第33話・主旨替えしたらどう?
「レブルさま。その部屋に何か御用でも?」
「あ。いえ、リーガが監禁されていると聞いたので、てっきりこの部屋にいるのではないかと?」
「レブルさまがおられる部屋はここではありませんよ」
「失礼致しました。この城は広くて迷ったようです」
レブルは地下階で見つけた部屋のドアに手をかけたところで背後から声をかけられて驚いた。
後ろに立っていたのは、領主に忠実な老齢の執事オーブリーだった。
「そちらは開かずの扉となっております。不用意に触れられないことをお勧め致します。リーガさまはこちらです。ご案内致します」
オーブリーに促されてその部屋の扉から手を離したレブルは、扉の向こう側からジャラっと金属が床に擦れる音を聞いたような気がした。
「こちらです」
オーブリーに案内されてきたのは一階の奥の部屋で、部屋の外には兵が立っている。兵はレブル達が近づくと頭を垂れた。
「こちらのレブルさまが中におられる方との面会を求めています。数分で宜しいですか? レブルさま」
「勿論です。すみません」
オーブリーは部屋の外で待つと言ったのでレブルは中へ入った。部屋の中でリーガは項垂れているかと思ったがいつもの彼と変わりなかった。腹筋をしていた。
「きみって奴はこんな時でもそうなのか?」
呆れたように声をかければ「することが何もないからな」と、苦笑気味に言葉が返ってきた。
「反省しようが後悔しようが自分のしたことは変えられない。あとはご領主さまの判断に従うまでだ」
リーガの罪を認めて罰を受ける覚悟は出来ているようだった。
「きみさ、暗殺者向きじゃないよ。手を引いた方がいい」
「何を?」
「大体、きみの事情は察しているつもりだ。そしてきっとご領主さまも僕らの狙いには気がついていると思う」
リーガは馬鹿真面目すぎる。彼は聖王に命じられてあのような行動を取ったとしか思えなかった。
「きみは演技が下手すぎる。エリカさまが切られて顔面蒼白になっていた」
元仕えていた主人の娘だ。そこに思うところがあったのは仕方ないと思うけど。と、言えばリーガの眉が寄せられた。
「やはりきみは赤毛の堕天使なのか?」
「その通りだよ。でもここにはきみとは違って殺人を命じられていない。きみはあいつの犬になるのは勿体ないよ。宗旨替えしたらどうかな?」
「私に聖王さまを裏切れと──?」
「きみは妻と娘が人質に取られているように感じて身動き取れないように感じているかも知れないけど、それらがもし、まがいものだったら?」
指摘するとリーガは青ざめた。彼も考えなかったわけでは無いのだろう。自分の感情に彼は正直すぎた。その性格は騎士団では好まれても謀の前では使えない。聖王は選択を間違えた。彼を使うべきではなかった。
ドアがノックされた。「そろそろお時間です」と、声が掛かる。
「じゃあ。私は行くね」
レブルが廊下に出るとオーブリーが待っていてくれた。
「お部屋までご案内致します」
「お気遣いありがとうございます」
オーブリーは、先ほどレブルが言い訳に使った「迷子になった」という言葉を忘れていなかったらしい。有能な執事を前にしてレブルは頭を掻いた。
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