第41話・真実が晒されるとき


 もしかしたら聖王の興味半分に呼び寄せた異世界人は命を落としていた可能性もあるのだ。そしたら聖王は人殺しでもある。


「聖王となったおまえが狡猾なことを僕は良く知っているよ。シルト」

「我の名をどうして知っている? おまえは何者だ?」

「僕のことを忘れたのかい? 幼い頃は良く遊んでやったじゃないか?」


 周囲は静まり返っていた。誰もが聖王とここの領主を名乗る若者との関係を訝り注目していた。


「おまえなど記憶にない」

「そうだろうな。幼い頃からおまえは利用価値がある者にしか興味が無かった。興味が失せるとすぐに捨てていた。婚約者も、侍従も、兄弟の愛も」


 物のようにね。そういうウィリディスは皮肉に笑いかけた。


「僕はおまえから受けた仕打ちを忘れてないよ。おまえは先代聖王に強請ってこの地へやって来た。そして僕を置き去りにした」

「──義兄上? 嘘だろ?」

「ここはね、僕らの先祖代々より怨念が堪ってきた場所。歴代の聖王は時々、この地を慰安に訪れていた。あの日きみはここの遺跡にあるエメラルド石碑を見たいとせがみ、僕と一緒にやってきた。そしてエメラルド石碑には絶対に触れてはならないと言っておいたのに──」

「言うな。言うな──っ」

「ここに眠っていたものを起こしてしまい、きみを逃すために動いた僕をその場に捨ててきみは立ち去った」

「あの頃の我はまだ12歳で怖かったんだ。兄上がエメラルドの石碑に飲み込まれただなんて言えなかった」


 自分がしでかした事がバレるのを恐れて誰にも言えなかったと聖王は言った。


「聖王、あなたは兄上を見捨てたのか?」


 キュライト公爵が城壁の上に駆け上がってきた。聖王を憎々しげに睨み付ける。手にはむき出しの剣があった。


「答えろ! シルトっ」

「ひぃい! 誰か助けろっ」


 皆が聖王を注目していたが、皆事情を知ってしまった為か誰も庇う者は現れなかった。忠犬であるリーガですらも黙って見つめていた。キュライト公爵は聖王を拘束している茨の主軸となる蔓を切った。聖王はキェエエエと悲鳴を挙げ城壁の外へ転落していく。気を失ったようだ。それをリーガが受け止めていた。その彼にキュライト公爵は命じた。


「拘束しろ。聖王は今を持って退位して頂く。北の宮殿へ送れ」

「御意」

「兄上。どうかあなたが──」


 北の宮殿に恐らく聖王は幽閉されることになるのだろう。キュライト公爵が振り返った時、地面が揺れた。


「な、なんだ?」

「地震よ。落ち着いて」


 慌てる公爵らに声をかけながらも私は目眩がして立っていられなくなった。


「エリカ」


 手を伸ばすウィリディスに体を預けると、鮮明に何か飛び出して来た。脳裏の奥底に眠らせていたものらが。こちらを見つめる彼から離れたくなくて手を伸ばすと、その手を掴んで抱きしめてくれるウィリディスの存在が心強かった。


「ウィル」

「エリカ。大丈夫だ。きみを離さないよ。誰だ? 誰があの扉を開けた?」


 ズンっと大きく大地が揺れ、視界が歪む。施されていた魔術が滅びそうになっているのを感じた。


「これは──?」


 皆が立ち往生していた。今まで美しい景観を見せていた街並みや広大な土地がいきなり白黒の世界に変わった。皆が驚いていた。古びた街並みと古城以外、ここには何も存在していなかった。




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