第39話・非道な父親


「あいつは興味の失せたものは捨てるしか脳のない男だ。エリカはただ捨てられただけだ。可能性としては、リーガからこの街のことを聞いたことで興味を持ったんだろう。自分のものにしたくなった聖王は実力行使に出るつもりだ」


 ウィリディスが忌々しそうにいうあいつとは誰を指しているのか見当がついた。私は言い知れない不安に襲われてウィリディスの袖から手が離せないでいた。


「大丈夫だよ。エリカ。きみにはあいつに指一本触れさせやしない」

「ウィリディス」

「兄上。我らも共に戦います」

「ありがとう。ランケア」


 城門の外では大軍を率いてきたリーガが声を張り上げていた。


「我らは聖王さまの命により参上した。ペイドン辺境伯には国家転覆の疑いあり。速やかに投降せよ。罪を認めないというのなら武力行使に出る!」

「とんだ言いがかりだね。リーガくん」

「辺境伯」

「きみはそれでいいのか? ここには王弟であるキュライト公爵もいる。こちらは彼を人質に取る事も出来る」


 城門の上に立つウィリディスと、リーガは睨み合う。無理矢理押し入ろうと言うのなら王弟を人質に取るが構わないかと穏やかに言いながらもウィリディスは険しい目線を投げた。

 一足触発になりかけている二人の中に、割って入った者がいた。


「構わん。突入しろ」

「御意」


 リーガ率いる軍隊に聖王が含まれていた。ウィリディスに着いてきた私は聞き覚えのある冷酷な声を聞いて心を固めた。城門の上から相手を見下ろす。


「聖王さま」

「おまえは……!」


 私の呼びかけの声は眼下の聖王のもとまで届いた。誰だと言いながらこちらを見上げたこの国の王は驚愕に目を見開いていた。


「私は死んだものと思われていましたか?」


 父親の反応に胸が痛むことはなかった。記憶がなくて良かったと思うぐらい他人だった。


「いや。エリカ。どうしてここに……」

「非道な父親だよ。娘の言い分など何一つ、聞かないでご執心となった異世界人の娘の言いなりになって彼女を王宮から追放したんだからね」

「違う。あれは罰だ!」


 戸惑う聖王に向かって不敬にもウィリディスが言い放つと周囲がざわめいた。そしてウィリディスの隣に立つ私の姿を見つけて「エリカ殿下だ」「エリカ殿下がいる」と、声が上がっていく。

 きっと彼らはここに私がいることまでは知らされていなかったのだろう。リーガや聖王からこの地の領主の捕縛を命じられて同行したに違いなかった。


 領主がすんなり同行しなかった場合は強行突破で突入することまで組み込まれていたようで兵達が困惑の声を上げ始めた。「エリカ殿下がいるのに」と。

 私が王宮を追放されたのは5年前の事でも国中の者が知る出来事だったらしい。なかにはレブルのように私に同情している者も軍の中にはいるのだろう。

 兵らは自分達の指揮をとるリーガにどうしますか? と、最終判断を促しているようだった。


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