第17話・きみ魅了されているよ


「ふ~ん。その異世界人の娘だが、今や聖王さまの養女となり実の娘のように可愛がられて贅沢三昧だと聞いているよ。それのどこが苦労しているのかな? 聖王の娘婿となったリーガくん?」


 ウィリディスの言葉に驚いたのは私だけだった。レブルも彼の素性を知っていた様だ。


「ご領主さま。あなたは私のことを知っていたのですか?」

「僕を甘く見ないで欲しいね。住んでいるところは君らから見れば辺地に思えても、情報には困らないんだよ」


 ウィリディスの言葉に、リーガは片眉を上げた。


「きみの評判もここまで聞こえてくるよ。仕事には生真面目で忠実な男だと。聖王さまが好むわけだ」


 きみは聖王にとって便利な駒の一つでしかないんだよとウィリディスは指摘する。


「実直な性格が悪いとは言わないけど、きみの思う正義が世の中全てに当てはまると思ったら大間違いだよ」


 痛い目にあわないように気を付けるんだねと言いつつも「でももう遅いか」と、物騒なことを呟く。


「リーガくん。きみはエリカには接触を禁止するよ。きみはレブルくんが言っていた通りどこかおかしい。エリカが絡むと冷静ではいられなくなるようだ」


 そう言ってウィリディスは、リーガの目前で指を鳴らした。


「きみ魅了されているよ」


 それを聞いてリーガは愕然としていた。


「魅了? それは禁術では?」


 信じられないといった顔をするリーガに、レブルはやはりおかしいと思っていたんだと言い出す。


「きみはエリカ姫の話題が出ると、平常心を失うことが度々あった。ここに来て少しは落ち着いたかと思ったんだけどね」

「私が魅了された? いつ、一体誰に?」


 皆がリーガの様子が尋常でないと思い始めた中、本人だけが納得が行かないようだ。


「それはたった一人しかいないだろうよ」

「エリカ姫。あなた、まさか私に?」


 ウィリディスの言葉になぜか彼は私をねめつける。今でかつてない悪意を向けられて戸惑う私をウィリディスは自身の背に隠した。


「それはあり得ないよ。それに何かい? きみは嫌っているエリカが、きみに惚れてもらうために魅了魔法をかけたとでも? あり得ないよ。彼女はずっと僕と共にいたんだからね」

「ここに来る前のことならあり得なくもないはず」


 リーガは私を疑っていた。何が何でも私を悪く思いたいようだ。


「でも仮にそうだとしたらおかしいわよね? もし私がリーガさんに魅了魔法をかけていたのなら、あなたは私のことを好きになってないとおかしいんじゃない?」

「……!」

「彼女は常に僕といる。可能性があるとしたらもう一人のエリカの方だろうね。きみには良く分かっているはずだ」

「エリカが……? うそだ。嘘だろう?」


 リーガは顔色を変えた。もう一人のエリカってどういうことだろうとウィリディスを窺えば、「きみのことじゃないよ」と、答えが返ってきた。

 私と同じ名前の者がもう一人いる?


「レブルくん。今日はこの辺でいいかな? 城に戻るよ」

「はい。申し訳ありませんでした」


 レブルはウィリディスの機嫌を損ねたことに気がついたらしい。ぶつくさ言っているリーガの背を叩く。


「戻るってよ。リーガ。しっかりしろ」

「……ああ」


 あ然とするリーガをレブルは半ば引きずるようにして私達と古城に戻った。


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