第15話・私は契約を違反してはおりません


「それのどこがいけない? ここは僕が治める街だよ。僕が彼女の提案を受け入れた。きみのような者にあれこれ言われたくはないね」


 ウィリディスはリーガに辛辣に言った。よそ者は引っ込んでいろと言いたげだった。


「あーっ。あれは何ですかね? あの鳥や馬の頭の形をした青銅色の長い柄のついたやつは」


 ウィリディスとリーガの不穏雰囲気を察して、レブルは話題を変えようと私に聞いてきた。


「あれは手押しポンプよ。あれで水を汲むの」

「へぇ。珍しい。あんなの初めて見ましたよ」


 レブルは街の至るどころで見受けられる馬や鳥の頭をした手押しポンプに興味を示した。街の人や私達には馴染み深い手押しポンプだ。それもレブルには物珍しいらしい。


「良かったら使ってみる?」

「ぜひ」


 背後で睨み合っている二人を置いて私達は、馬の頭をした手押しポンプの前に来た。


「へぇ。この柄の部分を持って上下に動かすんですね? うわあ。井戸よりも簡単に水が汲める」


 レブルが馬の頭をした手押しポンプの尾の部分を使って上下に押す。水がすぐに出て来て驚いていた。


「わお。虹が出た」


 水を出していたらそこに小さな虹がかかる。二人で盛り上がっていたらウィリディスとリーガもやってくる。

 好奇心旺盛なレブルは、今度は側溝を覗きこみ、赤いひらひらした小さな魚に目を留めていた。


「側溝に観賞魚ですか?」

「可愛いでしょう? 金魚が泳いでいるのはこの広場の側溝だけです」


 可愛いし、癒やされるでしょう?と、言えばレブルは訝る様子を見せ、リーガは睨み付けてきた。


「観賞魚はキンギョというのですか?」

「そうよ。金魚は知られてないのかしら?」


 レブルが感心する脇でリーガが冷たい言葉をぶつけてきた。


「それも彼女があなたに言ったことではないか。それを自分が考え出したかのように伝えるとは」


 彼は嫌悪感丸出しだった。


「おいおいリーガ。きみ変だよ。さっきから何を言っているの?」

「エリカを害するようなら出て行ってもらおうか?」


 レブルはリーガを諫めようとし、ウィリディスは私に対する態度を改めないようならここから出て行ってもらいたいと言う。それに対し、リーガはほくそ笑んだ。


「別に私は契約を違反してはおりませんよ。ご領主さま。あなたの奥方さまの過去には触れていませんので」


 確かにウィリディスは彼らの滞在理由として私の過去に触れないことをあげていた。リーガは私の過去を直接持ち出しているわけではない。


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