第16話・5年前の真実
「ウィル。あなたの負けね」
「エリカ。きみはそれでいいの?」
「エリカさま。私の連れが失礼なことを申しあげました。お許し下さい」
ため息を漏らした私を窺うようにウィリディスは言い、レブルはリーガの態度について謝ってきた。
別に謝って欲しいわけではなかった私は、こちらを見据えるリーガの態度に不審なものを感じた。
「あなたは私を良く思ってないのね? 記憶を無くす前の私はあなたに何かしたのかしら?」
「あなたは彼女を虐めていた」
「虐め? 彼女って?」
「記憶のないあなたに言っても仕方ないことかも知れないが、あなたは異世界から来た彼女を虐待していた」
虐待と言う言葉を聞いて身が竦む。私が加害者だった? 記憶がないだけに、他人に対してそのような事をしていただなんて信じたくはなかったが、もしもそうなら申し訳なく思った。
「ごめんなさい。覚えて無くて……」
「あなたは俺たちが苦労をしている間に記憶を無くし、自分がやったことをなかったことにしようとしているんだ」
そんなこと許せるものかと、リーガは批難してきた。彼は私が記憶をなくしている間も、ずっと彼女は苦しんできたと言う。
「止せ。リーガ。それにその事についてエリカさまは十分罰を受けた。今更、何を言い出すんだ? 冷静になれ。リーガ。おかしいぞ」
レブルがリーガを諭そうとする。リーガは口惜しそうに唇を噛みしめていた。私はリーガから恨みを買っていることが気になった。
「私は一体、何をしたというのでしょう? 教えて下さい。レブルさん」
「それは……」
私はここに来る以前の記憶がない。リーガは私を憎々しげに睨んでくるし、記憶がないからと知らないままでいるのも気が引けた。レブルはウィリディスを見る。夫は私の最大の保護者だと理解しているからだろう。ウィリディスは私が過去に触れることを良く思っていない。でも私と目が合い、渋々頷いた。ウィリディスの許可が下りたことでレブルは意を決したように言った。
「5年前あなたさまは王宮を追われました。その理由は王宮で保護されていた異世界人エリカへ虐待を行っていたと言うものです。あなたさまの父親である聖王さまが激高されて追放処分が言い渡されました。あなたさまは無実を訴えていましたが聞き届けられることはなく勘当されて着の身着のまま追い出されたと聞いています。当時、それはやり過ぎではないかと王弟であるキュライト公爵が聖王さまを説得し呼び戻そうとしましたが、最後まで聞き届けられることはなかったようです」
「そうだったの……」
実の父親に勘当されるぐらい自分は酷い娘だったらしい。情けなくなってくる。
レブルは私に同情的だった。言葉を選んで伝えてくれようとしているのが分かった。リーガは私への処分は手ぬるいように思えたようで憤りを隠さなかった。
「それは当然だ。よその世界から来て頼る相手もなく心細い思いをしていた相手を虐めていたのだから。処分は甘かったくらいだ」
それに対し、ウィリディスが馬鹿馬鹿しいと言い捨てた。
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