第40話・異世界召喚の危険
「ええい。構わぬ。入り込め! あの者はもう我の娘ではない。悪魔に心を売った娘だ」
眼下で大声を上げる聖王はとても自分の父とは思えなかった。この国のトップに立つ男は矮小で醜く私の目には映った。このまま在位させてはおけないとキュライト公爵が考えるのは仕方ないように思われる。こんな男が王さまなんて──。
「消し去ろうか?」
「そんなこと出来るの?」
「きみがお望みなら」
私の心を読んだように彼は言う。彼にはなるべく手を汚して欲しくはない。ここを守るためと言っても。
ウィリディスは指先を鳴らした。魔術で地面から突如茨を芽吹かせると、その蔓を聖王に纏わり付かせた。「うわあっ」と、悲鳴を上げる聖王を自分達がいる城門の上まで引き上げた。
茨に身を拘束された聖王は空中でジタバタしていた。
「この悪魔め! 我を誰だと思っている。おまえらっ。何とかしろ!」
助けろと聖王は配下の者に怒鳴るが、茨に縛り上げられて空中に浮かぶ聖王に向かって矢を射る訳にもいかず皆が見上げるばかりになっていた。
茨で捕らえた聖王を、自分達と同じ目線まで持ち上げたウィリディスはその姿をあざ笑った。
「この国の王にして、エリカ殿下の父親ですよね? 僕はエリカの夫です。お見知りおきを。義父上?」
「義父だと? 我の義息子はリーガだけだ。そこの娘とは何の縁も所縁もない。馬鹿を言うな」
「なるほど。だからこうも非情になれたのですね?」
「何だと……! うひぃ──っ」
煩く喚く聖王をウィリディスが冷たく見据える。すると彼の体は地上すれすれまで落とされて引き上げられた。
聖王とウィリディスのやり取りを、リーガ率いる軍隊も城門内に収まっているキュライト公爵始め、お供の者達も誰もが動けずに黙って見守る状態になっていた。
そこへウィリディスは憎々しげに言った。
「あなたは実の娘、エリカと同じ名前の娘を異世界召喚した!」
「なぜ、おまえがそれを知っている?」
聖王の反応に周囲から大きなざわつきが起こった。失言に聖王は気がついたが大勢に聞かれてしまい、取り消すことも出来ない。
「異世界召喚? 禁術じゃないか」
「禁術に聖王は手を出したのか?」
「禁術に手を出したのは何の為に?」
皆の責めるような声に聖王は「煩い」「黙れ」と、言い続けた。この国の王の姿は情けなすぎた。
「あれはたまたまだ! 自分の力を試しただけだ。禁術なんて眉唾物だと思っていた」
聖王の言い訳は駄々をこねた子供のようで見苦しかった。この国では異世界召喚は禁じられた魔術で、行ってはいけないものなのだと私もウィリディスから聞いていた。まさか聖王自ら異世界召喚したとは思ってもみなかった。
しかも自分の力を試したいが為に禁術に手を出したなんて最低だ。もしも、万が一、失敗したらどうするつもりだったのだろう?
ウィリディスから教えられた話では、異世界召喚が禁じられているのはよその世界で生きている者をこちらに勝手に連れてくる行為であり誘拐のようなもの。そして次元を超えてこちらに呼び寄せるので、術者の力の強弱によっては形を留めて召喚されるか分からないというのが大きな理由だった。
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