第14話・ある人の案を盗んだのですよね?


「へぇ、これが水道橋なのですね」

「ええ。この橋を通して街に水を運んでいるの」

「ほお。これってかなり昔の?」

「そうよ。ここはあなたが探し求めるエルドラント遺跡を活用して成り立っている街なのよ」


 街の様子を知りたいと望んだレブルの為に、案内をすることになった。遺跡の幾つか残されたこの街に学者であるレブルは興味津々だ。その彼に色々と説明をしている私の後ろにしかめっ面をしたウィリディスと、不機嫌そうなリーガがついてくる。


「凄いです。この水道橋のおかげで各家庭に水が供給されているのですね? 昨晩は驚きましたよ。お風呂の蛇口を捻ったら水が出て来たのですから。王都でさえ、バスタブにお湯を張るのには結構な時間がかかるというのに、ここでは蛇口を捻れば水が出て、火魔石をその中に放り込めば適度なお湯になるのですからビックリですよ」


 先進都市とされる王都でも水の扱いはここほど進んでいないとレブルは言った。王宮や貴族の館でも、使用人が外にある井戸から水を汲み、それを調理場で湧かしたものを浴室まで行き来して運ぶので相当な労力と時間がかかるという。

 それがここでは蛇口を捻れば水が出てくるのだから便利だとレブルは言った。


「これはエリカのアイデアで出来たものなんだ」

「奥さまが考えられたのですか? 素晴らしい」


 興奮するレブルに、ウィリディスは私が考えついたことだと自慢するように言う。レブルに褒められて気恥ずかしく思った。


「私はただ提案しただけよ。もっと簡単にする事は出来ないかしらって」


 記憶喪失でここに来たばかりの頃、屋敷の人達が自分の為に浴室に湯を張るために、井戸から汲んだ水を食堂に持ち込んで湯を沸かし、湧かしたお湯を浴室にと階段を上り下りして運ぶのを見て大変そうに感じていた。


 手伝いを申し出たら「奥さまにそんなことはさせられません」と、拒まれてしまうし、せめて皆の不便さを解消出来ないかとウィリディスに相談したら「具体的にどんなものならいい?」と、聞かれて何となく頭に浮かんだ事を伝えただけなのだ。それを形にしたのはウィリディスだ。

 しかも彼は古城だけではなく、この街に住む人達のためにも水道の設備をしていて、数ヶ月後には街中にも水道が行き渡るようにしていた。


「凄いのはウィル。あなたよ。私が言ったことを実行してしまうんですもの」

「さすがはご領主さま。なかなか出来ないことですよ」


 三人で会話が弾む中、そこへリーガが怪訝な声を上げた。


「奥さま。それはあなたの発案ではないですよね? ある人の話を聞いて真似たのではないですか?」

「リーガさん?」


 リーガは私を批難する。彼は静かな怒りを胸に宿しているように見えた。まるで私が誰かの案を盗んだかのような言い方だ。

 私には身に覚えがないと言いたい所だけど、記憶がないだけに言い切る自信がなかった。頭に浮かんだことをウィリディスに伝えたわけだから、記憶を失う前の私が誰かから聞いていたとしてもおかしくはない。

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