第28話・疑い
聖王に妻は大層可愛がられている。そのおかげで色々と恩恵を受けられることに仲間の騎士達からは羨ましがられてもいた。それが彼としては居心地の悪さを感じとってもいた。
最近、聖王とエリカ、そして子供の中にいると自分だけが異物のように思われてならないのだ。それはきっとモニカの影響が大きいと思われる。自分達夫婦は金髪、黒髪なのになぜか娘は銀髪に紫の目をして生まれてきた。もしかしたらと思ったこともある。仲間の一人が、エリカが聖王の寝室から出て来たのを目撃した。と、面白可笑しく吹聴していたので。その時は信じられなくて仲間を殴打したが、もしかしたらと疑念はついて回った。
でも、エリカはリーガの疑念を払うようにいつもこう言っていた。
「私の祖父は黒髪に黒い目をしてなかったのよ。私がいた世界ではこちらの世界の人のように金髪に青い目をした人もいたし、灰色の目をした人もいた。茶色い目をした人もいたし、赤毛の人もいた。そんな人達が混じり合って私は生まれたから別におかしくともなんともないのよ」
意味不明だった。何だか分かったような分からないような、エリカの住んでいた世界とはそういうものだと言われてしまえば、その世界を知らない自分は信じるしか出来なかった。
惚れた弱みもある。エリカは絶対の自信を持っていたようだし、その事を聖王に相談したところ、異世界とはそういうものだろうと言われ、逆にそのようなことで悩んでいるリーガの方が狭量な言い方をされて終わった。
『おまえになら異世界人であるエリカを託せると思ったのだが──』
と、深いため息を漏らされてその場をすごすごと引き下がることしか出来なかった。その背に掛けられたのは自分を失望させてくれるな。の一言。それは重くリーガにのし掛かってきた。
それでもモニカは聖王に良く似ていてモヤっとするのだ。聖王にお世話になっておきながら、まるで嫁の実家に身を寄せているような落ち着かない気にさせられる。
「リーガ。どうした? あまり食事が進んでないようだが? 好みではなかったか?」
壮年に差し掛かる銀髪に青い目をした美中年の聖王は常にリーガを気に掛けてくれる。それは有り難い一方でうっとうしくも思われた。
「あ。いえ。嫌いではないです」
食事に好き嫌いのないリーガとしては曖昧に応えることしか出来ない。
「遠慮しないで食べよ。これは遠方から取り寄せた珍しい食材なのだよ。ホッケスという魚を焼いたものだ」
聖王がエリカを見る。エリカは嬉しそうに微笑んでいた。何だかそれが癪に障る。夫よりも聖王に全面的な信頼を寄せている妻の様子にイラッとくる。それを口に出す訳にはいかないが。
「おとうさま。ぐあいがわるいの?」
「モニカ。大丈夫だよ。気にしないで食べなさい」
娘のモニカが聖王の言葉に心配したように言ってきた。父親想いの良い子だ。娘はいつもリーガを気に掛けてくれる。通常ならは愛する妻に、可愛い子に恵まれて幸せだと言える環境だろう。でも、一滴のシミのような疑いが胸の隅に蟠っていつまで経っても拭えずにいた。
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