第5話・悪夢
私はある世界で女子高校生と言われるものだった。同じ世代の子が通う高等学校と言う義務教育を受けていた。一部のクラスメートと仲がよくある日の下校時、学校近くの喫茶店に行く約束をしていた。
テラス席を確保してそこで皆と、学校で気になる異性の話や、恋話で盛り上がるのが定番だった。
将来のことを思うと不安は沢山あったけど、皆で共有する時間は楽しかった。それがずっと続くのだと思っていた。ところがある日、それが一転する。
下校時に光の輪が足下に現れて私を拘束し、皆と引き離した。皆の名前を呼びながら私は光の輪の中に引きずり込まれ、気がつけば大理石の床の上で横たえていた。
目の前には杖を持った銀髪に紫色の目をした中年の男がいて「成功した!」と、喜びの声をあげている。その脇には彼と同じ髪色に瞳をした娘がいた。
その娘の顔は髪の色や瞳の色は違えども自分によく似ていた。凝視すると、娘は驚いて口元を両手で覆っていた。
銀髪に青い目をした男は聖王と呼ばれるこの国の王さまだった。彼女とは仲良くなりすぎた。その後に悲しい目に合わされるとも知らずに────。
「エリカ。どうした?」
「あ。何だか悲しい夢を見ていたみたい」
真夜中に目が覚めて頬を伝う涙に気がつくと、隣に寝ていたウィリディスがすぐに反応を見せた。
「怖い目にでも合わされた?」
「良く分からない。せつないような思いをしたような気がする」
涙の原因はよく分かっていない。でも、ぼんやりと強く悲しいことがあったような気がするのだ。
「僕がきみの夢の中に入り込めたならね。きみを泣かせた奴から守ってみせたのに」
「この国最大の魔術師さまでも出来ないもの?」
「ごめん。夢の中は僕の管轄外なんだ。これで許して」
ウィリディスは私を胸元へと引き寄せた。
「おまじないをしてあげるよ」
額にキスを落とされる。
「これでもう悪夢は見ないはずだよ。安心してお休み」
「ありがとう。ウィル」
「今度こそ。いい夢を」
彼の優しいキスが瞼にも落とされた。願いのような彼の言葉は私の胸に染みていった。
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