第32話・僕の為に生きてくれ
「王宮騎士団長も大したことはないな。残念だよ。もう顔も見たくない。帰れ。行こうエリカ」
「なにを……!」
リーガはその言葉に憤りを感じたようで、私を連れてこの場を去ろうとしたウィリディスに向かって腰の剣を抜いて斬りつけてきた。
「ウィル! 危ないっ」
「──!」
咄嗟に彼を庇った背に熱い衝撃が走った。驚くリーガと、「エリカっ」と、呼びかけながら崩れ落ちる私の体を抱き留めたウィリディスの悔しそうな顔が薄れゆく意識の中にいつまでも残っていた。
「エリカ。エリカっ」
「……ル?」
「ああ。良かった。僕がわかるかい?」
気がついたら寝台の上にいた。ベッド脇にはウィルがいてこちらを覗きこみ、私の利き手を両手で握りしめていた。
「私……」
あれからどうなったのだろう? そう思う私を気遣うようにウィリディスが教えてくれた。
「あれから二日経っている。きみを害したリーガは監禁した」
「……そう」
ウィリディスに危害を加えようとしたリーガにはもう好印象なんて持てそうになかった。庇う気もない。もともと彼には楯突くような態度しか取られてなかったし、彼も私に庇われたいと思わないだろう。リーガのその後の判決はウィリディスに任せようと思った。
「奴に斬りつけられた部分は綺麗に修復したから痕は残らないと思うけど痛みはある? 気持ち悪い?」
「痛みはないわ。ただ、ちょっとだけ頭がぼうっとしているような気がする」
「きみが無事で良かった。このまま目覚めなかったらどうしようと不安になった」
「そしたら眠り姫みたいね」
「それは笑えない冗談だよ。エリカ」
不謹慎だとウィリディスが責めるように言う。
「あら。どうして? 眠り姫は王子さまの愛あるキスで目覚めるって言うじゃない?」
「僕は何度もきみにキスをした」
「そうだったの。ごめんなさい。気がつかなくて」
「きみを失ったら僕は生きていけないよ。この地を再び不毛の地にしてしまうかも知れない」
「ウィリディス。それは止めてね」
「じゃあ、僕の為に生きてくれ」
切なさを秘めた瞳に懇願されて私は頷いた。
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