から解放して差し上げることが出来ますか?」

「恐らく無理だろうよ。僕達はこのままこのエメラルドの魔石と融合して朽ち果てていく。それには何千の月日がかかるだろうね」

「兄上」

「そんな顔しないでくれ。ランケア。僕達は対となる者が出来て幸せなんだよ。ねぇ、エリカ」

「ええ」


「私達に何か出来ることはないのでしょうか?」

「そうだなぁ。そう思うならもう僕らをそっとしておいてくれないか?」

「兄上」

「ここは僕達の夢の国なんだ。エリカとずっと紡いでいきたいんだ」

「分かりました。兄上の言うとおりに致します」


「ランケア。きみに会えて良かったよ」

「兄上に会いにここに足を運んでも良いですか?」

「時々なら構わないよ。待っている。そうだ、ランケアに会わせたい者がいたんだ」


 そう言うとウィリディスは再び、私達を連れて転移した。彼が私達を連れてきたのはこの街で人気のスィーツ店だった。街は投影されて美しく蘇った。


「この街の秘密をもう一つ、教えてあげよう」


 ウィリディスが笑って店のドアを開けると店の中には亜麻色の髪の女店主がいて「いらっしゃいませ。ご領主さま」と、声をかけてきた。


「ナタルー」

「お父さま」


 女店主を見てキュライト公爵が目を見開く。二人は親娘だったらしい。


「ウィリディス知っていたの?」

「まあね。ナタルーが会いたがっていたから機会があったら会わせてあげようと思っていた」

「もしや、ナタルー嬢もすでに──?」


 後ろで黙って様子を窺っていたレブルが聞いてくる。


「ここは死滅の地。死者が集まってくる地でもある。死んでも死にきれない思いがある死者はこの世を彷徨い、やがてここにたどり着く。その魂が出来るだけ生前の姿で過ごして、心残りをやり遂げるようにその手伝いをして送り出すのが僕の仕事だ。これはもともと魔力の強い者がこの地に領主としてやってきて自分の身を柱として捧げ、この地を守ってきていた。その事は聖王達に一子相伝で伝えられていたはずなんだが、現聖王には伝わってなかったようだ」

「もしかしたら伝える前に先代の聖王さまが亡くなったという事ではないでしょうか?」

「そうかも知れないな。さあ、ナタルー。今日はきみのお勧めのスィーツをくれないか?」

「はい。ご領主さま。畏まりました」


  さあ、僕らはテーブルについて待とう。と、ウィリディスが皆に店内のテーブルへの着席を進める。ナタルーは、涙を拭いて厨房に入っていった。


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