第46話・見えてきた真実
キュライト公爵らが姿を消してからその場に仲間と共に残された形となったリーガは駆けつけて来た妻を見据えた。気を失った聖王は、来た時の馬車の中に後ろ手に縛って転がしている。
「エリカ。何しに来た?」
「何しにって、ここに素晴らしい都があるって聞いたの。お宝があるかも知れないじゃない? それを見にきたのよ。聖王さまは?」
暢気な妻にリーガは呆れた。
「聖王さまは北の宮殿に行くことが決まった。おまえはどうする?」
「えっ? どうして北の宮殿に行くの? あそこは年中、寒いのに? 行くなら南の宮殿にしたらどう? あそこは年中温かいわよ」
「おまえも聖王さまに同行するがいい。少しは頭が冷えるんじゃないか?」
「リーガ。一体どうしたというの? 冷たくなっちゃって」
「おまえとは離婚する」
「えっ? どうして? 子供だっているのに」
「その子は私の子か?」
「私を疑うの? 最低。聖王さまに言いつけるわよ」
「言いつけたらどうだ? もうあの方は退位されることになる」
「へ? じゃあ、誰が後を継ぐの? まさか私じゃないわよね? もしかしてあいつ?」
黒髪に黒い目をしたエリカはイライラと爪を噛み、ブツブツ呟く。
「そんなの許せないわよ。せっかく入れ替わったのに意味ないじゃない」
「入れ替わり?」
「そうよ。私が正統な跡継ぎよ。お父さまが退位されるならその娘である私しか後を継げる者はいないでしょう?」
「馬鹿な事を言うな。おまえは異世界人であって聖王さまの養女だ。実の娘ならともかくもそんなのは無理だ」
「じゃあ、姿を元に戻せばいいんじゃない? あいつどこにいるの?」
「あいつとは誰だ?」
「エリカよ。私の姿をしたエリカ。銀髪に紫色した──」
その言葉にリーガは怒った。
「おまえ、殿下か?」
「そうよ。私がエリカ・ロアール。聖王の一人娘よ」
だからどうしたと言う彼女の頬を、リーガはぶった。女性に暴力で訴えるなんて生まれて初めての経験だった。拳を握りしめ憤る。
「痛いっ。何するのよ」
「おまえ、エリカを嵌めたのか」
「あんただって同じようなものでしょう? エリカと入れ替わった私に気がつきもせずに、私の言うことを鵜呑みにして、エリカがやったと決めつけて追放したんだから!」
「くそっ」
エリカの振りをした王女の言葉に彼はハッとし、項垂れた。俯く彼に王女は言った。
「あなたは私に優しかったわ。私、あなたのことが気になっていたの。そこにあの子が現れてからというもの、誰も彼もがあの子に夢中になって……。あなたはあの子に心底惹かれているみたいだった。悔しかった。ロアール国の王女に産まれて好きな人に相手にされないことが。だからあなたを魅了したのよ。私はそこまでしてあなたの心を自分に向けたかった」
王女は自分がしたことを認めた。
「あなたが憤るのは尤もよね。私を好きにしたらいいわ。離婚したいならそれに応じるわ」
「エリカさま。聖王さまとご同行願います」
二人の話を聞いていた副団長がエリカを拘束した。エリカ王女がした魅了も禁術の一つだ。それに加えて入れ替わりの術も。親娘揃って罪を犯したことになる。自分の罪を告白した王女は清々した感じに見受けられた。
それとは逆に真実を知ったリーガの衝撃は大きく、腑抜けになっているのを感じ取ったのだろう。副団長が代わりに動いた。実際に彼は動けなかった。信じていたものが足下から崩れていく喪失感に苛まれて。彼に出来たことは妻だった者と、仕えていた主が罪人として北の宮殿に送られていくのを見送ることだけだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます