第3話・愛されて
ウィリディスの首に腕を回したら、瞬時に天蓋付きの寝室まで運ばれていた。転移したのだ。気がつけば背中からシーツの上に下ろされていた。
「あ。駄目。ウィル……そろそろ起床の時間」
「誰も僕らの邪魔はしないさ」
彼の熱で潤んだ瞳が貪るように唇を触れあわせてくる。こうなるとなけなしの抵抗なんて意味が無い。彼のいいようにされてしまう。彼の頼りがいのある体には縋り付きたくなる。
「エリカ。愛している」
「ウィル……」
彼の乞うような瞳には真摯な思いが宿って見えた。ウィリディスとは結婚して5年目。それは政略的なものだった為、真実夫婦となったのはここ最近のこと。
夫に愛されている喜びを知り、それだけで自分は幸せに浸っていた。
それでもウィリディスとしては不満があるようで「エリカは僕を愛しているの?」と、聞かれることもある。
それに勿論と頷くことは出来ても、自分から彼に「愛している」とはなかなか言い出せなかった。
自分としては愛について、軽々しく口にしてはいけないような言葉の重みを感じていたのだ。
「エリカ……!」
自然と結ばれた互いの手。この手はこれから先も離れることがないことを私は知っている。この手が離れるときがあればそれはウィリディスの想いが私から離れた時。彼がこちらを見ていた。普段は何もかも見透かしているような理知的な瞳がこわごわとわたしの反応を窺っているように思えた。
「エリカ?」
自信家の彼は私のこととなると途端に弱腰になる。私が彼をどう思っているのか気になっているらしい。私の愛を疑っているの? 私にはあなたしかいないのに。そんなの気にしなくても良いのに。
私はウィリディスとの愛に疑いなんてもったことはない。彼の愛に満足している。彼の愛に満たされているのだ。不満なんかない。子供のように縋ってくる彼の頬が、髪が愛おしかった。
「ウィルと離れたくない」
「可愛いことを言ってくれるね。エリカは」
こんなにもあなたが恋しいんだもの。離れることなんて考えられない。これはもう愛していると口にしてもいいのだろうけどまだ口には出来なかった。
もう少しだけ、もう少しだけ時間が欲しいの。
「駄目だよ。挑発したら。放してあげられなくなるよ」
ウィリディスがいたずらっ子のような笑みを浮かべている。
「ウィル。大好きよ」
「……仕方ないな。それで許してあげる」
ウィルの想いと同じくらい、いえ、それ以上にあなたを想っている。でも、それを口に出すのだけはまだ違うような気がしている。明日になるか、1年後のことになるか分からないけどきっと、あなたにこの口で伝える日はそう遠くないような気もしている。
だからねぇ、待ってウィル。いつかきっと私、あなたに伝えたい。愛しているって。
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